第166話 伝える大切さ
結局、配信後に液タブは無事に買えた。
電気屋の液晶ペンタブレットコーナーで、挙動不審なトト先が店員を直視できず、終始俺の背後に隠れていたのは見なかったことにしておこう。
そして、高い買い物の割に結局トト先はアナログに戻っていた。
いい加減にしろよ、マジで。
ラジオの視聴者たちも呆れていたが、予測していたかのように〝ですよねー〟というコメントで溢れ返っていた。
まあ、トト先の自腹だったし、ネタになったと思えばプラスだろう。
おかげさまでラジオのほうは順調で、大々的に話題になっているわけではないが、創作界隈ではそれなりに注目されてきているらしい。
創作ラジオと銘打ってはいるものの、人気が出ている部分は、俺が進行役として場を回し、トト先のフリーダムな言動をなんとか拾っていくという部分だろう。
お便りフォームから寄せられた質問に答えたり、創作あるあるを語ったり、俺が高校生作家ならではの視点で話したり、暴走するトト先を止めるのも、今や完全に役目となりつつあった。
「田中君。WEBページも作れたんだねぇ」
東海林先輩がモニターを覗き込みながら感心したように言った。
「この程度なら、まあ……」
一周目でも仕事でやっていた俺にとって、この程度のことは息をするようなものだ。
毎日のように呼吸困難になっていたのはご愛敬である。
「うちのサークルのスレでも好評だったよ」
東海林先輩がパソコンの画面をこちらに向ける。そこには掲示板のスレッドが開かれており、俺たちの配信についてのコメントが並んでいた。
予想していたよりも、ずっと肯定的な感想が多い。
「思った以上にウケてたんですね」
「都々ちゃんが美少女かつ〝おもしれー女〟認定されたのが大きいよね」
東海林先輩は穏やかに笑っていた。
たしかにトト先は作業中も余計なことばかり喋ってるし、たまに集中して口数が減ったと思ったら、その分顔芸が炸裂している。
おまけに視聴者とのリアクションの噛み合い方が絶妙で、自然とラジオのテンポが生まれるのだ。
漫画家のリアルな作業と、小説家の創作話が同時に聞けるという構図も良かったらしい。
どちらも現役高校生。若いのに、実績と勢いがある。
そこにラジオ的なトークと、作業配信の視覚的な満足感が合わされば、確かに受けるのも納得だ。
「……やっぱり、伝えるって大事ですね」
「うん?」
東海林先輩が首をかしげると、俺は笑って言った。
「やっぱ、どんなに面白くても、届ける手段がなきゃ意味がないなって。見てもらう努力は惜しんじゃダメですね」
「うん。私も、そう思う」
東海林先輩の横顔は、どこか優しさと寂しさが混じっているように見えた。




