新婚生活2
やることなすこと全てが裏目にでる。
一体どうすればいいというのか。
結婚すればそれで良いと思っていた。
なのにアイリスとの距離は開くばかり……。
「おい」
今朝は会うのも怖くて逃げるように城へと赴いた。
王族は今回の結婚式には参加していない。
まぁ、報告のようなものだ。
「おい」
……何がいけなかったのか。
温室は喜んでくれていた。
意味、とは?
温室を送るのに意味が必要だったのだろうか?
そう言えば結婚前から贈り物は好まれなかったが……。
やはり何か特別な意味がないと受け取ってもらえないのだろうか?
「おい!!」
「……なんですか。今落ち込んでいるんです。そっとしておいてください」
「うっとおしい。なんで一人で来るんだ。アイリスはどうした」
「……なんですか。どうせジル様も訓練の時アイリスと知り合ったんでしょう」
「は? 訓練……? ああ、兵役時代のときか? あれは俺に会いに来ていたついでの見学だ。俺を見に来ていたんだ」
「……もう、聞き返す気力もありませんよ」
は~っとため息を吐く姿さえ無駄に輝いているゼノを鬱陶し気に見るジル。
新婚だと言うのに城にのこのこと1人で来たのも気に食わない。
きらっきら輝きながらぶつぶつと事の顛末を語っているのがとても気持ち悪いと感じる。
……いくら昔なじみとはいえ、気を抜きすぎではないだろうか。
「だって、あんなに喜んでくれていて……アイリスの花を……」
「アイリスの花? アイリスをアイリスに送ったのか? ……ややこしいな」
「そうなんです! とても喜んでくれて。でもなぜか勘違いとか何とか言って、逃げられてしまって……」
「……まさか泣かせてないだろうな」
「……わかりません」
チャキっと金属音が響く。
ジルを見れば視線だけで人を殺せてしまうのではないかと言うほどの形相で睨みをきかせ、剣に手を掛けていた。
しかしゼノは落ち込みすぎていて(慣れもあるが)反応すら示せない。
ゼノの余りの落ち込みようにジルも感じるところがあったらしく、剣を収め再び席に着く。
ジルの存在を無視してぶつぶつと言い続けるゼノに付き合っていると、どうやらアイリスがまだゼノの毒牙に掛かっていないことがわかった。
そのことに満足して笑みを浮かべふんぞり返った。
しばらくそうしていると、背後で新たな気配を感じた。
「……何? どうしたの、これ」
「ん? まぁ、このまま聞いていれば分かるんじゃないか?」
「つまり夫婦喧嘩?」
「喧嘩にもなっとらんだろ」
「ふーん」と言って席に勝手についているのはシャーリーン。
ジルの妻だ。
キャラメル色の髪にアーモンドのような目をしている。
その瞳には強い光が宿っており、勝気で生意気そうなのが一発でわかる。
他国からの政略結婚にも関らず、二人の関係は良好。
馬が合うのだ。
傍から見れば仲睦まじく御子が期待されているが、親しいもの達は知っている。
友達以上恋人未満。
もう、清清しいまでに親友、真友、心友!! なのだ。
ゼノの一人愚痴を聞き終わったシャーリーンは爆笑した。
姫にも関らず、腹を抱えて。それはもう盛大に。
ジルは妻のこんな所を激しく気に入っている。
「きゃはははははは!!! ゼノが! あのゼノがぁ~!! ぷぷ……た、たかが十七歳の小娘に振り回されてる……!!」
「たかが? 俺のアイリスだぞ」
「え!? そうなの!? 私まだ会ったことないのにー!! ずっるーい!! って言うか、上手くいってないみたいだし、ジルの側室に上げちゃえば? そしたらいつも一緒じゃん!? 私も会えるし、一石二鳥よ!!」
「流石は俺の妻だ。いい考えだな、そうしよう」
「駄目に決まっているでしょう!!!!!」
聞き捨てなら無い怪獣夫婦の会話にゼノは焦って口を挟む。
そのゼノの焦りようにシャーリーンがまたしても大爆笑。
腹を抱えて机をばんばん叩いている。
ゼノは話しても無駄だとがっくりうな垂れた。
「ひーひー……は、はは……ごめんごめん。あのね、あなたアイリスの花言葉知ってる?」
「花言葉、ですか?」
「あー……やっぱ知らないの。あなたキザそうだから絶対知ってそうなのに……実はすっごい堅物だからびっくりよねー。興味の無い事には一切時間を割かない。……花なんて名前知ってただけで上出来?」
「そうだな。もてるくせに浮いた噂が一つも無いしな。やってることは別として」
「誤解を招きそうなことをさらりと言わないでください!! 私は真っ白です!!」
「子持ち男が何言ってんのよ」
「止めさすなよ」
この怪獣夫婦め……と心の中で言うとシャーリーンが睨んできた。
「今、失礼なこと考えなかった?」
「いいえ、そんなことありませんよ」
にっこり何とか笑顔を作るがばればれなのは承知している。
めげずに笑顔を作っていると「まぁ、いいわ」と鼻を鳴らした。
「せっかくアイリスちゃんが逃げた理由、教えてあげようかと思ったのに~」
「!!!!!!」
身を乗り出してシャーリーンを見る。
と、言うか細い肩を掴み揺さぶっていた。
「お、教えてください!!」
「お、お、お、教える、から……ふぅ。私はあなたを愛しています」
「なんだ? シャーリー。ゼノが好きだったのか」
「……ごめんこうむります」
「はぁ!? 違うわよ!! んなわけないでしょう!? 花言葉よ!は・な・こ・と・ば!!!」
物凄い形相で睨まれた二人は途端に口を結んだ。
そのことに気をよくし、シャーリーンはよし、っと笑う。
「花言葉も知らずに花を贈るなんて無神経じゃない? だってありえない量贈ったんでしょ? しかも贈ったのがアイリス。そりゃ、期待しちゃうでしょ」
「……それが逃げる理由ですか? 期待してくれて全然大丈夫なんですが……つまり、私の愛は迷惑だと……」
「あー!! もー!! 鬱陶しい!! あなた自分の顔鏡で見てるの!? 歩く公害並みなの自覚してる!? 歩くたび女引っ掛けて男ときめかせて気色悪いのよ!! ……って! 話反れちゃったじゃない! だから、何ていうの? アイリスちゃんってどこにでもいるような平凡な子なんでしょ?」
「俺のアイリスが平凡!? 何を言う! アイリスは世界一可愛い!!」
「何でジル様が言うんです!? アイリスは私のものです!!」
「うるせーーーーーー!!!」
キレたシャーリーンがぺし! ぺし! と二人の頭を叩いた。
「最後まで黙って聞け」
「あ、ああ」
「は、はい」
「よし! ……で、あのね、あなたと釣り合うのって結構大変なのよ。よっぽど自分に自信がないとあなたの横になんていられないわよ。聞いてたらアイリスちゃんって大人しくて控えめなんでしょ? そんな子があなたにいきなり愛を囁かれても信じられないのが普通だと思うわけよ。もしくはからかわれてるとしか思えない」
「! そんな……!!」
「ま、乙女の一般論」
「シャーリーから乙女とか言う言葉を聞く日がこようとは……」
「あら、私だって女の子ですよ? あ・な・た?」
「……やめろ」
ぐるぐると考え出したゼノを放置し、夫婦はふざけあいを始めた。
しばらくしてゼノはがばっと立ち上がり、「失礼します」と挨拶をして出て行ってしまった。
残った二人はゼノが出て行った扉を見つめる。
ジルは眉間に皺を寄せ、シャーリーンはにまにまと。
「何? 行かせたくなかった?」
「当たり前だ。誤解が解けたら俺のアイリスが犯される」
「……ジルはほんとに好きだね、アイリスちゃん。私も会いたいな」
「子爵領に比べて伯爵領は城に近いからな。いつでも呼び寄せられる。明日にでも呼び出すか」
「はは! それは流石に鬼畜じゃない? まだ結婚したばかりだし、しばらくはそっとしておいてあげなよ」
「……俺のアイリスが」
「犯されないから。合意なはずだから」
ちっと舌打ちをするジルの背をべしべし叩くがむすっとしたままだ。
苦笑するしかない。
ジルと結婚してからアイリスのことをずっと聞かされていた。
シャーリーンはアイリスが気になって仕方が無いのだ。
ジルが気に入る相手なら間違いなくシャーリーンも気に入るはず。
先ほどジルに鬼畜と言ったが、シャーリーンも早く会いたいのでそんなには待てない。
というか待たない。
まだにまにましているとジルが立ち上がっていたシャーリーンを見上げていた。
「シャーリー、何か用事があったのだろう」
「あ、そうだ。ゼノが余りにも面白いから忘れてた」
「なんだ?」
「稽古つけてよ!! 暇だし体鈍るしもー最悪なんだよー」
「俺は忙しい……しかし、そうだな。夜でいいなら」
「もちろん!!」
にぱ、と笑ってシャーリーンはさっさとどこかへ行ってしまった。
ジルも政務へと戻る。
執務室に戻りながらも、ジルの眉間の皺は取れない。
考えるのはゼノとアイリスのこと。
ゼノは確かに信頼できる男だ。
しかし。
(アイリスを泣かせたら殺す)
例え幼馴染であろうとも、これだけは譲れない。
ジルは伯爵領の方角を見る。
そしてアイリスの誤解を解くべく奮闘しているはずの幼馴染を思った。
これ、ちゃんとハッピーエンド予定ですからね!
どんなにゼノが可哀想でも!!(笑)