第58話 賑やかな教室での日常
俺とヨシノリが仲直りしたことで、いつもの日常が帰ってきた。
朝っぱらから教室では、卓越したギターの音色が轟いていた。いや、何でだよ。
「あのさ、アミ。一体、何をやってるんだ?」
教壇に立ち、派手にギターをかき鳴らしているアミに恐る恐る声をかけてみる。
「明日投稿予定の〝教室でホームルーム前にギター弾いてみた〟の撮影です!」
「うぅ……何でわんまで巻き込まれとーがや……」
隣でキャンが涙目になりながら、アンプを用意していた。軽音部から持ってきたのだろうか。
「おい、こら! またお前らか、アフロディーテ! キャン!」
廊下から担任の怒鳴り声が響いた。もはやアミもすっかり問題児の仲間入り。いつの間にか先生からも下の名前で呼ばれるようになっていた。
「逃げますよ、キャンちゃん!」
「待ってよぉ、アフロン! 置いてかんけーよー!」
担任が教室に入ってくるのを見た瞬間、ギターを背負ったアミとアンプを抱えたキャンは全力で逃走する。担任の先生も下手に追いかけずに、どこか安堵したような表情を浮かべていた。何だかんだで名前のことでアミを気にかけていたのだろう。
しかし、アミは変な方向に吹っ切れてしまった気がする。これで良かったのだろうか。
「これ、俺が悪いのか?」
「さすがに、あーちゃんの責任でしょ」
呆れながら席に着くと、隣ではヨシノリがクスクス笑っていた。
「まったく、バカばっかり」
「何だか今日は朝からご機嫌だな」
「別に。いつも通りでしょ」
ツンと顔を背けるヨシノリ。その頬は少し赤くなっていた。
「で、君たちは結局、どういう関係に落ち着いたんだい」
俺とヨシノリが話していると、ナイトが後ろの席から話しかけてくる。
「どういうって……何も変わんないぞ」
「へぇ?」
ナイトは俺とヨシノリを交互に見て、楽し気に笑った。
「やっぱり妬けるねぇ」
意図を計りかねる言葉に、俺は眉をひそめる。
「何がだよ」
「いや、カナタってさ、基本的に人間関係には淡白なのに、由紀ちゃんのことになるとやたら気にするよね」
「は?」
「今も由紀ちゃんがクスクス笑ってるの見て、何かホッとしてるでしょ」
ナイトの指摘にドキリとする。そんなつもりは……いや、確かにそんな気もする。
「カナタ、自覚ないの?」
ニヤリと笑うナイト。
「別に……俺はただ、昔みたいに戻れたのが良かったってだけだよ」
「ふーん。そうかい」
俺がぶっきらぼうに答えると、ナイトは肩をすくめて微笑んだ。
「ところで僕のことも、そろそろメインキャラとして見てくれると嬉しいんだけど」
「お前の洞察力は何なんだよ」
呆れながらそう返すと、ナイトは悪戯っぽく笑った。
笑い合うクラスメイト。教室に響く賑やかな声。
この日常が、いつまでも続くといい。
そんなことを、ふと思った。