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第62話 いざ最終選考へ

 期末試験の結果が廊下に張り出された。今回は学年三位だった。


「残念だったな、奏太」


 どこか気を遣った声音でゴワスが話しかけてくる。

 こいつとは、ヨシノリを巡ったゴタゴタがあったが、今ではすっかり普通に接してくるようになった。

 やっぱり、思いのたけをぶつけ合ったのが良かったのだろう。


 あと、ヨシノリに綺麗さっぱり振られたことで、嫉妬から解放されて吹っ切れたようだ。


 それと、俺が感情剥きだして掴みかかったこともゴワスの琴線に触れたようだ。

 ロボットが感情を見せるときって感動するよな、とのこと。誰がロボットだ、殺すぞ。


 最近はヨシノリとアミ、喜屋武が他の女子とも仲良くしているときは俺と連むことも多くなったくらいだ。


 そんなわけで、現在はゴワスに対して不快感はない。あの状態から関係が回復することもあるのかと、また一つ小説の糧になった。


「評価的にはオール10取れるから、問題ないぞ」

「どういうことだ?」

「俺は内部推薦で大学に行く予定だからな。高一のときはできるだけ高評価をとって、残り二年の勉強時間を減らしたいんだ」


 学生のときの成績による順位なんてせいぜい親の機嫌を取るときにしか使えない代物だ。

 大切なのは実益のある結果を出すことである。


「出た。人生効率厨」


 俺の言葉を聞いたナイトがいつものように苦笑する。


「楽をするために頑張るってのは、結構当たり前のことだと思うけどな」

「それができずに苦しんでいる人間は大勢いるけどね」

「ははっ、俺もその一人だ……」


 ナイトの言葉に、ゴワスは乾いた笑いを零す。


「でも、赤点は回避できたんだろ」

「おう、カナタ大先生のおかげでな」


 ニヤリと笑うと、ゴワスはスマホを取り出す。

 こいつ、もうスマホを手に入れたのか……俺も母さんに強請ってみるか?


「お前の作品で文章を読む訓練をさせてもらった。おかげで国語の成績爆上がりよ」

「あれで国語力が身につくとは思えないんだが……」


 俺の小説は、一人称かつ口語調で情景描写も省きがちなキャラ特化の作品ばかりだ。

 一般文芸を読み漁っている人間からしたら「こんなものは小説じゃない!」ってキレ散らかされることも覚悟の上なのだが。


「お前の文章は、クッソ読みやすいんだよ。漫画見てるのと同じ感覚で読めちまったからな」

「ああ、なるほど。カナタの小説で読書そのものに対するハードルが下がって、小説って媒体への理解が深まったってことだね」

「離乳食みたいなもんか」

「ぐっ、赤ん坊扱いはむかつくが間違ってない……」


 複雑そうな顔をしていたゴワスだったが、俺の小説を読んでそう感じてもらえるのは嬉しい。

 オタク文化を嫌い、文字媒体が苦手なゴワスでも楽しめたということは、より大衆が楽しめるものが書けているという証拠だ。


「ゴワス。ありがとな。お前みたいな読者がいてくれて本当に嬉しいよ」


 そう言うと、ゴワスは一瞬驚いたような顔をし、そっぽを向いた。


「お、おう、なんだか調子狂うな……」


 照れくさそうに鼻をこするゴワスを見て、俺も少しだけ笑う。


「そういえば、大賞に応募した作品はどうなったんだい?」

「二次選考は通ってたらしいから、次が三次選考の結果だな。確か、そのあとが最終選考だったはずだ」

「当事者とは思えない興味の薄さだねぇ」


 ナイトが呆れながら、俺の顔を覗き込む。


「お、おい、奏太! これ、これ!」


 すると、突然横でゴワスが大声を上げる。さすが運動部、バカみたいによく通る声だ。


「何だよ、急に騒いで」

「通ってる! お前、三次選考通ってるって!」


 ゴワスの指差すスマホの画面には、俺の作品のタイトルがはっきりと載っていた。


「ろ、632作品中……8作品って、とんでもないじゃないか!」


 珍しくナイトも興奮したように声をあげる。


「でも、これから最終選考だろ? 今回編集部が欲しい作品がラブコメじゃなきゃ通らないって」


 そこは完全に運である。一周目でも最終選考には二作品残ることができた。

 だが、俺は結果が出る前に死んでしまったので、その後の結果は知らない。まあ、たぶん二作品とも落ちているだろう。あれ、手癖で書いた作品だし。


「いやいや、これだけ結果残したのならチャンスは増えるんじゃないのかい?」


 ナイトが前のめりになりながら言う。


「バカ言え、仮に出版できても一巻で打ち切りの大賞作品なんてザラにある。最終選考も突破してない作品の作者の名前なんて誰も気にしないっての」

「お前、もっとバカになったほうがいいぞ?」

「そこはゴワスを見習うべきだと思うな」


 何故か真面目な顔で二人に心配されてしまった。

 とはいえ、これは長年作品を書き続けてダメだったという結果からくる慣れのようなものだ。

 感情が麻痺していると考えれば、あまりよくないのかもしれない。


「じゃあ、夏休みに俺のお祝いって名目でどっか遊びに行くか」

「いいね。予定は開けておくよ!」

「しゃあ! 読者として盛大に祝わせてもらうぜ!」


 俺の提案に二人は笑顔を浮かべて喜んでくれる。


 なるほど。自分のことのように俺の出した結果を喜んでくれるということは、こんなに嬉しいものなんだな。


 また一つ小説の糧になった。

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