第12話 幼馴染との帰り道
入学初日は教科書を受け取って解散となった。
それからナイトやアミとは連絡先を交換して駅まで一緒に帰ることになり、他愛もない会話をしながら改札へ向かった。
「入学初日からいい感じのスタート切れたんじゃない?」
ヨシノリが笑顔で振り返る。
「おかげさまで、クラスの雰囲気も掴めたしな」
「カナタがどうなるかちょっと心配してたけど、思ったより馴染んでたわね」
「俺だってやればできるんだ」
自信満々に言いながらも、内心ではこの新しい環境に馴染めるか不安だった部分もある。
「それに本番は明日からだ」
「困ったことがあれば、何でも相談してくれ。もう僕たちは友達なんだからさ」
ナイトが爽やかに笑いながら肩を叩く。
やっぱりこいつ、リア充側の人間だ。
改札をくぐると、アミは都営三田線、ナイトは新宿方面の電車に乗るため、そこでお別れとなった。
「今日はありがとうございました!」
「それじゃあ、また明日!」
俺は手を軽く振り、彼らと別れて電車に乗り込む。
現在、車内にいるのは俺とヨシノリだけだ。
「まったく……やってくれたわね」
「俺の高校デビューに協力してくれるんだろ?」
「言ったけど、言ったけども!」
電車の揺れに合わせ、ヨシノリはポニーテールを揺らしながら恨みがましく俺を睨んできた。
「その、恥ずかしくないの? 幼馴染同士なんて絶対揶揄われるじゃん」
「別に周りからどう思われたっていいだろ」
「あんたは本当に人の目を気にしないわね」
また睨まれてしまった。もしかして、嫌だったのだろうか。
「でも、中学ボッチだったのによくあんなに人と話せたね。特にナイトやアミなんてあんた苦手なタイプじゃない?」
その辺は社会人としての経験が生きた部分もあっただろう。社会に出ると嫌でも最低限のコミュニケーション能力は身に着けないと生きていけないからな。
それに、何よりも大事なことがあった。
「俺があんな濃いキャラを見逃すとでも?」
「お願いだから、生きた人間として接してあげて」
あの二人は言ってみれば高級食材みたいなものだ。
キラキラネームのイケメンと巨乳の美少女。性格や趣味、彼ら自身がどんな人間関係を形成してきたか。それを根掘り葉掘り聞くためにも関わらないという選択肢はなかった。
「まあ、ナイトは面倒見がいいし、アミは素直なタイプだから、カナタみたいなのでもなんだかんだ馴染めたんじゃない?」
「俺ってそんなに心配される人間性してるか?」
「うん」
「即答かよ」
ヨシノリは楽しげに笑った後、ふと真面目な顔になる。
「あんまりデリカシーないこと聞いて嫌われないようにしなよ」
「俺はヨシノリが傍にいれば、あとは誰に嫌われてもいいんだけどな」
「ひゃえ?」
俺の言葉にヨシノリが素っ頓狂な声をあげる。
「ヨシノリのおかげで楽しい学校生活になりそうだ。ありがとな」
「ど、どういたしまして……」
顔を赤くして俯くヨシノリは物語のメインヒロインを張れるレベルで可愛かった。
今日も執筆が捗りそうだ。