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第33話 ウチナーヤマトグチ

 昼休みのアフロディーテ事件からクラスの人間関係に変化があった。

 変化と言っても、阿比留のグループが崩壊しただけなのだが。

 変わらずクラスの中心的なグループと言えるのは、俺がいるナイトのグループだ。

 グループといってもメンバーが完全に固定されているわけではなく、グループ以外の人間とも交友関係は広がっていく。

 俺たちのグループの会話に混ざってくる奴もいたし、そもそも特定のグループに所属せずにいろんなグループと関わりを持つ日替わり定食みたいな奴だっていた。


 元阿比留グループにいた喜屋武なんかはこれに当たる。あとは男バスのゴワスもこれだ。

 二人共、それぞれアミやヨシノリと個別の繋がりがあるからたまに会話に交じってくるだけで、俺たち全員に馴染んでいるわけじゃないからな。

 これは二周目の高校生活で、周囲をよく見るということを意識したおかげで気づけたことだ。やっぱり人間関係とは複雑で面白い。


「みんなはゴールデンウィーク何してたの?」


 昼休み、いつものように俺たちは集まって雑談をしていた。食事をしながら会話を楽しむ空気は、以前よりも柔らかくなっている気がする。


「執筆」

「《《みんな》》に聞いたの」


 ヨシノリが呆れたように箸を置いた。目の前の大盛りとんかつ定食をガツガツ食べていた彼女は、ようやくひと息ついたようだった。人にはよく噛んで食べろという割に、ヨシノリは食べるのが早い。


「もしかして、一回も外に出なかったんですか?」

「ははっ、カナタは相変わらずだね」


 アミが驚いたように目を丸くし、ナイトも苦笑していた。


「さすがに健康に悪そうだから、あたしと愛夏ちゃん――カナタの妹で外に引っ張りだしてバスケもしてたよ」

「あと少しで〝ペン剣〟が書き上がるとこだったんだけどなぁ……」

「あんたの執筆速度は命削ってるみたいで怖いのよ」


 なめるな。俺が本気で命削って書いていたら、もう一作品は書き上がっていたぞ。


「由紀が読みたいって言ったんだろ」

「それはそうだけど、さ」


 だからこそ、いつも以上のペースで書いていたというのに。


「しきや、カナタンやー、幼馴染やいびーんしが、なんでヨシノリんちゅーらんが?」


 そこで一緒に昼食をとっていた喜屋武が話に加わってきた。

 方言が伝わらなかったせいか、会話が止まって一瞬だけ静寂が訪れる。


 それにしても、喜屋武の沖縄弁かなりコテコテだな。琉球語とも言われる〝うちなーぐち〟となると、沖縄の中でも島のほう出身なのだろうか。


「ああ、高校から下の名前で呼ぶように言われてたからな。二人きりのときはヨシノリって呼んでるぞ」

「ちょ!」


 周囲からの視線が生温くなったことを感じたヨシノリが慌てて俺の口を塞ぐが時既に遅し。てか、あの、直接手で口を触られるのはさすがに照れるんだけど。


「えっと、そうだ! あんた沖縄の方言わかるの?」


 露骨に話を逸らしにかかるヨシノリだったが、それは納骨後の心臓マッサージ並に手遅れだと思う。

 とはいえ、あんまりいじられ過ぎるのもかわいそうだ。ヨシノリが幼馴染という関係性に嫌気が差してしまったら俺が辛い。


「キャラ付けに使いやすいし、沖縄弁、博多弁、関西弁は学んどいて損はないからな」


 博多弁に関しては由紀の母親が博多出身なので、彼女に聞けばいいし、選り取り見取りである。


「ははっ、カナタらしい理由だね」


 ヨシノリの強引な話題転換に乗っかると、ナイトもそれに乗ってきてくれる。こいつは本当に察しが良くて助かる。


「えっと、ごめん。最近隠さなくなったから、つい方言が……島出身だからコテコテで」


 沖縄の言葉が伝わりづらいという自覚はあるのだろう。

 喜屋武は申し訳なさそうに標準語で謝罪する。


「いいよ。喜屋武さんが無理をしなくても、ここにいる執筆マシーンが自動翻訳してくれるから」

「おい、褒めたって何もでないぞ」

「ありゃ、ジュースくらい奢ってくれるかと思ったんだけど」


 冗談めかしてナイトは笑う。


「まあ、方言はいいんじゃないか? 阿比留の顔色窺ってたときより、今の方が楽しいだろ」

「そうそう。鳴久はもっと肩の力抜けばいいのよ」

「隠し事って疲れますからね」

「それに沖縄の方言って可愛くて好きだし、たまには聞かせてもらわないとね」


 全員からのフォローに、喜屋武は安心したように顔を綻ばせた。


「みんな、ありがとう……ううん、にふぇーどー!」


 沖縄弁で感謝を述べた喜屋武に、自然と俺たちの顔も笑顔になっていた。

 うん、やっぱり沖縄美人の笑顔と方言のセットはいいな。今度ラブコメを書くときは使わせてもらおう。


「でも、やっぱり、自分の言葉で変な空気になるのは……嫌、かな」


 喜屋武はそう言いながら、少し目を伏せた。

 彼女が沖縄の言葉を隠そうとする理由は、言葉が通じずに周囲が微妙な空気になることが原因なのだろう。コテコテの沖縄弁だから尚更のことなのだろう。

 そして、うまく標準語で話せないから自信もなくし、人の顔色を窺うことしかできなくなってしまったのだろう。


「なら、沖縄出身って個性を残しつつ、わかりやすく標準語と混ぜた話し方にすればいいんじゃないか」

「そんなやり方、いいの?」

「むしろ、キャラとしては際立つし、強みにもなるぞ。てか、沖縄本島の人はみんなそうじゃないか?」

「本島や、那覇空港んかい、んじちゃーねーんど……」


 何も標準語だけで話すことにこだわる必要はない。言葉なんて伝わればいい。

 むしろ、彼女らしさを活かした方が、もっと自然に会話ができるんじゃないかと思ったのだ。沖縄弁ならぬ喜屋武弁を作ってしまえということである。


 実際、現在の若い世代は、うちなーぐちと標準語がミックスされ、さらに沖縄の訛りをプラスした〝ウチナーヤマトグチ〟を使うのが日常的らしい。それを更に標準語に寄せればいいのだ。


「〝なんくるないさー〟とか〝はいさい〟みたいな単語単体は有名だ。だったら、語尾を〝さー〟や〝なー〟とかに揃えて沖縄っぽさを出す。あとは表情と声のトーンでカバーすれば何となく伝わるだろ」


 これはキャラの差別化をするため、独特のしゃべり方をするキャラを生み出すときに使う手法だ。


「えっと……そっかー、カナタンは本気でクリエイターの世界にいくんよなー。わんねー、そういうの応援したくなるんさー! ……こんな感じ?」


 喜屋武はとまどいながらも、沖縄弁と標準語を混ぜた新しい話し方を試してみる。


「いいじゃない!」

「うん、沖縄っぽいです!」

「そうだね。僕もこっちのほうが元気があっていいと思うな」


 ヨシノリとアミがすぐに反応し、ナイトも頷いた。俺も内心、これはキャラとしての差別化がうまくいくんじゃないかと確信していた。


「なんか、吹っ切れた気がするさー!」


 喜屋武は笑顔を見せると、ラーメンの残りを啜った。その姿を見て、俺もまたひとつ、新しい視点を得た気がした。



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