表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
386/400

第390話 一周目の継承

 何も考えず、衝動のままに書き上げたポニテ馴染はとんでもないボリュームになっていた。

 パソコンの画面に表示される文字数を見て、俺は呆然とする。

 六十万字を超えている。文庫本換算で約六冊分だ。

 どこにも公開していない、ただただ一人で書いた原稿でこれである。


「学校サボってやることがこれかよ」


 声に出すと、少しだけ笑えてきた。

 自分でも意味がわからない。一体、何がそこまで俺を駆り立てたのか。


 スマホを確認すると、RINEに返信が届いていた。


[佐藤由紀:それじゃ、放課後あたしの住んでる団地の前で]


 そうだ。今日、俺はヨシノリに気持ちを伝えに行く。

 その覚悟を確かなものにするために、彼女をヒロインにしたこの小説を書いていたんだった。


 席を立ちかけたとき、視界の端に引っかかるものがあった。

 机の端に、コップが置いてある。麦茶が半分ほど残っていて、内側に水滴の跡がついている。

 俺のコップではない。来客用のやつだ。


「誰か部屋に上げた? いやいやいや」


 学校を早退してからずっと執筆していた。

 誰かが来ても気づかないほど集中していたとは思えない。

 そもそも愛夏は学校のはずだし、両親が帰る時間でもない。

 思い当たる人間が誰もいない。

 頭の中を探る。家に帰った。部屋に入った。パソコンを立ち上げた。書いた。それだけだ。


「こっわ」


 コップを手に取ると、わずかに揺れる麦茶が光を反射する。

 机の上を見渡すと、今度は封筒があることに気づいた。


 こんなもの、置いた覚えがない。

 手に取って中を確かめると、便箋が入っていた。

 開いた瞬間、視線が止まる。俺の字だった。


『一周目の俺へ』


「謎の黒歴史発見んんんっ!」


 すぐに手紙を細切れにして、ゴミ箱へと叩き込んだ。

 危ない危ない。さすがに、俺でもこのレベルの中二病は痛々しいと感じる。


「てか、そろそろ準備しないとな……」


 時計を見ると、五時を回っていた。

 ヨシノリとの約束の時間が近い。


 コップをシンクに置いてから、着替えて、髪を整えた。鏡を確認する。

 階段を降りると、愛夏がリビングにいた。


「お兄ちゃん、おかえり。早退したって聞いたけど大丈夫?」

「ちょっと用事があっただけ。心配させて悪い」


 愛夏が笑う。いつもの笑顔だ。


「今日、由紀ちゃんと会うんでしょ」

「ああ」

「頑張って」

 短い言葉だったが、愛夏らしかった。余計なことは言わない。

 でも確かに、背中を押してくれている。


 玄関を出ると、夕方の空気が頬に当たった。西の空が橙色に染まり始めていて、ビルの輪郭がくっきりと浮かび上がっている。


「いってきます」


 このあと、何故か恋愛関係の苦労が降り注ぎ続けることになるのだが、それはまた別のお話……去年までボッチだったのに何故こんなことに?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ