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第11話 田中ブラザーズと佐藤シスターズ結成

 入学式を終えた後、最初のホームルームが始まった。担任の教師が教壇に立ち、クラスの生徒たちを見渡す。


「それじゃあ、軽く自己紹介をしてもらおうか。前の席から順番に頼むよ」


 その言葉を合図に、一人ずつ自己紹介が始まっていく。

 最初は緊張しているのか、淡々とした自己紹介が続くが、徐々に場の空気も和らいでいく。そして、ヨシノリの番が回ってきた。


「佐藤由紀です。中学ではバスケをやっていました。バスケだけじゃなくて、運動全般好きだから体育祭は期待しててね! これから一年間、よろしく! 気軽に由紀って呼んでね」


 明るくハキハキとした自己紹介に、クラスの何人かが感心したような声を上げる。

 ヨシノリはつつがなく自己紹介を終えたが、特に俺との関係には触れなかった。まあ、わざわざ説明することでもないか。

 ヨシノリが席に着いたのと入れ替わりで後ろの席にいた女子が立ち上がる。


「佐藤由紀さんに続いて佐藤その二です! 私の場合、名前が結構変わってるんですけど愛情の愛に、美しいの美、麗しいの麗と書きます。気軽にアミって呼んでくださいね」


 若干、ヨシノリの自己紹介に乗っかりながら佐藤その二が自己紹介をした。

 愛美麗とはまた欲張りセットみたいな名前である。


 その名前に負けず劣らず、容姿のほうもとんでもなく愛と美しさと麗しさに溢れていた。

 ウェーブのかかった明る目の茶髪をハーフアップにしていて、口元のホクロは色っぽさがある。胸元も制服のボタンが若干張っていて、男子の視線を釘付けにしていた。

 全体的にふんわりした雰囲気の子で、これがラノベだったらメインヒロイン級の容姿である。ヨシノリがムチムチなら、アミはムッチンムッチンである。


 その後、佐藤その三はおらず、淡々と自己紹介が進んでいく。別ベクトルの可愛いダブル佐藤の後じゃしょうがないよな。

 そして、全オタクが一瞬で読める苗字を持つ小鳥遊君の自己紹介が終わり、ついに俺の番がやってくる。


「田中奏太です。趣味は読書で、特にミステリーが好きです。映画化もされた作品だと、西野圭司の〝容疑者Yの献身〟とかがお気に入りかな。好きなんだよな、ガリレイシリーズ」


 読書好きと言うだけでは印象に残りづらい。だから、具体的な作品名を挙げることでちゃんと読書が好きなんだとアピールする。


「あと、俺のことはカナタって呼んでほしい」


 その言葉に、何人かが不思議そうな顔をする。


「カナタ? 下の名前、奏太じゃなかったっけ」


 案の定、後ろの席の奴が疑問を口にした。


「ああ、これはそこにいる幼馴染に付けられたあだ名なんだ。ずっとそう呼ばれてるから気に入っててさ」

「なっ」


 そう言うと、隣のヨシノリが口を開けたまま固まった。


「しっかし、寂しいねぇ。てっきり、自己紹介で俺のことにも触れてくれると思ったんだが……」


 大仰に肩を竦めて見せると、教室の中がざわつき始めた。

 その空気に耐えられなくなったのか、ヨシノリは顔を赤くして叫ぶ。


「何で自己紹介でカナタの紹介をしないといけないのよ!」

「そっか、それじゃ他己紹介になっちゃうのか」

「そこじゃないっての!」


 周囲のクラスメイトたちはクスクスと笑いながら、俺たちのやり取りを楽しんでいる様子だった。

 よし、ヨシノリのおかげで最高のスタートダッシュが切れたぞ。


 それから盛り上がったり、凍り付いたり、いろいろな自己紹介があったが、特に問題が起こることもなく自己紹介は終了した。

 自己紹介が終わると、早速ヨシノリが俺に詰め寄ってきた。


「カナタァ……あんたあたしを出汁にしたわね!」

「俺の自信はどこから、由紀から」

「風邪薬みたいに言うな!」


 俺の言葉に、ヨシノリは顔を赤くして拳を握りしめた。


「ははっ、本当に仲がいいんだね」


 後ろから声がしたので振り返ると、そこには自己紹介でも見た爽やかイケメン田中騎志(たなかないと)がいた。

 苗字俺と同じよくある田中だが、下の名前のインパクトが凄い。


「おっ、田中もそう思うか」

「君も田中だろ。ナイトでいいよ」

「じゃ、俺はさっきの通りカナタで」

「それじゃ田中同士よろしく、カナタ」


 会話の取っ掛かりがある奴が同じ苗字で助かった。こういうときよくある苗字は名前呼びに移行しやすくて助かる。ありがとう、全国の田中さん。


「あのあの! 幼馴染っていつからのなんですか!」


 今度はヨシノリの前の席の女子が目を輝かせて話しかけてきた。こちらも名前負けしていない容姿を持つ愛美麗さんである。

 というか、この子もなかなかキャラが濃いな。


「幼稚園からだ」

「えぇ! 歴史のある幼馴染じゃないですか!」


 その歴史、穴だらけだけどね。


「た、ただの腐れ縁だから……」


 慌てて訂正を入れるヨシノリだったが、その声には覇気がない。


「てか、アミでいいか? 由紀も佐藤でややこしいし」

「もちろんです!」

「いや、あんたあたしのこと佐藤って呼んだこと――あるにはあったけども!」


 タイムリープ後の再会時に佐藤と呼んだせいか、ヨシノリのツッコミにはキレがなかった。


「それじゃ、田中ブラザーズと佐藤シスターズ結成しちゃおうか」

「いいですね。結成しましょうよ!」


 ナイトが提案し、アミもそれに乗っかる。


「とのことだが、どうする由紀?」

「ああもう! いいよ、結成でも何でもすればいいじゃん!」


 ヤケクソ気味に叫ぶヨシノリに、また周囲が笑った。

 こうしてうまい具合にキャラの濃いイケメンと美少女にお近づきになることができるのであった。


 ……こんな濃い奴らの存在を忘れるって、俺やばくない?

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