第71話 海での青春資料
ナイトとゴワスがナンパ男たちのもとへ向かうのを横目に、俺は改めてスマホの画面を確認した。夏の日差しが画面に反射して、少し見づらい。
手で日よけをしながら、指でスクロールする。
カメラロールには、俺が撮った写真の数々が並んでいる。朝からのビーチでの一日を切り取った瞬間の連続だ。
海に飛び込むみんなの姿、砂浜で遊ぶ様子、休憩中のリラックスした表情。小説や漫画の資料としては潤沢すぎるくらいだ。
「本当に、こんなに撮る必要ある?」
ヨシノリが呆れたように俺のスマホを覗き込む。日焼け止めの香りが微かに漂ってくる。
画面には、ビーチで遊ぶみんなの写真がぎっしり詰まっていた。アミが波と戯れる姿、喜屋武が砂浜に寝そべるショット、そして何枚かの集合写真。
「だって、こういうシーンって意外と重要だぞ。海のシーンがあるラブコメって定番だし、リアルな描写を入れたほうが読者も喜ぶだろ」
「まぁ、それは分かるけど……」
ヨシノリは納得いかない様子で、腕を組んで俺を見下ろす。
「まさかとは思うけど、やましい気持ちはないわよね」
彼女の目が細められ、疑惑の視線が俺を刺す。
「やましい気持ちって、なんだよ」
「だって、女の子の写真ばっかり撮ってるし」
ヨシノリの指が画面をスクロールし、確かに女子メンバーの写真が多いことを指摘する。
そこはアミが波打ち際で笑っている写真が連続していた。やっべ、アミの写真は特に念入りに撮ってたんだった。
「バカ言うな。男の写真も撮ってるぞ? ほら、ナイトとゴワスのもある」
そう言ってスマホを見せると、ナイトが優雅にビーチチェアに寝そべっている写真や、ゴワスが砂に埋もれながらポーズを決めている写真が映る。
ナイトはサングラスをかけて様になっているが、ゴワスは首だけを砂から出して変顔をしていた。
「……なんで斎藤は埋まってるの」
「喜屋武に埋められたらしい」
「ほんと自由ね……」
ヨシノリは呆れながらも、どこか楽しそうに笑う。
「にーふぇどー! 助かったさー!」
大きな声に振り向くと、アミと喜屋武がナイトとゴワスに連れられて戻ってきた。
「大丈夫だったか?」
「はい……ナイト君と斎藤君が間に入ってくださったおかげで……」
アミは少し困ったように笑いながら、安堵の息をつく。
「ゴワスが圧かけたら、一瞬で逃げたさー!」
「俺もたまには役に立つだろ?」
「今回のMVPはゴワスだね」
無事にナンパ騒動が解決したことを確認し、俺は再びスマホを構えた。
「さて、騒ぎも収まったことだし、撮影の続きといこうか」
「はぁ……もう好きにしなさいよ。あたしも好きにするから」
ヨシノリはため息をつきながら、海へと向かって駆け出そうとする。
彼女の足跡が砂浜に残っていく。夏日を反射する海を背景に、彼女のシルエットが美しく浮かび上がっていた。