第117話 印税と宣伝
それから打ち合わせはつつがなく進行した。
今後の制作進行として、イラストレーターさんに提出するキャラシートの説明やざっくりとしたスケジュールを共有してもらい質問タイムに入る。
「あの、印税についてなんですけど」
「後程共有する予定でしたが……やっぱり額とか気になります?」
「何となく8%くらいという話は聞いたことあるんですけど、実際どうなのかなぁって思いまして」
ネットで調べたこともあったが、実際にどうなるかは未知数だった。
「おっしゃる通りでうちは8%ですね。あと、紙のほうは刷った分お支払いする形になります」
「えっ、そうなんですか」
それは知らなかった。
仮に一冊700円の本を5,000部刷ったとしたら280,000円ということになる。
……冷静に考えると普通にそれだけじゃ食っていけないな。
刊行ペースが半年に一回だし、続刊しても刷る数は減っていく。
元々兼業でやっていくつもりだからいいんだけども。
「ちなみに初版部数ってどのくらいですか?」
「一万部前後を予定していますよ」
予想の倍か。結構いい条件とみていいだろう。
なら、一つ提案させてもらうとしよう。
「初版分の印税って宣伝費に全部回してもらうことってできないですか?」
「えっ」
これは東海林先輩の案だ。
漫画やアニメと違い、ライトノベルは文章が主体のコンテンツだ。
いかに内容で興味を引くかということを考えた際に、宣伝は他のコンテンツ以上に売り上げに直結する。
特に紙の本の初週売上は、続刊を出せるかという部分にも関わってくる。
「どうでしょうか」
もしもトト先が描いてくれることになれば、イラストレーター人気と絵のクオリティである程度の人気は出るはずだ。
それに、金賞を取った高校生ラノベ作家が印税を注ぎ込んで宣伝を行うという行為自体が、ある種のパフォーマンスにもなるはずだ。
ブーストはかけられるだけかけておこう。
「うーん、原作者様がお金を出して宣伝をして会社に利益が発生するのはまずいような……」
「出版社側のお金として宣伝するなら問題ないんですよね? 契約の仕方でなんとかできませんか」
佐藤さんは少し驚いた様子を見せつつ、やがて神妙な面持ちで尋ねてくる。
「あの、失礼かもしれませんが……本当に高校生ですか?」
実際は三十超えたおっさんだが、それを上回る現役高校生がいるんだよなぁ……。
「この案を考えたのは漫研の先輩なんです。僕も佐藤さんと同じ感想を先輩に対して抱きました」
「その人、うちの編集部来ないかな……」
機会があれば紹介するとしよう。
東海林先輩は絶対編集者向きだ。
「わかりました。私が編集部と掛け合ってみます」
「ありがとうございます。何卒よろしくお願いします」
現実的な判断と戦略性。やはり東海林先輩のアドバイスは正しかった。
漫研に入部したことでトト先とできた繋がりは確かに大きい。
だけど、東海林先輩という逸材と出会えたこともまた、俺にとって最強の武器となっていたのだった。
俺、一周目じゃ会社でマーケティング部所属だったんだけどなぁ……。