第130話 グルメ漫画
「ちょっと、そこ! 青春ラブコメ的な雰囲気出してる場合じゃないから!」
そんなやり取りを見ていた東海林先輩が、手をパンパンと叩きながら口を挟んできた。
「今回はうちの期待の新人〝田中カナタ先生〟の漫画原作デビューもあるんだから、しっかり気合い入れないとね!」
「漫画原作って言っても、サクっと書いた短編小説をトト先が漫画化してくれただけですけどね」
当たり前だが、小説を書けばそのまま漫画にできるわけじゃない。
漫画としての見栄えやわかりやすさ、コマ割りなど、漫画原作に必要な技能はまた別だ。
東海林先輩が懇切丁寧に教えてくれたおかげでなんとかなったが、なかなかあれはお粗末な出来だったと思う。
今後も漫画原作をやるのならば、もっと勉強しなければいけないだろう。
「はーい、謙遜禁止! お願いした翌日にプロット提出して、その二日後に三万文字の作品提出してきた大先生は黙ってて」
「まさかの逆異世界転移からのグルメ漫画。チョイスが良かったから締め切り余裕で前倒しできた。ナイス、カナぴ」
東海林先輩とトト先が矢継ぎ早に俺を褒め殺してくる。褒めても原稿しか出ませんよ。
「今回は短編ですし、一話完結型が合うと思ったんですよね」
同人誌は話のボリュームに対して値段が高いことが多い。個人単位で本を作るということはそれだけ大変なことなのである。
そんな割高の物をわざわざ購入してくれる読者に、少ないボリュームでも満足してもらえるにはどうすればいいか考えた結果、トト先の画力を活かしつつ、ちょっとした満足感を連続して与えられる形式の内容がいいと思ったのだ。
「田中君、グルメもいけるんだね」
「社畜と女騎士の掛け合いがマジで面白かったよ!」
「普通に続きが読みたい件」
部室のあちこちから賞賛の声が上がる。
「カナタ。あんたバカ舌なのによくグルメ漫画かけたわね」
「愛夏に手伝ってもらったからな。あとヨシノリにも」
「あたし?」
今回は家庭的な料理をおいしそうに作れる愛夏に頼み込んでオムライスやナポリタンを作ってもらい、それを資料として写真に撮っていたのだ。
「うまいもん食ったときのリアクションはヨシノリが一番参考になるからな」
「良い参考資料だった。ゆきぽよはいい顔する」
「だから、最近やたらとカナタの家でご飯食べる機会多かったのね……いや、愛夏ちゃんのご飯おいしいからいいんだけど」
俺とトト先がサムズアップすると、ヨシノリは複雑そうな表情を浮かべていた。
「でも、仕事で忙しい男の人が料理なんてするの?」
「社畜の独身男性ってのは料理にこだわるものなんだぞ」
だってそれ以外に楽しいことないからな。
営業部の人は飲み会ばっかりだったが、それ以外の部署の独身男性は料理にこだわる傾向が強かった。
これも社会人経験の成せる技である。
「なんか田中君の書く物語って謎にリアリティあるよね……」
「ある程度、現実をベースにしていますからね」
よく言うだろ。真実味のある嘘をつくには、二割の真実を混ぜろってな。