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第4話 結婚式以来に見た妹

 あの後、ヨシノリは少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに頷いてくれた。

 俺の高校デビューに協力してくれるらしい。

 ありがたい限りだ。持つべきものは、メインヒロインを張れる幼馴染である。


 それからお互いの連絡先を交換してその場は別れた。なんでもヨシノリはお使いの途中だったらしい。


 そして、すぐに家に戻ると衝動のままにパソコンを立ち上げて小説を書き始めた。

 幸いリビングには誰もいない。トイレや飲み物を取りに行く時間を削減するためにもリビングで書かせてもらおう。

 そのまま衝動に任せて執筆を行っていると、突然肩を叩かれた。


「……いちゃん、お兄ちゃん!」

「ん、あ?」


 振り返ると、そこには妹の愛夏が立っていた。

 愛夏は俺の二個下の妹で、現在は中学一年生だ。

 最後にこいつを見たのは、結婚式のときだから三年前か。

 最後の記憶がウエディングドレス姿だったせいで、より現在の容姿が子供っぽく見えてしまう。

 大人になっても身長は一五十センチで童顔だったし、どのみちか。


「人の顔じっと見てキモイんだけど」

「ああ、悪い。ボケッとしてたわ」


 パソコンに表示される時刻を見てみれば、もう執筆を始めて二時間も経っていた。

 二時間でだいたい六千文字か。勢い任せの書き始めのペースにしては悪くないんじゃないだろうか。


「執筆に夢中になっててさ」

「あー、どうせ中二病こじらせて書いたやつでしょ?」


 汚物を見るような目で俺を見つめる愛夏。俺が何をしたと言うんだ。


「いや、とりあえず新人賞に送るために書いたやつ」

「新人賞って……お兄ちゃん、正気?」


 酷い言われようである。まあ、愛夏は俺みたいなクソ陰キャは嫌いなタイプだからしょうがないだろう。


「正気も正気だ。応募するところもライトノベルに絞って、ラブコメで行こうと思う。ガチガチのミステリーはウケが悪いからな」

「ふーん……でも、お兄ちゃんにラブコメなんて書けるの?」


 俺の本気度を聞いたからか、愛夏は少しだけ興味を持ったように問いかけてきた。


「いろんな作品を読み込んだから書けるには書ける。ただリアリティの部分に関してはこれから学ぼうと思ってる」

「まさか、好きな人でも出来たの!」


 愛夏は目を輝かせ、鼻息を荒げて近づいてくる。何を期待しているのか。


「いや、眩しい青春を送ってそれを小説の糧にしようと思ってる」

「…………ああ、そういう」


 愛夏は一気に興味をなくすと、肩を落とした。えっ、何、そんなにクソ陰キャ兄貴の恋愛事情に興味あったのお前。


「そのためにも、俺は高校デビューすることに決めた」

「やめときな、火傷じゃすまないよ」


 呆れながらも無駄にかっこい台詞を吐く愛夏。日常生活でそんな台詞を聞くとは思わなかった。


「大丈夫だ。そこはヨシノリが協力してくれる」

「由紀ちゃんが?」


 余程意外だったのか、愛夏は目をぱちくりさせてアホ面を浮かべた。そういえば、愛夏には度々強引なヨシノリのことが苦手って言ってたもんな。


「今日偶然会ってな。同じ高校だし、頼み込んだら快諾してくれた」

「お兄ちゃんってそんなに行動力あったっけ?」

「小説のためだからな。いくらでも頑張れるさ」


 そう、こうして頑張れているのはすべて小説のため。夢のためならば俺はどこまでも頑張れる。


「そんなに小説家になりたいんだ。でも、そんなに全力で努力して結果がでなかったらキツくない?」


 愛夏はどこか心配そうな目で俺を見る。こいつ、こんな顔もできたのか。


「結果が出るまでやるのが努力だ。死ぬ気でやったところで死にはしないからな」


 いや、死んだけどね。まあ、あれは日頃の不摂生が祟った結果でもあるから、その辺もおいおい改善していかなければ。


「それに最悪失敗しても、それはそれでネタになるし」

「高校に入学じゃなくて取材しに行く気だ……」


 何故か、愛夏は心底呆れた表情を浮かべると、深いため息をついた。


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