第73話 貴重な資料
照りつける太陽、潮の香り、はしゃぐ声。
海水浴客で賑わう砂浜の一角で、俺はビーチパラソルの下から、みんなの姿をぼんやりと眺めていた。
海風に吹かれて揺れるタオル、波打ち際を走り回る子供たちの声。
そんな夏らしい風景の中、俺の視線は自然と一点に吸い寄せられていた。
水着姿のアミと喜屋武が、波打ち際ではしゃいでいる。
アミの水着は白地に青い花柄のビキニ。どこか品がありつつも、その胸元の存在感は隠しきれていない。
喜屋武は沖縄っぽい柄のホルターネックビキニとパレオ。沖縄美人で快活な彼女には、まさにぴったりな格好だった。
二人して水を掛け合いながら笑い転げる姿は、まさに青春そのものだ。
「バンド百合ものか」
アミと喜屋武の組み合わせなら、それも悪くない。
性格的には反対であり、どこか似た部分もある二人。どちらも音楽への情熱を持っていて、共に支え合えるような関係性。
この組み合わせを軸にした物語はきっとウケる。
バンド活動の描写については、アミと喜屋武に協力してもらいつつ、軽音部に取材でも行けば……でもなぁ。
「俺、百合苦手なんだよなぁ」
別に百合作品にきちんと面白いものがあるのはわかっているのだが、不自然なくらい男キャラが出てこない作品は気になって内容に集中できないのだ。
いや、苦手意識なんて持っている場合じゃない。それが有効な手である以上、使わないのは作品に対する冒涜だ。
百合とは別にきちんとした主題がある物語ならイケる。何なら一旦男主人公で書いてから、主人公を中性的な女の子に変換して書けば問題ないはずだ。
「カナタくーん!」
作品作りに没頭していると、不意に名前を呼ばれた。
顔を上げると、アミがこちらに向かって手を振っている。
その体から滴る水が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
そして、その胸がばるんばるんと、文字通り縦横無尽に揺れている。
柔らかそうなそれが、重力と弾力のせめぎ合いを繰り返しながら、アミの胸元で跳ねるように揺れていた。
ふむ、素晴らしい景色だ。写真に撮っておこう。小説の糧になる。
「わっ、きゃっ!」
その瞬間、アミの足がもつれた。
バシャッ、と音を立てて、彼女の体が波間に沈んだ。
「アフロン! 大丈夫ね!?」
喜屋武が驚いた様子で駆け寄り、手を差し伸べる。
アミは海水に濡れた顔を上げ、少し咳き込みながら起き上がる。
「い、いたた……。あれ? なんか、胸が……スースーするような……?」
その瞬間、世界が止まった。
アミのビキニの紐がほどけ、その規格外のサイズの胸が丸出しになっていた。 陽光を浴びたその肌は眩しく、滴る水が曲線を描くように流れていく。
俺は完全に固まった。
風の音も、波の音も、何もかもが遠のいていく。
「あ、アフロン、かくさんと! 出ちゃってる、おっぱいが出ちゃってるさ!」
喜屋武が叫びながら、手をバタバタと振る。
「~~~~っ!!」
アミが顔を真っ赤にしながら海から飛び出す。
濡れた髪が頬に張り付き、潤んだ瞳がこちらを捉えた。
そして、アミは俺の前まで駆け寄り、叫んだ。
「カナタ君っ! 見ちゃいましたか!?」
俺は真剣な顔で頷いてサムズアップする。
「ありがとな! 貴重な資料にさせてもらう」
「いやあぁぁぁぁぁっ!」
アミの絶叫が、青空の下に響き渡った。
その後、騒ぎを聞きつけたヨシノリと愛夏によって俺は灼熱の砂浜に埋められるのであった。