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第222話 変わらない関係

 キクりんと別れたあと、時間も時間だったため俺たちはコスプレ喫茶へと戻ってきた。

 ピークをすぎたとはいえ、人気は衰えていない。メイド服や執事服のクラスメイトが忙しなく立ち回り、教室の中は相変わらず賑わっていた。


「あっ、田中君、由紀!」


 声をかけてきたのは竜胆だった。包帯ぐるぐるのミイラ女コスのまま、焦った表情をしている。


「実はアミと喜屋武が厄介なのに捕まってて」

「厄介?」


 俺が眉をひそめると、竜胆は小声で説明を続けた。


「なんか、しつこく話しかけてくる人たちがいて……アミたち、困ってるっぽい」


 俺とヨシノリは目を合わせると、即座に視線を向けた。

 客席の隅に、ナンパ男に囲まれるアミと喜屋武の姿があった。


 アミはおっとりとした笑顔を張り付けているが、目だけが明らかに助けを求めている。

 喜屋武は困ったように笑いながらも、距離を取ろうと体を逸らしていた。

 ゴワスも別のテーブルで別の厄介客を相手にしていて、すぐには動けないようだ。


「ねぇ、あれってたぶんそうだよね?」


 ヨシノリが低くつぶやく。

 ナンパ男たちの顔がはっきり見えた瞬間、俺も絶句した。


「俺の記憶が間違ってなければあの二人だな。おい、そこの二人」


 俺はずかずかと歩み寄り、二人の間に割って入った。


「久しぶりだな。シューヤ、平井。俺の友達が困ってるからその辺にしてくれないか?」


 間違いない。小学校の頃から一緒につるんでいた悪友コンビ。

 シューヤこと森柊哉(もりしゅうや)。大島の忍者、平井こと平井麗一(ひらいれいいち)

 あのシューヤと平井が、よりによってアミと喜屋武に声をかけていたのだった。


「なんだよ、誰かと思えば……」


 金髪気味に染めた髪をかき上げながら、シューヤが口の端を吊り上げる。


「お前、カナタだろ! イケメンなっても、その眠そうな目はカナタだわ」

「いや、眠そうな目って……」

「マジでカナタ!? 偶然だな!」


 平井も懐かしそうに俺の背中をバンバンと叩いてくる。

 昔からイケメンで女子に人気な奴だったけど、また随分とイケメンに成長したもんだ。

 俺の知る限りじゃ、ナイトと並ぶレベルのイケメンである。


「あーちゃん、鳴久。ごめんね、あたしたちの幼馴染が迷惑かけて」


 ジャージの上着を脱ぎ、カチューシャを付け直したヨシノリはアミと喜屋武に手を合わせて謝る。


「いえ、大丈夫です!」

「ヨッシーとカナタンの幼馴染だったんね?」


 アミと喜屋武は安堵したように微笑む。二人の肩から力が抜けていくのがわかった。


「由紀?」

「ヨッシー?」


 シューヤと平井は怪訝そうに眉をひそめ、ヨシノリを凝視する。信じられないものを見るような顔だ。


「「まさか、ヨシノリか!?」」


 二人は声を揃えて叫んだ。その瞬間、周りの客まで一斉にこちらを振り返る。教室の空気がざわりと揺れた。


「うーわっ、マジか。突然変異だろ、これ」

「あのヨシノリが、ここまで美少女になるとはねぇ……対応ミスったわぁ」


 二人は顔を見合わせ、ニヤニヤ笑いを抑えきれない様子で肩を揺らす。

 あの頃は男勝りのガキ大将で、悪ガキどもを率いていたヨシノリ。

 まさか、その彼女が今やメイド服に身を包んで男子の目を釘付けにしているなんて、彼らにとっては冗談にしか思えないのだろう。


「あんたらァ……!」


 ヨシノリが腰に手を当て、鋭い視線を投げる。


「おっ、睨み方は昔のまんまじゃん」


 シューヤが面白がるように笑う。


「ほら平井、あのガキ大将モード出てるぞ」

「いやいや、あの頃と違って今は美少女だからな。迫力あるけど絵面が違いすぎるわ」


 平井は顎に手を当てて、わざとらしく感心してみせる。

 悪びれもせずに肩を組んでくる二人に、俺とヨシノリは同時に深いため息をついた。


「お前ら……ほんっっと、変わんないな」


 懐かしさと呆れが入り混じった声が勝手に漏れた。


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