第149話 一周目の文芸部
小説を書くなら文芸部。
そんな短絡的な理由で選んだ場所だったが、そこは俺が思い描いていた〝創作の場〟とはまるで違った。
部室に集まるのは、創作というより〝オタク仲間〟としての雑談を楽しみにしている連中ばかり。
パソコンの画面にはアニメのまとめサイト。
キーボードは原稿を打つための道具ではなく、掲示板への書き込み用と化していた。
部誌は文化祭前にとりあえず出すことが目的で、寄せ集めた短編の出来もお察しレベル。
黙々と部室のパソコンで執筆作業に勤しんでいた俺からすれば、文芸部は居心地が悪い場所だった。
お友達ごっこがしたければクラスでしろ。
真面目な創作の場に逃げてくるな、邪魔だカス共が。
「田中君。感心だな。みんなにも見習ってほしいものだな」
釈規定。三年生で文芸部の部長。
文学青年を気取っているだけのうざい先輩だ。
「はあ……まあ、自分のペースでやってるだけなんで」
「その姿勢には感心だが、そんなに量だけ書いてもねぇ。量より質。文学ってのは上品でなければいけない。君のは、なんというか、書きたいことを詰め込みすぎなんだよね」
また始まった。
内心でうんざりしながら、俺は曖昧に笑ってごまかすことしかできなかった。
「最近の書き手は、文章が軽すぎるよ。SNSの延長で小説書いてる感じというのかな。読者に媚びてるというか……文学じゃないんだよなぁ」
「まあまあ、釈部長。田中君はうちの貴重な真面目な書き手なんですから、お説教もその辺にしておきましょうよ」
背後から、原先輩の苦笑混じりの声が割り込んできた。
釈先輩は眉をひそめる。
「ただ書けばいいというわけでもないだろう」
「まあ、その通りなんですけど」
「大体君の作品も俗っぽさが抜けていないぞ。愚かな読み手に媚びるような真似は作家としての」
「いやぁ……まさに部長の言う通りですよ。反省反省」
こうして釈先輩が評論家気取りのようなことを言うと、原先輩がなだめる。
文芸部では、いつもこんな感じだった。
「ごめんね、田中君」
「もう慣れました」
「あはは……」
原先輩は中間管理職というか、板挟みというか。
上には逆らえず、下には気を遣い、という絶妙に損な役回りだった。
「うちも漫研くらいガチでやれていれば、釈部長もマシだったんだろうけどね」
「俺はガチでやってますよ」
「それはわかっているよ」
俺もあのカス共と一緒にされた気分になり、つい言葉に棘が混じってしまう。
それでも原先輩は困ったように笑うだけだった。
「でもさ、文章って人に見てもらえないからね。どうしても比べられちゃうんだよね」
「いい物は読まれます。うちに予算が回ってこないのはちゃんと活動してないからでしょ」
「うーん、正論過ぎて何も言えないなぁ」
原先輩は困ったように笑いながらも、どこか諦めたような表情を浮かべるだけだった。