第25話 嫉妬は負け犬の遠吠え
俺は体育館の壁にもたれかかり、彼女が戻ってくるのを待つことにした。
少しすると、制服に着替えたヨシノリが出てきた。
彼女は俺を見つけるなり、小走りで駆け寄ってくる。
「ごめん、待った?」
「ちょうど、新作の構想練ってたから大丈夫だ」
「一言余計。こういうときは大丈夫だけでいいのよ」
ヨシノリは呆れたようにため息をつくと、俺の隣に並んで歩き出した。
二人で肩を並べ、ゆっくりと校門の方に向かう。
道中でたわいない会話を交わしながら歩いていると、ふと気になっていたことを思い出した。
「なあ、ゴワスとは仲良いのか?」
「男女で分かれてるけど、同じバスケ部だからね。自然と話す機会は多いかな」
「ほーん」
それは当たり前のことだった。当たり前のことのはずなのに、どこか釈然としなかった。
「なぁに、嫉妬しちゃった?」
ヨシノリは俺の顔を覗き込み、ニヤニヤと揶揄うように笑う。
「嫉妬、嫉妬かぁ……うーん」
俺は腕を組み、考えるふりをしながら視線を逸らした。
確かに、なんとなく胸の奥がもやっとした。
これが仲の良い女子と他の男子が話していることで生じる嫉妬なのだろうか。
「そう、なのかもしれない。たぶん、きっと、メイビー」
「何でそんなに自信ないのよ」
ヨシノリは不満そうに唇を尖らせる。
「嫉妬って言われてもピンとこないんだよ」
「あー、あんた人に嫉妬とかしなそうだもんね」
そんなことはない。嫉妬ならしたことがある。
それはまだ俺が死ぬ気で執筆活動をする覚悟を決める前のことだ。
俺は自分より面白くない小説が賞を受賞したり、書籍化することに納得がいっていなかった。
どうしてこんな作品が世で評価されるのか。俺の作品のほうが断然面白いのに。
そんな風に感じていた。
でも、今思えばあれはただの嫉妬だったのだ。
「嫉妬なんて全力で頑張ってない奴がする負け犬の遠吠えだしな」
死ぬ気で執筆活動をするようになった五年間は嫉妬する暇もなかったからな。
「あんたマジでそれ人前で言わないほうがいいからね」
「そうなのか?」
俺の人生経験からくる持論だったのだが、ヨシノリは呆れ顔でため息をついた。
ヨシノリがそう言うなら気をつけるとしよう。
「小学校のときのカナタは可愛げがあったのになぁ」
「そういうヨシノリは可愛くなったよな」
「はいはい、あんたが忘れている間に幼馴染はここまで可愛くなりましたよー」
ヨシノリは適当に流しながら、俺の肩を触れる程度の力で小突いた。
うーん、これはこれで可愛い。