第119話 アイディア勝負
それから作業に戻っていると、ベッドの上で寝転がっていたヨシノリが、読みかけの漫画をパタンと閉じる。
「ねぇ、カナタ。〝ドッペルストライカー〟の主人公、ちょっとカナタっぽくない?」
パソコンに向かってキャラシートをまとめていた俺は、振り返らずに答える。
「ああ、才能はないけど分析して真似るのは得意だからな」
「いや、言い方。柔軟で分析が得意って意味で言ったの!」
ヨシノリはどこかむすっとした声音で続ける。
「真似から入るけど、それを超えていくタイプっていうかさ。あと試合中の台詞がやたら論理的なの、ちょっとカナタっぽい」
「突っ込んだらダメなんだろうけど、試合中によくあんなに高速で思考できるよな」
キーボードを打ちながら苦笑する。
スポーツ漫画あるあるだが、回想シーンやめちゃくちゃ論理的に分析しているシーンは、実際だとコンマ数秒の間に行われているからちょっと気になってしまうのだ。
いやまあ、それを加味しても面白いと思うけど。
「あたしサッカーのルールとかわからないけど、これはテンポいいからするする内容入ってくるのよね」
「わかる。俺も中学の頃めっちゃハマってたわ。イギリス編のラストシュートのとこ、鳥肌立ったし」
「そうだ。ラノベってスポーツ系のないの?」
「ないことはないが、難しいな。文字だけじゃ動きがイメージしづらいだろ?」
「そこは、ほら。作者の文章力でカバーみたいな?」
「文章力があっても、読者に読解力がなきゃ伝わらないだろうが」
その点は明確に小説という媒体の弱点ともいえるだろう。
スポーツモノはそこに加えて、ルールの説明まで加えなきゃいけない。
「バトルもののラノベはあるのにね」
「ラノベのメインのターゲット層は漫画やゲームで育ってきた層が多いだろ。逆にスポーツとは縁のない人のほうが割合としては多いんじゃないか」
「要するに、縁がないから動きのイメージがしづらいってことね」
「データから分析したわけじゃないからなんとなくの分析だけどな。ただスポーツモノが受けにくいのは事実だ」
そういうのが書きたければ、いっそ漫画原作でストーリーを作ったほうがいいだろう。
実際、ドッペルストライカーも原作と作画は分かれているし。
「その点、原作者の小池先生はうまくやってるよな。〝ジュラシック・イリーガルズ〟は自分の得意分野を活かして作画と原作両方やってるけど、〝Dr.ホームズ〟はまた別の人に作画してもらってるし」
小池先生は俺と同じ分析と計算タイプの人だろう。
畑は違うが、物語を綴る側の人間として尊敬の念を抱かずにはいられない。
「えっ、その三つ作者一緒だったの!?」
ガバッとヨシノリがベッドから上体を起こす音がした。
「ジャンル全部違うじゃん! サッカーに恐竜の能力バトルに科学ミステリーって! え、同じ人!?」
「原作担当って結構そういう人多いぞ。アイディア勝負ならこの人は漫画界でも随一だ」
この三作のうちジュラシック・イリーガルズとドッペルストライカーはアニメ化までしている。
週刊連載やってるだけでもすごいのに、二作大ヒットしているのだから上澄みも上澄みだろう。
「すごすぎ……え、これ、どうやって思いついてるんだろ」
ヨシノリが漫画のページをぱらぱらとめくりながら、素直な尊敬のこもった声でつぶやく。
「アイディア勝負なら俺も負けてないぞ」
ラブコメ、異世界転生、ミステリー、ハイファンタジー、バトルもの、SF、和風ファンタジー、歴史物、etc……書いていないのは、ホラーくらいだろうか。
ちなみに、俺がホラーを書かないのはシンプルにホラーコンテンツが苦手で書けないからである。
「あんたも大概天才の域にいるわよね」
「バカ言え、俺が天才だったらこんな邪道だらけの作品群になってないっての」
よく学び、分析し、とにかく書く。
俺にはそれしかできないのだから。




