第128話 作業の前倒し
改稿が終わり、佐藤さんからもオーケーをもらえた。
イラスト周りも出版社側からゴーサインが出たこともあり、本格的にやることがなくなってうずうずしてしまう。
「佐藤さん、何かないですかね?」
この時代にはThiscodeがないため、やり取りがメールか電話になってしまうのがもどかしい。
そこでせっかくの夏休みということもあり、俺は佐藤さんにお願いして打ち合わせの時間を作ってもらっていた。
ライトノベルの編集は、漫画ほどしっかり内容に関わってくれるわけじゃない。
こちらが相談すれば、答えてくれる。そのくらいの距離感だ。
下手をしたら事務的な連絡だけの関係になることもあるだろう。
だからこそ、今このフェーズでできることは全部聞いておきたい。無駄だと思っても、一つでも多く知っておいた方が、あとで役に立つ気がした。
「そうですね、前倒ししても問題ないことと言えば……あとがき、著者コメント、コピーライトくらいでしょうか」
あとがきは本文のあとに載る作者の挨拶で、著者コメントはカバー袖にある簡単なプロフィール欄。
あとがきは作者の個性が出る部分でもある。
特にギャグ系の作品だと、あとがきもぶっ飛んでて面白いんだよな。
「コピーライトって著作権のことですよね?」
「ええ、©マークと言ったほうがわかりやすいですかね」
「ああ、あの作者の名前が英語で表記されてる奴ですね」
昔から気になっていた疑問が、ようやく繋がったような感覚だった。
ライトノベルの奥付やカバー裏に載っているアレである。
「そうそう、それです」
「やっぱり、あれって英語表記なんですか?」
「特に決まりはないですけど、皆さん英語にしてますよ」
なるほど、慣習的なものか。
「じゃあ、英語でいいです」
どうやら特別な理由があるわけでもないらしい。
ならば、俺もそれに倣ったほうがいいだろう。
「そうだ。印税を使った宣伝の件、オッケーでましたよ」
「えっ、マジですか!」
通らないかもしれないと半分以上は諦めていた話だっただけに、思わず声が上ずった。
「契約書の内容でどうにかできることになったんですよ。もちろん、ちょっと強引に押させてもらったところもありますけど」
「本当にありがとうございます。よく通りましたね」
「高校生ラノベ作家が印税全部突っ込んで宣伝をする。その事実すらも宣伝になるということも大きかったのでしょうね」
そっちの話題性は販促でも強い。
内容以外の部分がニュースになることで、関心を集める。
作品だけではなく、作者自身を広告塔にする。
作品をより多くの人に読んでもらうためにも、それは必要な手段なのかもしれない。