第74話 ポッコリお腹
俺は砂浜にへたり込み、大の字になる。
「もうダメだ。疲れた……」
青空が視界いっぱいに広がり、照りつける日差しが肌にじりじりと焼き付く。
「カナタ、体力なさすぎでしょ。エレベーターアクションでの根性はどうしたのよ」
「あのときは俺も必死だったんだよ」
何せヨシノリとの今後の関係性が決まる大一番だったのだ。
無理をしたおかげで、次の日は筋肉痛で悶絶したくらいだ。
「というか、お前らは体力ありすぎだろ……」
俺は軽く息を整えながら、周りを見渡した。
ヨシノリは涼しい顔でタオルを肩にかけ、汗を拭っている。
ナイトは余裕たっぷりに髪をかき上げ、相変わらず爽やかさ全開だった。ゴワスも砂浜に座ってはいるが、まだまだ余裕がありそうだ。
「体を動かすのは結構好きなんです」
アミが穏やかな笑みを浮かべながら、飲み物を手に軽く体を揺らす。おー、体と一緒に胸も揺れてるがな。
「わんは昔から島中駆け回ってたからなー!」
喜屋武は無邪気に笑いながら、海辺を駆け回る子供たちを見つめる。
俺は改めて思った。この場にいる人間、運動部率が異様に高い。
ヨシノリとゴワスはバスケ部で、愛夏は陸上部。ナイトはサッカー部。
アミと喜屋武は軽音部のはずなのに、無駄に体力があった。
「アミ、お前はこっち側かと思ってたのに……」
「私はギターボーカルなので、日頃から体力を付けるようにしているんです」
「マジかぁ……」
ナイトがそんな俺を見て笑い、場をまとめるように提案した。
「まあ、時間的にお昼にちょうどいいし、交代でご飯でも買いに行こうよ」
それから俺たちは男女ペアで分かれて屋台を巡り、料理を購入してきた。
屋台では、鉄板の上でジュウジュウと音を立てる焼きそば、こんがり焼かれたイカ、香ばしいフランクフルトの香りが漂い、否応なしに食欲を刺激する。
「それじゃ、いただきまーす!」
集合した後、全員がそれぞれの料理を手にして食べ始める。
俺は焼きそばを箸でつまみながら、ふと隣のヨシノリを見る。
「お前、どんだけ食うんだよ」
ヨシノリの手元には、大盛りの焼きそば、焼きイカ、フランクフルト、かき氷、さらにはカットパインまで並んでいた。
毎度のことだが食い過ぎじゃないか、こいつ。
「ていうか、お前、ちょっとお腹出てきてない?」
「……え?」
俺の指摘に、ヨシノリの箸がピタリと止まる。
視線をそっと自分の腹に向け、まじまじと確認すると、そこにはほんのり膨らんだお腹があった。
「や、やばっ……」
慌ててパーカーの裾を引っ張り、お腹を隠すヨシノリ。
「えっち」
「はん、破壊力の高い技は連続使用すると威力が落ちる。オーバーヒートは三発撃てばとくこう六段階ダウンだ」
「いや、ゲームで例えられてもわかんないから」
それでも、ゲームの例えということくらいはわかるらしい。
「じゃあ、あたしのお腹見る?」
そう言いながら、ヨシノリはパーカーを軽く持ち上げ、お腹をチラリと見せる。
「げほっ、けほっ……! やべ、鼻にソーダが……げほっ!」
勝利を確信して炭酸を飲んでた俺は、不意打ちを食らって盛大にむせた。
ヨシノリは満足そうに笑いながら、フランクフルトにかぶりついた。
「あははっ、大丈夫。ちゃんとパーカーで隠すから」
「……そういう問題じゃないだろ」
俺が呆れた顔をすると、ヨシノリは気にする様子もなく焼きそばを口いっぱいに頬張る。
「うーん! 海で食べる焼きそばって、何でこんなに美味しいんだろ!」
「〝海での食事〟っていう情報を食ってるからだろ」
「うんまぁ!」
「聞けよ」
ヨシノリは満足げに目を細めながら、次に焼きイカへと手を伸ばした。
「ほら、カナタもちゃんと食べないと、またバテるわよ?」
「あー、はいはい……」
俺は諦めて焼きそばを口に運ぶ。
確かに、海辺で食べると、普段よりも格別に美味しく感じる気がする。
そんな中、ナイトが笑いながら呟いた。
「なんか、こうしてると本当に夏って感じがするよね」
その言葉に、俺は焼きそばを頬張りながら、改めて周囲を見渡す。
青く広がる空、きらめく海、そして笑い合う仲間たち。
体力を使った分、収穫は多かった。これだけ全力で楽しめるのなら、小説の糧になる。