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第162話 書き続けられる環境にいただけ

 部屋に戻った俺は、カミラの聖剣のキャラシートを作りながらグループRINEに連絡を入れた。


[田中奏太:カミラの聖剣がコミカライズ決定した]

[佐藤由紀:マジ!?!?!?!?]

[田中騎志:すごいじゃないか! おめでとう!]

[佐藤愛美麗:本当ですか!? おめでとうございます!]

[喜屋武鳴久:しにめでたいさー!]

[斎藤隆盛:マジかよ、すっげぇな!]


 続々とお祝いのメッセージが飛び交い、グループトークの未読数が一気に増えていく。

 みんな本当にいいやつらだ。こうして素直に祝ってくれる仲間がいるって、すごくありがたいことだと思う。


「どうするかな……」


 SNSで発表してもいいとは言われていたが、俺はまだ投稿する気にはなれなかった。

 あの夕暮れの公園で、東海林先輩が語ってくれた過去を、俺は忘れていない。

 筆を折った理由。夢を諦めた痛み。

 それでも、なお創作の現場に関わり続けようとした覚悟。


 そして、今は彼女の心の中に、もう一度何かを描きたいという熱が、まだ燻っていることも痛いほどわかっているつもりだ。


 今ここで浮かれて、東海林先輩の目に入る場所で「漫画になります!」なんて言えるわけなかった。

 思えば、この二周目で漫研に追加された俺の存在も、東海林先輩にとっては傷を抉ることになっていたのかもしれない。


「東海林先輩。どんな気持ちで俺の応援してくれてたんだろうな……」


 俺が一周目で味わったあのどうしようもない無力感を、東海林先輩は小学生のときから味わい続けていたのだ。

 漫画家の娘で描き方を教えてもらったという言い訳のできない最高の環境。

 自分が漫画の描き方を教えたトト先には追い抜かれ、友達も家族との絆も失いながら描き続け、挫折した。


 俺は追い抜かれる恐怖を知らない。

 才能がないなんて言い訳だった。

 俺は人に恵まれた。それを蔑ろにしていたにも関わらず、書き続けられる環境にいたのだ。


 俺には創作のセンスも何もないが、それ以外のものは持っていた。

 それに加えて俺は、二周目という反則のような出来事も起きた。

 俺には奇跡にも等しいチャンスを与えられた。


『田中君、やっぱりすごいねぇ』

『いやぁ、田中君もとうとう最終選考まで行ったかぁ』

『私はそっちの才能はないからね』


 そんな俺の存在を彼女はどう思っていたのだろうか。

 そんな彼女の前で俺はなんて言った?


『その程度で折れるようならそれまでの夢だったんじゃないですか』

『結果が出るまでやるのが努力です。自分に見切りをつけて手を止めた人間にどうこう言われる筋合いはないでしょう』

『誰かの才能を見て筆を置いたのは、あくまで自分自身の判断だ』

『努力も覚悟も足りなかった自分を棚に上げるんじゃねぇよ、タコが』


 俺の欠点である著しく低い共感力。

 わかってくれる人がいればいいなんて言って、俺は世話になっている先輩を傷つけ続けていたのだ。


「どうやって先輩に報告すれば……」


 グループで祝福のメッセージを受け取りながらも、投稿ボタンには指を伸ばせなかった。


 キャラシートの入力画面を見つめ直しながら、俺は深いため息をついた。


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