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第10話 実は隣の席でした

 校門前に到着すると、そこは新入生とその親たちでごった返していた。

 記念写真を撮る親、緊張した顔で友達を探す新入生、既にグループを作って盛り上がる連中。カオスである。


「いやー、懐かしいな……」


 思わず感慨にふける俺を、ヨシノリがジト目で見てきた。


「あんた、そんなおっさんくさいこと言ってないで、ちゃんと入学式に集中しなさいよ」

「はいはい……てか、親御さんは?」

「カナタのとこと同じでどっちも仕事」


 ヨシノリのとこも両親共働きだったっけか。 


「写真どうするよ」

「別にいいんじゃない? どうせあとで集合写真も撮るだろうし」

「それもそうだな」


 俺たちはそのままクラス分けが張り出されてる場所まで向かう。


「俺は一年B組か。ヨ――由紀は?」

「あたしもB組。一緒だね」


 同じクラスだとわかると、ヨシノリは花が咲いたような笑みを浮かべた。

 おおう、なんて破壊力だ。


 しかし、そこで俺は気づいてしまった。


「同じ、クラス」


 俺がタイムリープしたのは既に入学も決まったあとの春休み。

 つまり、一周目でもヨシノリと同じクラスだったということだ。

 横で嬉しそうにしているヨシノリを見て、不意に罪悪感が襲ってくる。


「なあ、由紀」 

「うん?」

「まずは、これから一年間。よろしくな」

「こっちこそ、よろしくね!」


 だからやり直そう。少なくとも、俺の夢を初めて応援してくれた大切な幼馴染に恥ずかしくないように。


 一年B組の教室に入ると、既に半分ほどの生徒が席についていた。

 周りの様子を伺っていると、いかにも活発そうな男子や、大人しそうに本を読んでいる女子など、個性豊かな面々がそろっている。


 うーん、こうしてみるとキャラ素材の宝庫だ。

 こんなご馳走をスルーするなんて、なんてもったいないことをしていたんだ。


「……カナタ。あんたの考えてること当ててあげようか?」

「おう」

「キャラ素材の宝庫だ。って思ってたでしょ」

「す、すごい……大正解だ」


 これが幼馴染の洞察力というやつか。俺には備わってないけど。


「わかってたけど、こんな調子で大丈夫かなぁ……」

「なるようになるだろ」


 座席表を確認すると、俺はあることに気がついた。


「席隣じゃん。えっ、隣の席、なのか」

「何驚いてるの。佐藤と田中だから出席番号順なら隣になってもおかしくないでしょ」


 そして突きつけたれる衝撃の事実。


 隣の席にいたのに、ヨシノリに気がつかなかったの俺?

 どれだけ周りが見えていなかったんだ、俺は。


 一周目の高校生活。俺は誰と同じクラスかなんて気にしてなかった。机を並べていたはずなのに、誰と話した記憶も残っていない。


 まあ、ヨシノリが俺に話しかけてこなかった理由は想像がつく。

 中学でもほとんど絡みもなくて身嗜みすら整えていないド陰キャの幼馴染なんて話しかけたくなかったのだろう。

 慶明高校にした理由も知り合いのいない高校に行きたかったからだし。


「というか、カナタ。自己紹介はどうするつもりなの」


 席に着きながらヨシノリがそんなことを言ってきた。


「普通に趣味は読書って言うつもりだけど」

「無趣味の言い訳っぽいわね」

「別にいいだろ」


 高校デビューと言っても下手に目立とうとするのは悪手だ。こういうのは普通でいいんだ。


「自己紹介ってそんなに重要か? 俺、ラブコメ書くとき面倒だから省いてるんだけど」

「小説から離れなさい……」


 深いため息をつかれてしまった。


「そうだなー……あっ、大丈夫だ。いいこと思いついた」

「その自信はどこからくるのよ」

「由紀がいるからこそだな」

「ひゃえ?」


 ぱっと見、俺はただの身嗜みが整っているだけで特徴はない。

 趣味も執筆があるが、いまいちウケは悪そうである。


 そんな俺にも突出した特徴があるのだ。

 内心、ほくそ笑みながら俺はその時を待つのであった。


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