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第39話 ゴワスは激怒した

 勉強会当日。

 大島駅には勉強に不安なメンバーが集まった。

 ヨシノリ、アミ、ナイト、喜屋武、ゴワス。ほぼフルメンバーじゃねぇか、ふざけんな。


「お前らそんなに勉強できないのか?」

「奏太にはわからねぇだろうな……赤点ってだけで部活を禁止されるバカの嘆きが!」


 ゴワスがキレながら、俺の肩をガクガクと揺さぶってくる。そういえば、こいつとも久しぶりにしゃべった気がする。久しぶりで人の肩を掴んで揺らすな、殺すぞ。


「妥当以外の何物でもないだろ」

「まあ、そう言わずにさ。僕も教えるのは手伝うからさ」


 ナイトが肩を叩いて俺を宥めた。


「勉強は苦手ですが、頑張りますね!」


 ふんす、と鼻息荒くアミが両手で握り拳を作る。


「カナタン、無茶言ってわっさー……」


 喜屋武は申し訳なさそうに手を合わせていた。


「まあ、いいや。親には話してあるし、家は自由に使ってくれ」


 もうどうにでもなれ。そんな気持ちで俺は歩き出した。

 家にみんなを上げると、リビングに通す。さすがに俺の部屋に六人も入ることはできない。


「みんな、そこ座ってて」


 そして、ヨシノリは勝手知ったる足取りでキッチンへと向かって麦茶を用意し始める。


「はい、どうぞ」

「家主より家主してる件」

「今更でしょ」


 麦茶を受け取ると、ヨシノリは楽し気にはにかんだ。


「見せつけてくれるね」

「……お二人共、本当に仲が良いんですね」

「けっ」

「カナタンもヨシちゃんも、仲良しさー」


 何故かアミとゴワスは複雑そうな表情で俺たちのやり取りを見ていた。

 というか、ゴワス。お前、勉強を見てもらう立場の癖に態度デカくない?


「よーし、今日はみんなで頑張るさー!」


 喜屋武が勉強道具をテーブルに広げて気合を入れる。

 こいつはアミと方言の件が解決して以来、本当に明るくなった。

 最近は女子の友達も増えてきたみたいだし、沖縄キャラ付け作戦はうまくいってるようだ。


「それで、誰が誰を教える?」


 場をまとめるようにナイトがそう切り出す。


「俺は文系科目全般得意だけど、ナイトは?」

「ちょうどいいことに僕は理系科目が得意だ」


 教師役二人の得意科目が分かれていたのは行幸だ。数学も別に教えられるが、文系科目のほうが得意だから助かる。


「じゃあ、それで分けようか」


 こうしてナイトの元には、理数系全般が壊滅的なヨシノリと数学が苦手なアミ。

 俺の元には、国語に不安のある喜屋武と全てが壊滅的なゴワスが集った。


 それから三十分後。


「だから、わっかんねぇっての!」


 ゴワスは激怒した。


「黙れゴワス」


 喜屋武はともかく、ゴワスに国語を教えていてわかったことがある。

 こいつは典型的な勉強が嫌いなタイプの人間だ。


「大体、作者の気持ちなんてわかるわけねぇだろ」

「それは別に、作者が執筆していたときの気持ちを考えろって言ってるわけじゃない」

「どういうことさー?」


 不貞腐れるゴワスとは対照的に、喜屋武は興味津々といった様子で聞いてくる。


「国語は言葉でのコミュニケーションを学ぶ科目だ。だから、国語における〝作者の気持ち〟ってのは、大勢の人間が〝こうだろうな〟って思う答えなんだよ」


 問題として選ばれる文章も、一般論で答えやすいものを選んでいる。相手の意図を汲める常識的な人間になるためにも国語は必要不可欠な科目なのだ。


「大体、作者の気持ちなんて『締め切り苦しい……』か『あひゃひゃ、一周回って楽しくなってきたー!』のどっちかだぞ」

「作者が言うと重みが違うさー……」


 執筆作業なんて基本苦しいからな。それから、ある一定のラインを超えるとハイになる。よくあることである。

 でも、やめられない。執筆沼の底は深い。


「こんなの大人になったときに何の役にも立たないだろ」


 ゴワスが悪態をついて麦茶を一気飲みする。

 実際、社会じゃ学校で学んだことなんて役に立つことのほうが少なかった。とはいえ、勉強の本質はそこではない。

 学ぶこと、考えるの大切さを知り、自分自身を支える基礎になる。その大切さは大人になってから実感するのだ。

 それに教養を身に着けることで、本や音楽、芸術などの楽しむのに教養が必要な趣味を楽しめるようになるのだ。これらは人生において、安価で楽しめる趣味だ。


 要するに勉強するということは、長い目で見たときに娯楽のコスパがいいのだ。

 まあ、大卒までの学歴があると強いというのも多きな理由の一つではあるが。


「数学ならともかく国語でそのセリフを吐く奴は初めてだよ」

「あぁ?」


 俺の言葉にゴワスの機嫌がどんどん悪くなる。どうやら癇に障ったようだ。


「国語なんて本文に答えが書いてあるだろ。公認カンニングできるのに、何で苦手なのかさっぱりわからん」

「作家先生は言うことが違うねぇ」


 鼻を鳴らすと、ゴワスは馬鹿にするような口調でそう呟く。


「小説なんて書いてもどうせプロにはなれねぇだろ」


 その言葉は、一周目に俺が一次選考を落選するたび、自分に言い訳するために吐いた言葉だった。


「ま、プロになれるのは一握りだからな」

「だろ? 何でそんな無駄なことするのか、バカな俺にはさっぱりわかんね」


 さっきの言葉が腹に据えかねていたのか、意趣返しとばかりにゴワスは俺をバカにするように笑った。

 そんな昔の自分のようなダサいこいつに言ってやる。


「結果が出るまでやるのが努力だからだ」


 一周目の俺は結果が出る前に死んでしまった。だからこそ、タイムリープという奇跡によって与えられたチャンスを逃すつもりはない。


「俺は自分でやると決めたことをやってるだけだ。その意味すらわからないならゼロから義務教育をやり直すんだな」

「んだとてめぇ!」


 ゴワスは顔を赤くして俺に摑みかかろうとする。


「ちょっとちょっと! 何で勉強会で喧嘩になるわけ!?」

「二人共、落ち着きなよ」


 慌てておろおろしている喜屋武の横からヨシノリとナイトが割って入る。


「ゴワス。君は教えてもらう立場で、勉強会のためにわざわざ家に上げてもらった。違うかい?」

「……違わねぇよ」


 ナイトが穏やかな口調で問いかけると、ゴワスは小さく舌打ちをしながら椅子に座った。


「今回は斎藤が悪いけど、カナタも言葉が強すぎ。思ったことをそのまま言えるのはあんたの良いとこだけど、悪いとこでもあるわ」

「言い方ねぇ……」


 ヨシノリの言いたいことはわかる。確かに、これからも友人関係でいようとする相手に対する物言いではなかった。


「国語は言葉でのコミュニケーションを学ぶ科目なんでしょ?」


 言語を理解しない猿相手にそれは成り立たないと思うが、それを口にするとまたゴワスがキレそうだ。

 まったく、何でこっちが気を使わなきゃいけないんだ。


「わかった。ただ、このままあいつに教えるのは無理だ。メンバーチェンジで頼む」


 そんなやり取りをしていると、玄関のドアが開く音がした。


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