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伯爵様の新妻  作者: 小宵
Ⅲ:伯爵様と恋する新妻
22/23

自覚

新章はラブメイン。

と言うかシリアス終了……なるか??


 静寂に包まれた室内。

 窓から見える夜空には星が瞬いている。

 伸びてきた長い腕がアイリスを捕らえ、優しく拘束した。

 とくとくと聞こえる心臓の音が自分の心音と重なって大きな音になっていた。

 まるで秒針のような規則正しい音がアイリスを安心させる。

 ゆっくりと力を抜いて身を預けると、相手の体温をより近くに感じた。

 ぬるま湯の中に入っているような心地よさに目を閉じて、子供のように身を捩じらせてすっぽりと膝の上に収まる。

 頭上からくすり、と笑われたのを感じてちらりと見上げれば目を細めてアイリスを見つめているゼノと目が合い、ばっと視線をそらした。


「……アイリス」

「う、え、と……」


 頭上から悲愴な声が聞こえ、内心焦るが上手く話すことができない。

 

「……アイリス、まだ、無理ですか?」

「いいえ、そうではなくて……!」


 ばっと見上げれば切なげにアイリスを見下ろす麗しの君。

 ぶしゅーっと頭から煙をだしてアイリスはゼノの胸に再び顔を埋めた。


「アイリス? どうしたんですか?」

「……なんでもありません」


 バクバクとなる心音、顔から火が出そうなほど発熱している。

 

 アイリスはまだゼノの顔をまともに見ることが出来ないでいた。

 母のように蔑まれると危惧していた。

 前までは。


「アイリス?」

「……はぅ」


 どうすればいいのか分からない。

 

(……どうしよう。なんだか、物凄く……好き)


 自覚じた途端、気持ちがあふれ出す。

 今までゼノに母の面影を重ねていたのが嘘のようだった。

 侮蔑の目を恐れて顔が見られないのではない。恥ずかしくて、目を合わせることができないのだ。

 ぎゅぅ……っと目の前にあるゼノの服を掴んで下を向き続ける。

 何か話したほうがいいのだろうか、とぐちゃぐちゃの頭で考えていると背中に回されていた暖かな腕が解かれた。

 驚いてその腕を取り見上げれば、ゼノが少し驚いた顔をしてアイリスを見た。

 そしてその驚きの顔はすぐに蕩けるような優しい笑みに変わる。

 腕を掴んでいたアイリスの手を包み込むように握りその指先に小さくキスを落とす。

 指先がじぃん……と痺れ、発熱していく。

 キスを落とされた指先を凝視するばかりで、ゼノの顔を見ることはない。

 

「このようなことをされては、期待してしまいそうになります……」

「っ」


 掠れるような声で言われて心音が高まる。

 自分の心音がうるさくてゼノが何を言っているのかわからない。


「アイリス……」

「……やっ」


 頬を包むように手をかけられそうになって反射的に逃げてしまった。

 あ、と思ったときにはゼノの手は引っ込められ困り顔で微笑んでいた。

 違う、と首を小さく横に振るがその意味を理解されることはなかった。


「すみません、唐突でしたか?」

「あの、その」


 自分の体なのに思うように動かない。

 自分の声なのに思うように出ない。

 掠れて喉に引っ掛かったような声しか出ない。

 それでも何か言わなければゼノが離れてしまうのではと必死に言葉を紡ごうとする。

 ぱくぱくと何度も口を開いては閉じる。

 何か言葉を紡ごうとするアイリスを根気強く待ち続けるゼノに申し訳なくて、こんな自分が嫌になって俯いた。

 すると握られた手が目に入って、ぽろり……と涙が出た。

 ぽつりぽつりとアイリスの手を握っているゼノの手の甲に涙が落ちる。

 ぎょっとしたゼノがもう片方の手を彷徨わせ、おろおろと挙動不審になった。


「え!? そ、そんなに嫌でしたか!?」

「ち、ちが……」

「すぐ離れますから、どうか泣かないでくださ……」


 腰を浮かしかけたゼノを見て、体だけでなく心まで引き裂かれるような痛みが走る。

 その腕に縋りつくように手を伸ばし、涙に濡れた目でゼノを見上げれば呆然と目を見開き固まったままのゼノとしばらく視線が重なった。

 透き通るような青く美しい瞳に自分の姿を見つけて、恥ずかしくなってまた俯く。

 瞬間、ゼノがはっとしたように腕を取るアイリスの手を解かせようと手を重ねた。


「アイリス、どうか手を離してください。どうか、無理はなさらずに」

「無理など、していませんっ……」


 俯いたままでそれだけ言って、ゼノを捕らえる腕に力を込めた。

 はーっと長いため息が聞こえてびくっと身体が震える。

 

「困りました……そのようにされては抑えられなくなりそうです」

「……? ひゃぅ……!」


 さらりと前髪を掻き揚げられ、驚いて手を離し後ずさってしまった。

 寂しげに笑うゼノと目が合って、しまったと顔を顰めてしまう。

 それがまた誤解を生んだのだろう。

 ゼノが離れていく。

 ゼノを追いかけるように手を伸ばせば小さく振り向いたゼノがぎょっと目を見開きアイリスに腕を伸ばした。

 瞬間、がくっと身体が傾く。

 あ、と思ったときにはゼノの胸に抱きとめられていた。


「っ……! あ、なたは! 危ないでしょう!」

「……」

「え、あ、いえ、その。寝台の隅であんなふうに……ああ、怒鳴って申し訳ありませんでした。どうか泣かないで下さっ……!!!!」

「……ひぃっく」

「え、あ、ああああああああ、アイリス!?」

「ふぅっ……ひぅ……」


 目の前の胸に顔を埋めて、ゼノがもうどこにも行かないようにしっかりと抱きつく。

「え? あ、え? う?」と訳の分からないことを言っていたがしばらくして無言になり、そしてさらにしばらくして、たどたどしくアイリスの頭を優しくなで始めた。

 いつの間にか涙も収まり、頭をなでてくれる大きな手の心地よさに目を閉じてすりすりとゼノの胸に擦り寄った。

「うぅ……」と喚き声が聞こえて見上げるとゼノは情けない顔をして視線を彷徨わせていた。

 じっとその顔を見つめる。

 

(……かわいい)


 おろおろとしているゼノは眉をハの字にして目を少し潤ませていた。

 もっと近くで見てみたくて距離を詰めれば、彷徨わせていた視線をアイリスに止め切なげに熱い吐息を吐き出す。


「……アイリス、その……ど、どうなさったのですか……?」

「……」

「あ、アイリス? そ、その……近くないですか? い、いえ! 嫌なわけではないのですよ!? む、むしろ嬉しいのですが! でも」

「……」


 焦るゼノが予想の他可愛くて、じっと見つめてしまう。

 自分よりもずっと年上なのに……と顔を真っ赤にさせているゼノを見つめ続けた。


「アイリス……」

「ぁ……」


 突然真剣な顔をしたゼノの顔が間近に迫ってきたが避ける気にはならなかった。

 そっと目を閉じ、口づけを受け入れる。

 優しくて、温かくて、愛おしいその感触に酔いしれた。

 好きな人とするキスがこんなにも気持ちいいとは思わなかったから。

 離れていくその感触を追いかけて、自分からゼノに口づけていた。

 

「!」


 アイリスの腕を掴んでいたゼノの手にぐっと力が入ったのが分かったが、止められなかった。

 もっとして欲しくて何度も何度も唇を擦り合わせる。


「……アイリス……待ってくださっ……少し、落ち着いて」

「ん……やです」


 今までは、緊張と恐怖で感覚を味わうどころか気持ちを落ち着けるので精一杯だった。

 好きだと言う事を自覚して認めて、なんの迷いもなく思い人に身を預けられる幸せ。

 何も考えられなくてその行為に夢中になっていると、べりっと剥がされた。

 つい不満気にゼノを睨んでしまったのだが、ゼノは表情を無くしてがばっとアイリスを抱き上げた。


「きゃあ!」


 抱き上げられて初めて床に座ったままなことを思い出し、赤面する。

 驚いて首に手を回してしまったが、意外と太い首に驚いた。

 そっと寝台の上に下ろされて、アイリスの上にゼノが乗りあがる。

 肩に手を置かれて後ろに力を加えられそうになったが、アイリスは先ほど腕を回したゼノの首が気になって、押し倒されること無く、逆にゼノに迫った。

 首に手を当ててその太さを確かめる。

 抱き上げられたときに感じた厚い胸板。

 着痩せするのか、触ってみた腕は筋肉質で硬い。

 ぺたぺたとゼノに触って存在を確認する。

 すると、ついっと頤をつかまれ顔を上げさせられた。


「アイリス」

「……」


 この骨ばった大きな手が、逞しい身体が、蕩けるような声が……そして、目の前で熱い視線を注いで来るこの人が、私の夫。

 

「……嬉しい」

「何がですか?」

「ん」


 言いながら、柔らかく唇を食まれてはっと熱い息が出る。

 目の前のゼノの顔はいつもの優しげなものとは違い真剣そのもの。

 どくんっ……っと心臓が跳ね上がった。

 

「あ……!」

「アイリス……」


 今更ながらに自分のしでかしたことに赤面する。

 真っ赤になって離れようとしたのだが、アイリスの小さな身体はゼノの腕の中にすっぽりと納まっていた。

 そればかりか薄く唇が開いたままのアイリスの口腔に舌を侵入させつつ、寝台に横たえられてしまう。

 

「アイリス」

「んぅ……!?」


 それでもゼノの与えてくれる口づけは心地よくて身を任せてしまう。

 が、するりと腰を撫でるように動いた手に驚いて目を見開いた。


(え、え? もしかして、今……!?)


 ゼノの行動が意図することに急に焦りを覚えたのだ。

 

(た、確かに好きだけどっ……! 心の準備がっ……!)


 好きだと自覚してまだそんなに経っていないのだ。アイリスの心に芽生えた気持ちはまだ小さく、幼い。


「ぜ、ゼノ様。そう言えば陛下に黙って城を出てきてしまいましたが大丈夫なのでしょうか?」

「陛下には私から挨拶をしたので大丈夫ですよ」

「リュカ様にも帰ってきたことを知らせていませんし……」

「……こんな夜更けなのですから、明日の朝でも構いません。それよりも……」

「っ……!!」


 咄嗟に近づいてきたゼノの顔を避けてしまい、頬にゼノのキスを受ける。

 ああ、またやってしまったとぎゅっと目を瞑る。


「アイリス……お願いです。私を見てください」

「む、無理です……」


 蚊の鳴くような声で言うが心の中では謝罪の嵐だ。

 頭上からゼノのため息が聞こえて、涙が溢れる。

 顔を手で覆って涙を流し謝罪を繰り返す。


「ごめんなさい、ごめんなさい……。怖いんです。……でも、ゼノ様のこと好きなんです。大好きです。それだけは、信じて」

「……どうか泣かないでください、アイリス。大丈夫です、信じています。……それに」


 手をそっと退けさせられアイリスの涙はゼノのキスによって吸い取られていく。

 優しくゼノが微笑む。


「愛しています」

「ゼノ様……」


 最後にそっと触れるだけにキスをしてお互い柔らかく微笑み合った。

 起き上がったゼノに抱きつけば、ゼノはアイリスを受け止め抱きしめ返してくれた。


 アイリスが幸せだなぁ……と目を閉じたとき、ゼノがまた愛を囁いた。


「愛しています、アイリス」

「わ、私もです」

「本当に、愛しています」

「はい……」

「本当に、本当に、愛しているんです」

「え、ええ?」


 あまやかなはずの睦言は真剣味を通り越し、必死さが伝わって来る。

 どうしたのだろう、と首を傾げるアイリスにゼノはなおも言い募った。


「愛しています。信じてください」

「……はい。あの、ゼノ様?」

「何があっても、何をしても、この気持ちに変わりはありません」

「あの、どうなさったんですか……?」

「……愛しているんです」

「え、と」

「ずっと前から、あなたのことが好きで好きで、好きすぎて……」

「????」


 頬を染めつつもゼノの様子がおかしくて首を傾げるばかりだ。

 そんなアイリスを見て、ゼノははーっと大きく息を吐き出しアイリスの肩をがしっと掴んだ。


「話が、あります」

「は、はい」

「実は……」


 ゼノがぽつり、ぽつりと言葉を発するたびに、赤味を帯びていたアイリスの顔から色が無くなっていき、徐々に顔が下に傾いていく。

 最後には完璧に俯き、小さな身体を震わせていた。

 

 ゼノは恐る恐るアイリスに手を伸ばす。


「あ、アイリス……?」


 アイリスはシーツをぎゅっと握り締め、震えをどうにか収めようとした。

 でも。

 顔を勢いよく上げ、きっと睨みつける。

 途端、ゼノは焦ったように言い訳をしだすがアイリスの耳には入ってこない。

 睨み付けられたのも、ほんの一瞬。

 くしゃりと顔を崩し、涙の滲んだ目でゼノを見た。


「アイリス、どうか話を……」

「触らないで下さい」

「アイ……」


 伸ばされた手から逃れるように寝台から降りて立ち上がった。

 ゼノを振り返り震える身体から声を絞り出した。


「ゼノ様の、馬鹿。……だいっ嫌いです」

「!!!」


 引き止められる前に、素早く寝室から出て行く。

 頭がぐちゃぐちゃで何がなんだかわからない。

 とにかく、今はゼノから離れて落ち着いて考えたかった。










 そっと慣れ親しんだ部屋に入ると、そこにはすやすやと眠る天使のような男の子が眠っていた。

 リュカだ。

 

「……アイリスぅ……むにゃ……」


 その無邪気な様にぽっと心が温まった心地になる。

 寝台の脇に腰を下ろすと、リュカが寝ぼけながら転がってきたのでいつものように隣に滑り込み目を閉じた。

 傍に感じる子供の体温は動揺した心を落ち着けさせてくれたのだった。 

 

   


 


   

  

  

 



 



 

 


頑張れゼノ!

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