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第207話 同じ立場

 十月も半ばを過ぎたため、周囲が涼しくなるのと反比例するように学校全体は熱気に包まれていた。

 準備で学校全体がバタついている中、俺にはやるべきことがあった。


「……今日も気合い入れて踏ん張るか」


 AMUREから託された対バンに勝つためのセトリ。


 当然、元に戻ったアミや他二人にも共有済みである。

 目下の問題は、多田野遊である。

 文化祭で対バンを仕掛けてきた以上、敵のことを知らないわけにはいかない。


 現状、多田野についてわかっていることは、音楽へのこだわりが強く他人に興味がないということ。

 そんな奴が唯一音楽以外で執着しているのは幼馴染である桃太郎だが、これはあの子が本気で音楽をやっているドラマーだからだろう。


「というわけなんだが、どう思うよ」

「いや、あたしに聞かれても困るんだけど……まあ、ようやく頼ってくれたのは嬉しいからいいけど」


 人間関係に疎い俺は、ヨシノリに事情を話して協力してもらうことにした。

 自分も忙しいというのに、ヨシノリは二つ返事で協力してくれることになった。持つべきものは優しい幼馴染である。


「軽音部の多田野君ねぇ……」


 一通り軽音部の事情を聞き終えたヨシノリは難しい顔で考え込む。


「正直、女子の間じゃ多田野君よりも元カノの大場さんのほうが陰口叩かれてるわ」

「いや、なんで?」


 浮気は誤解らしいが、それを差し引いても状況的にかわいそうなのは大場だと思うが……。


「元々多田野君ってそれなりに人気だったのよ。その彼を彼氏にしたから大場さん、やたらとマウント取っててね……」

「多田野みたいなタイプ、意外とモテるんだな」


 あいつただの音楽脳なベーシストだぞ。小説脳な俺と同じタイプの人間だから人間性ならモテるわけないだろうに。


「イケメンで真剣に音楽に打ち込むタイプだからね。普段人と話さない部分もクールっていう風にとらえられてたみたい」


 イケメン無罪というやつか。まったく業腹な話である。

 俺だったら同じ立場でも陰キャ呼ばわりされるのがオチだろうに。


「男子からしたらなんであんな奴がって人がモテてたりするものよ。それこそカナ――なんでもない」


 何かを言いかけてヨシノリは突然口を噤んだ。


「ん?」

「とにかく! 女子人気のあった多田野君を彼氏にしてマウント取ってきた大場さんはフラれて、嫉妬してた女子がここぞとばかりに叩いてるってこと」

「ネットの炎上みたいで陰湿だなぁ」


 やっぱり女子の世界って怖い。みんながみんなヨシノリや一周目の上司のようなさっぱりとした性格の人だったら揉めないというのに。


「大場さんもどうかと思うとこあるけど」

「どういうことだ?」

「多田野君と鬼頭さんの関係を同じバンドだった大場さんが知らなかったとは思えない」

「ああ、幼馴染だろ」

「いや、そうだけどそうじゃなくて……」


 ヨシノリは困ったように言葉に詰まる。


「はぁ……まあ、カナタだもんね」


 それから深いため息をつくと、ヨシノリは確信めいた様子で告げる。


「鬼頭さんにとっては幼馴染ってだけじゃない。多田野君のことが好きだったんだよ」

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