第118話 キャラシートの入力
佐藤さんとの打ち合わせも終わり、帰宅した俺は早速共有してもらった資料を確認していた。
契約書については、一巻の初版分の印税を宣伝に使えるか確認した上で改めて送ってくれるそうだ。
「何してるの、カナタ」
「キャラシートをまとめてるんだ」
俺は佐藤さんから受け取ったキャラシートの入力を進めていた。
エクセルのデータで受け取ったそれは、イラストレーターへの依頼用のシートだ。
キャラ依頼は最低でも四キャラ、最大六キャラ。
今回でいえば、主要人物は四人だ。
主人公の佐倉良久
ヒロインの田井中友紀
主人公の妹である佐倉佳奈
サブヒロインの田所真由美
そこへ二キャラ加えるとしたら、友人キャラの進藤悠仁と、今回の敵役である司馬蹴人だろうか。
敵役の名前の由来が、〝人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ〟なのは、陽キャに対する偏見が出ている気がしないでもない。
「というか、未刊行作品のやり取り見るなよ」
「この作品のヒロインのモデルあたしだけど?」
「そういう問題じゃないだろ」
家から持ってきた32アイスクリームを頬張りながらヨシノリがPC画面をのぞき込んでくる。
そういえば、彼女の母親である紀香さんは32で働いているから定期的に32アイスが食えるんだった。
贅沢な奴め。
「あ、カナタも食べる?」
「シェイクなら飲む」
「あんたは……」
32アイスは何でもシェイクにできるからアイスの中でも好きなほうだ。
シェイクはすぐ飲めるし。
「そうだ。賞金入ったからどっかのタイミングで焼肉行こうと思うけど予定空いてるか?」
「空いてる、いつでも空いてるよ! 行こ行こ!」
俺の提案に、ヨシノリは興奮して詰め寄ってくる。近い近い、距離が近い!
まったく、この食欲魔人は。
「じゃあ、女バスの合宿明けで行くか」
「やったー!」
ヨシノリは子どもみたいに手を叩いて喜んだ。
それだけ喜んでくれるなら、こちらとしても奢り甲斐があるというものだ。
「そのためにも、今は仕事に集中しなきゃな」
「何よー、あたしは邪魔ってこと?」
「そうは言ってないけど、ケジメはケジメ」
「ちぇー、ケチンボ」
ヨシノリは不満げに頬を膨らませながら、アイスを食べ続ける。
甘いものを食べながら怒るんじゃない。
「それにしても、結構細かいんだな……」
キャラシートは想像以上に細かく記載する必要があった。
大まかな外見はまとめていたが、身長なども細かく設定するとは思わなかった。
その他にも、参考キャラクターの画像なども添付する必要があったりするのだ。
「とりあえず、ヒロインのモデルは由紀だから写真添付しておくか」
「ヒロインだけ参考画像実写なの浮かない?」
ヨシノリが眉をひそめながら、アイスを頬張る。
確かにアニメキャラの参考画像が並ぶ中に一枚だけ現実の人物が混じっているのは、異様といえば異様だ。
「でも、ヨシノリがモデルなんだから実写が一番早いだろ」
「いや、そりゃそうだけど……これイラストレーターさんというか、伊藤先輩困るやつじゃない?」
「むしろ特徴つかみやすいと思うけどな。髪型とか、アイシャドウとか」
なんならトト先が担当してくれるとしたらキャラシートもいるか怪しいレベルである。
「そういえば、ヨシノリ」
「ん、何?」
「改めて思ったけど、俺の部屋に来るときもバッチリ化粧してるのな」
「っ!」
ヨシノリの動きがピタリと止まり、アイスのスプーンを握ったまま固まる。
そのまま眺めていると、耳の先までじわじわと赤くなっていく。
「気づくのが遅い!」
「怒るとこそこ!?」
頬を真っ赤に染めたヨシノリは、そっぽを向いてアイスに嚙り付くのであった。
やっぱり、ヨシノリを見ているのが一番小説の糧になるな。