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第102話 炭火の残り香

 慌てて部屋を飛び出したものの、コテージの庭は綺麗さっぱり片付けられていた。

 炭火の残り香がわずかに漂い、地面にはうっすらと火の粉が舞った跡が残っている。

 しかし、食器や調理器具、椅子やテーブルなどはすべて片付けられ、まるで最初から何もなかったかのような静寂が広がっていた。


「マジか」


 俺は額に手を当てて小さくため息をついた。完全に出遅れた。

 申し訳なさと同時に、みんなの段取りの良さに感心する。

 周囲を見回しても、もう誰の姿もない。

 さっきまで賑やかだった場所が嘘のように静まり返っていた。今日、散々はしゃいだこともあって、みんな疲れて寝てしまったのだろうか。

 夜のコテージは心地よい潮風に包まれ、遠くで波の音が規則的に響いている。月明かりが庭を優しく照らし、ほんのりとした明るさを保っている。


「……とりあえず、部屋戻るか」


 コテージの玄関へ向かおうとしたとき、不意にカーテンの隙間から明かりが漏れているのが見えた。どうやら女子組はまだ起きているらしい。


 いや、謝るのは明日の朝一。みんな揃っているときだな。

 そっと扉を開け、コテージの中に足を踏み入れる。室内はしんと静まり返っていた。わずかに残る炭の香りと、バーベキューで使った調味料の匂いがまだ空気に溶け込んでいる。


 リビングに足を踏み入れると、床にぶちまけられたトランプの上で、喜屋武とゴワスが眠りこけていた。

 そういえば、この二人は初日からずっとバカみたいにはしゃぎ回っていた。いくら体力バカといっても限界はあったようだ。二人ともぐっすり眠っているのか、微動だにしない。


「……めんな、さい。佐藤さん、ごめんなさい……!」


 突然、喜屋武が寝言を呟いた。

 顔をしかめ、寝返りを打ちながら何かを必死に謝っている。佐藤さんってアミのことじゃないよな。いつもアフロンって呼んでるし、別の佐藤さんだろう。


「……俺の人生どうして……こうなっちまったんだろうな……」


 続いてゴワスの寝言が聞こえてきた。

 その言葉は、まるで人生の大きな選択を誤った男のような哀愁があった。眉間にしわを寄せ、苦悶の表情を浮かべながら、何度も首を横に振っている。

 どうやら二人共悪夢を見ているようだ。ちゃんとベッドで寝ないからそうなるのだ。


「まったく、どんな悪夢を見ているんだか」


 俺は静かに息を吐き、床に散らばったトランプをそっと集め始めた。せめて、寝ている間に片付けくらいはしておくか。

 一通り片付け終わった後、二人にブランケットをかける。


 そういえば、男子部屋にナイトはいなかった。どこで寝ているのだろうか。


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