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第23話 創作活動に貴賎なし

 放課後。部活に向かうヨシノリたちと別れた俺は、漫研の活動に勤しんでいた。


「田中君。今はどんな小説を書いてるの?」


 声をかけてきたのは東海林美晴(しょうじみはり)先輩。漫研の二年生で口数は少なく、人見知りする性格ではあるものの、仲良し判定をした相手には意外とノリが軽いタイプの人だ。


「今はオカルト異能バトルですね」

「へぇ、どんな感じの?」

「簡単に言うと、ペンが剣に変わる能力を持った高校生が妖怪と戦う話です」


 俺は〝ペンが剣になるので強し!〟のあらすじをざっくり説明する。

 主人公の白金玉筆が、ある日突然妖怪に襲われ、金髪ピアスの男・金元主税に助けられる。そして、妖怪を討伐する組織と関わることになり、自身のペンを剣に変える能力に目覚める――といった導入部分を話し終えると、東海林先輩の目が輝いた。


「えっ、めっちゃ面白そう!」

「まだこれから面白くするところですけどね」

「何かあれだね。田中君って小説について語ってるときは自信に満ち溢れてるよね」

「それしか能がありませんから」

「未来の大先生が何言ってんだか」


 東海林先輩は冗談めかして笑いながら肩を竦める。

 それを聞いていた周囲の先輩たちも、苦笑しながら俺を見ていた。


「実際、ちゃんと創作できる人が入ってきたのは助かってるんだ。この部活ってほぼ都々ちゃんで成り立ってるようなものだからさ」

「俺は文章しか書けませんよ?」


 先輩にそう言ってもらえるのは嬉しいが、俺がやっていることは漫研の活動とは程遠い執筆活動である。漫研の未来のことを考えれば、トト先のようにイラストを描ける人が来てほしかったのではないだろうか。


「文章だって立派な創作活動じゃない」

「ミハリの言う通り」


 横からトト先が会話に入ってくる。いつの間にか作業の手を止め、こっちの話を聞いていたらしい。


「創作活動に貴賎なし。文章には文章にしかない味がある」

「ミステリーの叙述トリックとか文章だからこそだもんね」


 トト先と東海林先輩がうんうんと頷く。


「あんま自分を卑下しなくていいんじゃない。都々ちゃん目当てで入部したのだって、ちゃんと将来を見据えてのことなんだし」

「むしろ、クリエイター特有の人でなし感が気に入った」

「主語がデカいですよ」


 クリエイターの全てが人でなしなんてことはない……はずだ。どこかネジが外れた人は多いような気もするけど。


「そういえば、トト先が卒業しちゃったら漫研ってどうなっちゃうんですか?」


 俺はふと疑問に思ったことを尋ねた。

 トト先は漫研の最重要人物であるが、卒業すれば今みたいに漫研を支え続けることはできないだろう。


「なるようになる」

「あはは……私たちもそこまでは考えてないかな」


 俺の不安に、二人は少し困った様子で答えた。

 まあ、そりゃそうか。卒業後の部活のことまで考える人のほうが稀だ。俺だったら絶対どうでもいいと思うし。


「そうだ、カナぴ。小説、書き上がったら読ませて」

「気が早いですって。まだ四万文字くらいしか書いてないんですから」

「その文字数で〝まだ〟判定なんだ……」


 東海林先輩が引き気味に呟く。

 普通なら四万文字も書けば、それなりのボリュームの話になる。でも、ライトノベルの新人賞は十万文字前後が普通だから、俺にとってはまだ折り返しにもなっていない。


「田中君、やっぱりすごいねぇ」

「普通のことですよ」

「その感覚が普通じゃないんだって……」


 ため息まじりに呟く東海林先輩を見て、俺は少しだけ苦笑した。


「途中で投げ出さないで、最後まで書く。それが一番大事」


 トト先の言葉に、俺は頷く。

 言われてみれば、そうなのかもしれない。


 書き続けること、それが俺の一番の武器だったのだ。


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