第7話 スニーキングミッション
あたしの名前は佐藤由紀。高校入学を控えたどこにでもいる普通の女の子だ。
久しぶりに再会した幼馴染、カナタこと田中奏太の家で濡れた服を乾かしている間にシャワーを浴びていた。
そこまでなら、ちょっとしたハプニングをきっかけにまた仲良くなれるかも、と思える出来事だった。
「うぅ……どうしてこんなことに……」
気がつけば、あたしはカナタの部屋を目指して全裸でスニーキングミッションに挑む羽目になっていた。どうして久しぶりにあった幼馴染の家で裸でうろつかなければいけないのか。
服も下着も洗濯中で、タオルすらない。正真正銘、生まれたままの姿である。
恥ずかしさと情けなさで、もう泣きそう……。
「早く……早くいかなきゃ」
カナタの部屋まで行くには、リビングを抜けて階段を上らなくてはいけない。
時間はない。今は一分一秒を争うのだ。
「あら、カナタ。もう洗濯機回しちゃってたの?」
カナタのお母さん、田中若菜さんが脱衣所に来てしまったので、リビングのソファの陰に身体を隠す。
「あ、ああ、ちょっと帰り道でトラックに水かけられちゃってな」
「はぁ!? ちょっと、それは立派な道交法違反よ! ちゃんとナンバーは覚えたんでしょうね!」
「さすがに覚えてないって」
若菜さんは、ハッキリと物事を言う人だ。理不尽なことにはしっかり怒れる人なのはいいんだけど、昔のトラウマが……。
「あんた、ボーッとしてるもんねぇ」
「人生なんて基本ボーッとしててもどうにかなるだろ」
何というか、カナタの思ったことをそのまま言うところは、若菜さんからの遺伝なのかもしれない。
……って、なに全裸で感傷に浸ってるんだ、あたし!
「よし、カナタが引き付けてくれている間に」
あたしは覚悟を決めて、リビングを飛び出す。
最低限、隠すとこは手で隠しつつ、階段を駆け上る。
「お兄ちゃん。帰ってきたの?」
廊下の奥で、カナタの妹である愛夏ちゃんが部屋のドアを開ける音がした。久しぶりに見たけど、相変わらずちっちゃくて可愛い。
「やばっ……」
見つかる寸前で、何とか階段の影に身を隠すことができた。
「あれ、お兄ちゃん帰ってきたと思ったのに……なんだ」
愛夏ちゃんが首を傾げて部屋へ戻るのを確認して再びダッシュ。カナタの部屋はもうすぐそこだ。
「ふぅ……助かった……」
ギリギリでカナタの部屋に滑り込むことに成功する。
「ヨシノリ、無事だった――あ」
「ひゃえ!?」
振り返るとそこには、扉を開けて呆然と立ち尽くすカナタがいた。
「見んなバカぁぁぁぁぁ!」
恥ずかしさが限界突破したあたしは咄嗟に近くにあった枕をカナタの顔面に投げ、カナタのベッドの布団に包まるのだった。
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結局、ヨシノリが俺の部屋で絶叫したこともあり全部バレた。
「まったく……久しぶりに会ったかと思えば何やってんのよ、あんたらは」
母さんは呆れたように深いため息をついていた。
「いや、ほら、ヨシノリって昔悪さばっかしてただろ? だから、家にいるのバレたら怒られるかなぁ、と」
「別に由紀ちゃんが中学に入ってから大人しくなったことは、紀香から聞いてるわよ」
そういえば、母さんはヨシノリの母親と仲が良いんだった。
何で母親同士って子供同士が疎遠になっても仲が良いままなんだろうな。
「あ、あの、さすがにもう壁に穴とか開けたりしないので……」
「わかってるからそんなに怖がらないでよ、もう。せっかく、またうちのぼんくら息子と仲良くしてくれてるし、いつでも遊びに来ていいわよ」
そう告げると、母さんはニッと快活な笑みを浮かべるのであった。
それにしても、なかなか凄まじい光景だった。
食いしん坊と体育会系の合わせ技で絶妙にムチムチになったわがままボディは、すっぽんぽんだと破壊力がとんでもなかった。
見慣れたポニーテールを下して濡れたままの黒髪も色っぽく、何というか……少なくとも、男子高校生の部屋にいてはいけない存在であることは確かだった。