第79話 忘れていた誕生日
コテージに戻ると、いきなりクラッカーの破裂音が響いた。
『誕生日おめでとう!』
目の前には、カラフルな装飾が施された部屋と、大きなバースデーケーキが置かれたテーブル。紙のガーランドが壁を彩り、ジュースや軽食がきれいに並べられていた。
まるでどこかのパーティー会場みたいに、温かくて賑やかな空間が広がっている。
「……誰か誕生日なのか?」
戸惑いながら部屋を見回すと、ヨシノリが信じられないといった顔でため息をついた。
「あんたの誕生日なんだけど」
「……俺の?」
自分を指差して、改めて皆の顔を見る。まさかと思って振り向いてみると、アミと喜屋武が笑顔を浮かべて頷いた。
「はい、お誕生日おめでとうございます、カナタ君」
「ドッキリ、大成功さーねー!」
俺は思わず唖然とした。まったく予想もしていなかったサプライズだった。俺が驚いた顔をしているのを見て、皆は嬉しそうに笑っていた。
「それではここで一曲弾かせていただきます!」
アミが玄関に置いてあったアコースティックギターを手に取り、静かに弦を弾き始めた。どうやらコテージに備え付けられていたものらしい。優しい音色が広がり、バースデーソングを奏でる。気づけば、皆も一緒になって口ずさんでいた。
頭を掻きながら戸惑っていると、ゴワスが肩をすくめる。
「自分の誕生日すら覚えてないとか、自分のことに無頓着すぎんだろ。買い出し行かせたのも、この準備のためだったんだぜ?」
「あー、そういうことか……」
なんとなく違和感があった買い出しリスト。必要なさそうなものが混じっていたのは、時間稼ぎのためだったのか。
「ま、何はともあれ、こうしてちゃんと祝えてよかったよ」
ナイトが腕を組んで満足そうに頷く。隣では愛夏が頬を膨らませていた。
「お兄ちゃん、もっと感謝していいんだからね? 私、飾り付けめっちゃ頑張ったんだから」
「そうそう。愛夏ちゃん、めちゃくちゃ働いてたからね」
ナイトが笑いながら言うと、愛夏は少し照れたように目をそらす。
「ふん、お兄ちゃんって誕生日に現金欲しがるタイプだったせいでこういうのやらなかったから、やってみたくなっただけ」
照れ隠しなのは明らかだったけど、その気持ちが素直に嬉しかった。
ぶっちゃけると、誕生日に関して何か特別な思い入れがあるわけではない。
ただの個人情報の一つ。その程度の認識でしかなかった。
だからこそ、友人たちに誕生日を祝われるというのは新鮮な気分だった。
みんなが自分のために準備をしてくれていた。こんな風に祝われるのは、初めてのことだったのだ
「ありがとな、みんな」
「んじゃ、乾杯しよーさ!」
喜屋武の掛け声で、ジュースの入ったグラスを手に取る。
「カナタ、誕生日おめでとう!」
みんなの声が重なり、プラスチックのコップ同士がコツッとぶつかる音が響いた。