表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/180

第124話 文化部男子の天敵

 軽い調子の声と共に、部室の扉が滑るように開いた。

 珍しく髪を結んでいないヨシノリが、汗を拭きながら入ってくる。

 ふんわりいい匂いがする辺り、どうやらバスケ部の練習を終えてからシャワーを浴びてきたあとのようだ。


「な、何だ君は」

「漫研の部員ですよ。あなたこそ、なんなんですか」


 ヨシノリがすっと目を細めると、釈先輩はあからさまにたじろいで後ろに下がる。

 つい内面の可愛さに目が行くため忘れがちだが、ヨシノリは結構威圧感のある見た目をしている。

 自分より身長の高い三白眼の運動部女子なんて文化部男子の天敵みたいなものだ。


「どうかされましたか?」


 ヨシノリがわざとらしく首を傾げる。

 笑顔すら浮かべていたが、その目はまったく笑っていない。


「べ、別に……なんでもない」


 釈先輩の声がわずかに裏返った。


「とにかく! 忠告はしたからな!」


 彼はそのまま小悪党のような捨て台詞を吐いて部室を出て行った。

 ドアが閉まり、しんとした静けさが訪れる。


「ふー……なんだったのあれ? カナタに手ぇ出されてたら、マジでぶっ飛ばすとこだったよ」


 どうやら少し前に来て介入するタイミングを窺ってたようだ。


「あの人は釈先輩。文芸部の部長だ」

「ほえー、文芸部の部長ねぇ……」


 簡潔に説明すると、ヨシノリは興味なさげに頷きながら、振り返って東海林先輩の様子を見る。

 先輩は釈先輩が去った扉の方を見つめて、どこかほっとしたような表情を浮かべていた。


「由紀ちゃん、助かったよぉ……」


 涙目になった東海林先輩は力が抜けたように床にへたりこんだ。


「カナタの言ってたことは本当だったみたいね」

「というと?」

「文芸部って碌に執筆もせずにアニメや漫画の話ばっかりしているだけの集団って言ってたじゃない」

「田中君……」


 ヨシノリの言葉に、東海林先輩がジト目でこちらのほうを見てくる。

 漫研のほうは偏見だったけど、文芸部に関しては一周目の実体験である。


「事実だろ。まあ、釈先輩自体はそこそこ活動してるから嫉妬で凸ってきたんだろうけど」


 でも、あの人なぁ……一周目でも小説書いてる時間より他作品をこき下ろしてる時間の方が長かったんだよな。

 あれを真面目に活動していたとするのは抵抗がある。


「ごめんね。こっちの厄介ごとに巻き込んで」

「何言ってるんですか。俺はバリバリの当事者ですよ」

「あたしも漫研の一員ですから気にしないでください」

「ヨシノリはもうちょい部室来いよ」

「女バスの練習で忙しいの」


 そう言うと、ヨシノリはヘアゴムを咥えて髪をまとめ始める。


「そもそもさー、漫研に入ったのだって漫画読むのが好きだからで、描けるわけじゃないし」

「読み専も立派な部員だよ。というか、ちゃんと出席してくれるだけでありがたいよ」


 立ち上がったスカートの埃を払った東海林先輩は苦笑する。


「そもそも高校生で漫画を描ける人間がどれだけいるんだって話ですよね」

「私たちにとっては当たり前のことだけど、作る側の人間って意外と少ないもんね」

「カナタや伊藤先輩見てると、絶対無理だって思っちゃいますもん」

「由紀ちゃん。この二人はガチの上澄みだからね?」


 東海林先輩がため息混じりにそう言うと、トト先の方からはカリカリとペンが走る音が聞こえた。


 マジでブレないなこの人。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ