表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/183

第76話 海風のイタズラ

 着替えを済ませた俺は、先に更衣室を出て、海の風に当たりながらみんなを待っていた。

 潮風が心地よく、俺はふと遠くを眺める。夕方の気配が近づくこの時間帯は、どこか懐かしさを感じさせた。

 なんだか、小学校のときに近所のプールへ行っていた頃を思い出す。

 あのときもヨシノリは、面倒だからと水着を服の下に着こんでいた。懐かしい思い出だ。

 そんなことを考えていると、ふと違和感がよぎった。なんか、既視感がある。

 何があったか思い出せそうだったそのとき、女子更衣室から。


「お、お待たせー……」


 ヨシノリが、アミと喜屋武に挟まれるような形で出てきた。

 だが、その表情が妙にぎこちなく、顔が赤い気がした。夕陽のせいではなさそうだ。


「ヨシノリ?」


 俺が首を傾げると、ヨシノリは耳まで真っ赤にして俯いてしまった。

 そして、俺はすぐに察する。

 ヨシノリは服の下に水着を着ていたが、替えの下着を忘れたんだろう。

 つまり、今の彼女がぎゅっと抑えているオレンジ色のスカートの下には……何もはいてない。

 俺は軽く息を吐きながら、自分が羽織っていた七分丈のシャツを脱ぎ、ヨシノリに差し出した。


「薄手で心許ないだろうけど、腰に巻いとけ」


 ヨシノリは一瞬驚いたように俺を見つめる。


「今は割と風強いし、スカートをガードしとかないとやばいだろ。ほれ」


 彼女は黙ってシャツを受け取り、きゅっと腰に巻いた。袖の部分を前で結び、スカートが風で翻らないよう、しっかりと固定する。


「……ありがと」

「お前、小学校のときも夏休みにプールで同じことしてたもんな」

「うぐっ……!」


 違うことがあるとすれば、あの頃は平気な顔してノーパンで帰っていたことくらいだろうか。


「まるで成長していない」

「バスケやってるあたしにそれを言うのは皮肉のつもりか……!」


 彼女は口を尖らせて言い返すが、顔はまだ赤いままだ。

 そんなやり取りをしていると、不意に海風が俺たちの間を吹き抜けた。


「ひゃっ」


 ヨシノリが小さく声を漏らす。

 腰に巻いたシャツのおかげで後ろのガードは大丈夫だった。しかし、それが仇となった。ヨシノリのスカートは前側の布地だけが風に煽られ、ふわりと舞い上がる。


「わわっ!?」


 ヨシノリが慌ててスカートを押さえようとする。しかし、時すでに遅し。

 オレンジ色のスカートが風に舞い上がった瞬間、視界に飛び込んできたのは、水着の日焼け跡がくっきりと残るヨシノリの素肌だった。

 大きく広がった太もものラインは、夕陽に照らされて淡い琥珀色に輝いている。

 水着で隠れていた部分との境界線がはっきりと浮かび上がり、その先には何の隔たりもなく、一度だけ見たことのある秘めた部分が露わになっていた。

 なんというか、ちゃんと処理とかしてんだなぁ……。

 俺は反射的に視線を逸らそうとしたが、一瞬の出来事に脳が処理しきれず、視線が宙を彷徨う。


「……見た?」


 ヨシノリの震える声が、俺の耳に届く。彼女の顔は真っ赤な顔で、ゆっくりと俺を睨む。


「いや、俺は何も――」

「見たよね! 絶対見たよね!?」


 真っ赤な顔のまま、ヨシノリは俺に詰め寄ってくる。左手はスカートを抑え、右手の拳はぎゅっと握りしめられた。


「~~~っ!」


 次の瞬間、ヨシノリは殴り掛かってくる……かと思いきや、俺の胸元に軽く拳を押し当てるだけだった。


「……えっち」


 かすれる程小さな声でそう呟くと、ヨシノリはそのまま俯いてしまった。

 俺は一瞬、何が起きたのか理解できずに硬直する。

 ヨシノリは顔を上げず、恥ずかしさを振り払うように深呼吸をした。


「……ほら、行くよ。帰りは責任もってスカートガードしてよね」


 まだ頬を赤く染めたまま、そっぽを向いて歩き出すヨシノリ。


「おう……」


 俺も脳裏にちらつく先程の光景をかき消しながら、彼女の後に続いた。

 潮騒の音が、どこか遠くから響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ