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伯爵様の新妻  作者: 小宵
Ⅱ:伯爵様と攫われた姫君
17/23

過去、そして今

アイリスとうるの接触はムーンライトの「公爵夫人の性的指導!」で載せてしまったのでこちらが説明文のようになってしまいました。

ごめんなさい・・・。

 

 ただぼぉ……っとしていた。

 あれからもう一度王に面会したが、何を言われたか覚えていない。

 とにかく、何かに驚いた後、何故か痛ましげに顔を歪めた。

 

 私は場所を移されるらしい。

 婚姻まで、好奇の目に曝されないため。

 もう、どうでもいい。


 投げやりになっていた。

 でも、目の前に写ったその顔に、アイリスの意識が覚醒した。思わず、「……あ」と掠れた声が漏れる。


(ゼ、ノ様……?)


 迎えにきてくれたの? そう思った。

 湧き出た感情は、喜びだった。


 でも直ぐに勘違いだと知る。

 顔は瓜二つ。しかし、目の端に写った髪の色は金ではなく、銀。

 それに、表情が全く違う。

 険しい顔で女性と言い争っていた。

 しかし言い負かされたらしく、がくりと肩を落とした。

 そして、女性がアイリスを振り返り、視線があう。


「お姫様ぁ、お名前教えてくださらなぁい? 私、ウル・グレニーと申しますのぉ」

「!」


 粘着質な甘ったるい声のこの女性は今、グレニーと名乗った。

 この国ではジル以外にはいない、艶やかな黒髪黒目。

 真っ赤な唇に胸元が大きく開いたドレスはとても扇情的。

 気づけばまじまじと観察してしまっていて、ウルが首をかしげた。

 

「も、申し訳ありません。その、グレニーと言う事はグレン様の?」

「あらん、グレン様をご存知なのぉ? ふふ、妻のウルですわぁ」


 やはり、と思いつつ、グレンの妻に不躾な視線を向けてしまったことを恥じた。

 恥ずかしくて視線を彷徨わせればいつの間にか豪華な部屋に居ることに気づく。

 そして、またゼノと瓜二つの銀髪の男性に目を止める。

 するとウルがまた首をかしげた。


「あのぉ……?」

「え、あ……ご、ごめんなさい。余りにも似ているので」

「それは私の髪を金髪にした男ですか?」


 男性が銀髪を一房とって言って見せると、アイリスは頷いた。

 すると男性が納得したようにふんっと鼻を鳴らす。


「でしたらそれは兄のゼノでしょう。双子なので似ていて当たり前です」

「……その顔が二つもあるの?」

「……なんだ、その嫌そうな顔は」


 また言いあいを始めそうな、ウルとゼノにそっくりな男性を見てアイリスも納得する。

 そしてゼノに双子の弟が居たのか、とアイリスは落ち込んだ。

 余りにも、自分はゼノのことを知らなさすぎた。

 ゼノはきっと知っているものと思ったに違いない。

 何せゼノ自体、その美貌からとても有名人だ。

 その双子の弟が有名でないはずがない。

 知っていて当たり前なのだろう。

 

 それほどまでに、ゼノに、外のことに興味がなかった。


 それなのに、自分はゼノに助けを求めた。

 なんて、卑劣なのか。


 自嘲気味に笑いそうになるが、目の前で起きている二人の無言の争いに思わずくすくすと笑みを零してしまった。

 だって、ゼノと同じ顔が引きつっているのだ。

 気づけば二人に見られていて、慌てて顔を作り直した。

 自然と笑みがこぼれる。


「申し訳ありません、自己紹介がまだでしたね。私はアイリーン。この度はお世話になります」

「私は……」


 ゼノの弟が挨拶をしようと前に進み出たそのとき。


 ぐうぅぅぅぅぅ~。


 腹が鳴った。

 アイリスの。


 そして蚊の泣くような声で呟いたのだ。


「……お腹、空きました……」と。

 アイリスはこのとき、三日間何も食べていなかった。

 



 +++++++


 ゼノの弟の名前はロベルトと言らしい。

 アイリスが身を隠すために選ばれたのは自国の公爵家だった。

 そして、ウル・グレニー。

 ロベルトの家に滞在中のグレンの後妻。

 彼女はとても、不思議な人だった。


 身分制度が確立されている今の時代、ここまで身分を無視する人をアイリスは初めて見た。

 アイリスは人になるべく嫌われないように、と誰に対しても無難な態度で、低姿勢を心がけている。

 しかし、今のアイリスはアイリーン。

 つまり、王女なのだ。

 いくら首長国の公爵夫人だからと言って、普通、ここまで馴れ馴れしくするものではない。

 それどころかウルは、「アイリーンちゃん」と呼び、ロベルトのことも呼び捨てにしていた。

 まるで仲の良い友達のように接してくれるウルに、アイリスが心を開くのも早かった。

 何よりも常に讃えている余裕の笑みがアイリスを安心させる。

 ウルと居ると楽しくて、こんな時だと言うのに何もかも忘れて笑うことができた。

 

 だからか、気持ちを吐露してしまった。


「結婚できません」

「……まぁ、それは……どうしようもないかしらぁ」

「……ですよね。でも、私本当に結婚なんて出来ないんです。……ある方に操を立てているから」

「……あら、まぁ」


 ウルに話し、言葉にすることで自分の気持ちがはっきりしてくる。

  

「わ、私、もう、幸せになってもいいのかなって、お、思って。やっと一歩踏み出せたと思ったのに、急に陛下が嫁げって仰って。私にはあの方が居ることを知っていらっしゃったはずなのに……今まで、何も仰らなかったのに……っ!!」

「うん」

「私、やっとあの方の気持ちに答えようって。なのに……!! 今まで放っておいたくせに、何も言わなかったくせに、わ、私のこといらないって。だから国民に存在すら知らされなくて……なのに、なのにっ……っ!!」

「……うん」


 今まで溜め込んできた物が溢れ出る。

 まるで子供のように声をあげて泣くアイリス。

 ふわふわの髪を子供にするように撫でながら、ウルはアイリスの吐露に耳を傾けてくれる。

 それは、自分の心を守るために必死に気づかないフリをしていた本当の気持ち。


「私、あの方が好き。……好きなの。存在すら認めてもらえなかったこんな私を好きだと言ってくれるの。毎日、私に幸せと安心をくれるの。……私、あの方の傍に居られて幸せだったの……」


 そう、好きなのだ。

 だって、ゼノに会いたい。

 辛い時に思い出したのはゼノの顔。


 認めるのが怖かった。

 認めたくなかった。

 好きになってしまえば、見返りが欲しくなる。

「私を愛して」と。

 もう、一方通行は嫌だった。

 

 過去の記憶が邪魔をする。

 そして、「愛している」と言ってくれた陛下のこの仕打ちが更にアイリスを臆病にさせた。

 

 ゼノが信じられない。

 

 どうして私なの?

 どうして私なんかを好きだと言うの?

 本当に私を好きなの?

 ……それはいつまで?


 でも、言葉にしてしまったら止まらない。 

 あなたの愛が有限でもかまわない。

 もう、遅いかもしれないけれど。

 

 たくさん「好き」だと言って私を困らせて、抱きしめて欲しい。

 ……あなたの元に帰りたい。

  


 ウルが目を細めてアイリスを撫で続ける。


「……うん。……私もグレン様の傍にいてあの方の役に立つことが何よりも幸せ。グレン様だけが私の愛おしい、と言う気持ちを揺さぶるの」

「……グレン様はとっても素敵な方ですもの。当たり前です。私も幼い頃よりお慕い申し上げておりました」

「え!? グレン様は私のよぅ!!」


 ふっとまた笑ってしまった。

 いつかグレンと話したことを思い出す。

「……私の妻に会わせて差し上げたい。妻を見ていると、悩んでいることが馬鹿らしくなってしまうんです。どんなに辛いことや悲しいことがあっても、それを辛い、悲しいと思わないんです。いかにそれを楽しむか、そう考えているんだと思います」と、グレンは言った。

 アイリスはすごく悩んでいるはずなのだが、ウルと話していると悩みを忘れそうになる。

 

 思ったことを口にし、無理難題を何でもないことのようにさらっとしようとする。





 

 今とてそうだ。

 

 王に謁見したいと言い出したうる。

 ジルに連れられてアイリスも一緒に城に戻ってきた。

 

 道中、物見の塔からアイリスを探すリュカが降って来ると言う事件にも見舞われたが、ジル・ロベルト・うるの三人のおかげで事無きを得た。

 気を失っているリュカを馬車の中でずっと抱きしめながら、アイリスは最後まで足掻こう、と思う。

 リュカのため、心配してくれる皆のため、ゼノのため……そして自分の幸せのため。

 


 公爵邸に居るはずのアイリスが堂々と城に乗り込む訳にはいかず、こっそりと入る。

 リュカは無関係だし、起きてしまったときアイリスが何故ここに居るのか説明が付かないため別室に移された。

 その時、ロベルトとうるがリュカに着いていってくれた。

 ジルも王との謁見のため居なくなる。


 それはアイリスのいつもの定位置の窓際の椅子。

 ここでいつも空を見上げていた。




 こんこん、とノックが響く。

 

「……姫様」

「リリア」


 こっそり入ってきたはずなのに、筒抜けだな、と思う。

 あんな別れ方をして、アイリスが以外にも正気を取り戻していてほっとしたのかリリアは肩から力を抜いた。

 リリアは今にも崩れ落ちそうなほどやせ細っている。

 目の下の隈が物凄くて、心配になった。

 

「陛下がお呼びです」

「そう。ジ……お兄様は?」

「知らせておきました。後からグレニー夫人を連れて謁見の間にいらっしゃいます。姫様はお先に」

「……わかりました」


 一人で王に会うのは怖かった。

 でも、後からウルが来てくれると思うと少し心が軽くなる。

 

 一人じゃない。

 私を助けようとしてくれる人が居る。

 私を好きだと言ってくれる人が居る。

 ……私を待ってくれている人が居る。


 リュカを抱きしめた手をぎゅっと握り、アイリスは自身の運命と戦うため、足を踏み出した。






 +++++++





「……死ぬか?」

「ぇ……?」

 

 喉元に突きつけられた剣に、頭が付いていかない。

 先ほど決心したばかりだというのに、恐怖に身が竦んでしまう。


 目の前に居る男はまるでアイリスを憎んでいるかのように睨んで、見下ろす。

 細められた鋭い視線が肌に刺さるように痛い。

 

 しん……と静寂が降りる中、それを破ったのは意外にも陛下だった。


「止めてくれ! 約束が違うではないかっ!!」


 切羽詰った声。

 きっと表情も焦りに歪んでいるのだろう。

 でも、アイリスにはわからなかった。

 目の前の男から、目が離せない。


 金色の髪、そして碧眼の瞳。

 王家の血が流れる者が有する色。

 

「……父上がなんと言ったか知らんが、俺がこんなちんちくりんを嫁にするとでも?」

「しかし、それを条件に……」

「黙れっ!!!」


 男が叫んだ瞬間、アイリスの頬に剣が掠めた。

 男は舌打ちをして剣を陛下に向ける。


「この婚姻、無かった事にしてもらう」

「っ!!」


 男の殺気に陛下が怯む。

 何か言わなければと口をぱくぱくさせているが出るのは掠れた喘ぎ。

 恐ろしい、魔王から生まれた悪魔。


 何も言えず、恐怖している二人を興醒めだとでも言うように剣を収めた。

 しかし、ふいに男が扉の方に振り返る。

 そして、アイリスは自分の目を疑った。

 今まで、その視線で人が殺せそうなほどの形相だった顔が、とても嬉しそうに緩んだのだ。


「ご機嫌麗しゅう……ジーク様ぁ?」

「うる」


 聞こえてきたねっとりとした声に、アイリーンと婚姻を結ぶはずの首長国の王子・ジークフリートがまるで子供のように駆け寄ったのだった。



 


 

 

 

 

 

 


 

 

公爵連載とまったの?

と、いくつかお便りいただいたんですが、ここでやっと伯爵が追いつきましたので連載開始。

基本ネタバレは伯爵でしたいので伯爵優先になってます。

ご了承ください汗


そしてそして

前書きにも書いたのですが、今回納得いかない・・・

説明文だぁ・・・

公爵読んでない人は展開早くない!?って思うやも・・・

ごめんなさい~・・・

自分でも気持ち悪いので直すかもなのです


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