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23話『躊躇いなき凶刃』

正体に迫る眼に。

バレた……?なんで……?


バレたところで……とも思わなくないけど、わざわざ正体を明かしてもこっちに良いことはないわね。


なんなら、神って理由って殺されかねない。


なら……


「そ、そんなわけ」

「────なんてな。弁を付けられていながらも、聖属性のオーラが常人のそれじゃないが、勇者か聖職者か何かだろう。あの村に訪れていたということも、それを裏付ける。ザーイル、特にここら一帯は勇者出現の地とされているからな。デストルク様もそれを理解されて、ここに闘技場を建てられた」

「…………なんか勝手に勘違いしてくれたからそれでいいや」

「へー、ポーフも冗談言うんだなあ」

「ククッ……!冗談か。第一……」


ポーフと呼ばれた男は、続けて。


「第一……?」

「第一、確かに溢れ出る聖なる気は凄まじいし、度胸はあるようだが……。少し観察してみたが、女神にしては容貌以外が残念だ」



…………は?



「あァ!?あんたこそなんか頑張ってちょっと賢そうな雰囲気出そうとモノクルつけてるけどなァ!ジャケットを着るんじゃなくて、ジャケットに着られているっていうか……モノクルをつけてるんじゃなくてモノクルにつけられているっていうか……。なんかそんな感じよバカヤロー!」

「ほらな?」

「なるほどなあ」


ポーフの言葉に、ヴァルトは納得したように頷きやがった!


「納得してんじゃないわよ!」


っざけんな!

私の力が戻ったら真っ先にこいつら粛清してやる……!


イツミさんとは違うベクトルのイラつかせ具合。

私の堪忍袋ははち切れそう。


「取り敢えず、お前はデストルク様に選ばれた者だ。私たちと共に来てもらおう」

「おい!!俺抜きで勝手に話進めてんじゃねえよ!こいつは、こいつは俺の女なんだよ!」


例の荒くれアンスガーもやって来たことに、私は全身全霊で抗議をする。


「しっつけえな……!だーかーらー!私はあんたなんて論外なの!もちろん他の連中もね!」


もうやだ、面倒が面倒を呼ぶ……!

私が魅力的すぎるのが悪いのは認めるけど、いい大人なんだから性欲の自制(ムラムラ我慢)ぐらいしろや!


流れのまま、アンスガーがポーフに迫る。

その時だった。


「────思い上がるな。三下が」


ポーフが、腰に差していた短剣を引き抜き。


そして、風が鋭く過ぎ去ったような感覚がした後に、赤い“なにか”が辺りに噴き散る。


その“なにか”が、アンスガーの首から噴き出しだ血だってことに気づくのに、私はどれくらいかかっただろう。


ヴァルトも私に一足遅れて事態を呑み込んで。


「うわ……」

「ひ、ひぃ……ッ!」


ポーフの足元には、アンスガーの頭が。

斬られたことに気づいてすらいないようで、表情はポーフに対する怒りを滲ませたままだった。


「貴様如きが、私の周りに喧騒を運ぶな。しかし、異能抜きでこの差とはな。軽く、私たちの関係性を再教育してやろうとしただけのはずだが」


今の私に、万が一あの剣が振られていたら。


そう考えると、冷や汗と鳥肌が止まらない。


だけど、それ以上に恐ろしいのは。


「そんなことで命を奪うの……?」

「賊相手に聖職者の倫理が罷り通るか?通らぬだろう。それに、私が言えた義理ではないが、略奪者が略奪されても文句は言えん。それが命であってもな」

「────」


いや、それは……そうかもしれないけど。


確かに、他者の命も大切な物も軽視してばかりの奴らだ。

ポーフの言う道理は納得すらもできる。


だけど……。


「仲間意識、みたいなのはないの?」

「あると、思うか?」


駆けつけた賓客の1人に、血で汚れた短剣を拭き取らせ、鞘に収めるポーフ。


その顔には、一切の迷いや曇りがなかった。


「訊くまでもないわね。────で、私をどうするつもりなの?」

「ここでその質問ができるか。やはり、お前はデストルク様の饗宴に招かれるべき存在だ。ククッ……!強者は多いに越したことはない、よく連れて来た。褒美をくれてやるぞ、ヴァルト」

「────」


そう笑い、ポーフは金貨がぎっしり詰まった小袋──ざっと10万ゴールドはありそう──を、雑にヴァルトに投げつけた。


ちなみに、当のヴァルトは床に転がっていたアンスガーの頭を見て、恐怖のあまり失禁して気を失っている。


「さて、答えてやるとしようか。『私をどうするつもりなの?』、だったな。────お前には、デストルク様と戦ってもらう。深夜1時、地下闘技場でな」

「はあ……?」


デストルクと戦う、かあ。

異能が使えないわけだし、そもそも争いごと自体気が進まないなあ。


────ん、ちょっと待って。


デストルク……?

今、こいつデストルクって言った?あの(・・)デストルク!?


「いや無理無理無理無理!絶ッッッッ対嫌だ!!あんた私を殺す気なんでしょそうなんでしょ!?」


私より強い勇者たちがたくさん彼に敗れてきた。

戦えば、間違いなく私の命はない……!


「ざけんな!『デストルクに殺されてお前は死ね!』って言ってんのと同じじゃん!モノには伝え方があるってのはそうだけど、伝えようとしていること自体が間違ってたらどうしようもないのは分かる!?」

「戦うのはお前だけではない。お前のように招かれた実力者どもを、デストルク様は同時に一人で相手にするおつもりだ。あの方は窮地を探されている。自らの全力を賭けられる死闘をご所望なのだ」

「勝手にどっかでやってろっての、いい迷惑なんだけど。第一、ここはカジノでしょ!拳で殴り合うんじゃなくて札束とか運で殴り合う場所よ。こんなでっかいカジノ建てるぐらいなんだから、デストルクってギャンブル狂なんでしょ?運で勝負しましょうよ!」

「カジノは確かに我々にとっての重要な事業だが、所詮は(ガワ)に過ぎん。このエビルサイドは本来、デストルク様のための決闘場として建てられたのだ。勇者が生まれるとされるこの地で、勇者と戦われるためにな」

「────」


話を聞くだけでも頭が痛くなりそう。

要約すると、自分を死地に追い込んでくれそうな強者たちと戦いたいから、そのために勇者の出現地とされるザーイル大陸のエスの街に闘技場を建てた、と。


私ら神が、この街を勇者育成の拠点にしている専らの理由は、気候も安定して、それなりに栄えていて、そしてなにより魔王やデストルクのようなイかれた奴が普段活発的に行動している地帯から離れているから。


魔王のみならずデストルクみたいな異常者もいる下界バルでの戦いは、何年も続く泥沼。

言い換えると、その期間私たち神は、1つの地でずっと勇者を誕生させ続けてきた。

だから、勇者出現の地みたいな伝承ができていても全然おかしくない。


しまった……迂闊だった……!

普通に考えたらそうなるのが自然だ……!

もっと拠点を散らばせるべきだった……!


生きて神界に帰れたら、これは報告しないといけないわね。


「はあ…………。全てはデストルクのために、って?」

「そうだ。あの方が、魔王と成れるように」

「魔王と……なる……?」


なるもなにも、魔王ってもう既にこの世界で大暴れしてるじゃん。

言っている意味がわからないんだけど……。


「デストルクは魔将でしょ?どゆこと?」

「お前がそれを知る必要はない。ただ、無心にデストルク様と戦えば良いのだ」

「は?」


うっぜええええええ!!

私が嫌いな言葉のトップ5、『お前がそれを知る必要がない』うぜえええええ!


『君がそれを知ってどうするの?』とか『教えたところで意味ないから』とか言う奴ほんっとに無理なんだよね、私。


「へー、そこでそういう態度取るんだ。もういい、あんたらの無茶ぶりには付き合ってらんない。異能も思うように扱えない状態で戦ったところで、瞬殺されるに決まってるし」

「戦う際は魔力弁も外し、エビルサイド中の異能妨害装置も停止させる。そして、モチベーションなら私が高めてやる。賊たちに近隣の村の住民を攫わせたのは知っているか?その村人たちは賊たちが0時に景品として売り捌くつもりだったらしいのだが、勇者関係者の戦いの動機付けに利用させてもらうことにした。────早い話が、お前たちに戦う意思が見られない場合、村人たちを闘技場で殺す」

「サーク村襲撃はあんたらの指示だったのか…………」

「ああ。“村堕とし”という行為がザーイル大陸北部の賊の中で流行っているそうだが、今回は無関係だ。賊にそこまでは説明はしていないから、奴らは村堕としと勘違いしているようだが」

「村の人たちに危害を加えている以上、どっちでもいいわよそんなの。────地下闘技の件……冗談、ではなさそうね」

「命のやり取りにそんなものは要らんだろう」


ポーフは顔色ひとつ変えずに、私にそう言って。

その事実が、私にとっては気分が悪かった。


っていうか……そんな状況じゃ村人たちの命がいくらあっても足りないじゃない。

奴隷として売られる方がまだ安全なぐらいよ。


殺る側は殺られても文句は言えない、みたいなこと言ってたのにね。

つまり、その思考に至っていても、罪のない村人たちを虐げることができるってことは、ポーフ自身もそうされる覚悟があるってことだ。


そして、それを衝き動かしているのは。


「忠義を振りかざしてそういうことを平然とできるあんたら、本当に最低だ」

「好きなだけ言え。────さあ、来てもらおうか」


モノクルを触ったポーフはそう言って。

きっと、連れて行かれるところは控え室かなんかでしょうね。


にしても……私たちのお膝元のエスの街で、こんなのが暗躍してるなんて。

しかも、そこに偶然私たちが居合わせて。


思えば、そもそもイツミさんがあんなふざけたことしてなければ、サーク村に1週間近く収監されることもなく、数時間の滞在で終わっていたわけよね。


もしそうなっていたら、これから起こり得る惨劇に気づくことすらなかったかもしれない。


このことは……イツミさんには黙っておこう。

もし言ったら、多分、ううん、絶対調子乗って面倒なことになる。


はあ……本当に、私が今しているのってナビゲートなのかしら。

それこそ、収監されたところからそこら辺は怪しくなってきたよね。


そういや、イツミさんはイツミさんで無事に情報提供者と合流できたかしら。

ちゃんとエビルサイドの闇の証拠を渡せたかしら。


できることなら、私が戦わされる前に村の人たちを助けてほしいけどなあ。



◆◇◆



「────ここが控え室だ。…………どうした?妙に大人しいな」

「近くて良かったって安心してんのよ。もっと歩かされるかと思っていたから」


3階にある控え室は、アンスガーが斬られたところからちょっと歩いた場所にあった。


大きすぎず内装は煌びやかで、新鮮な果物とかもテーブルに用意されている。


「そうか。何か希望があったら言え、賊たちに用意させよう。今のお前はエビルサイドにとってVIP中のVIPだ」

「そう……。なら、紅茶が欲しいわね。ついでに、村の人たちを解放してくれると助かるんだけど」

「ククッ……やはりお前は本物の強者だ。片方は無理だが、紅茶ならば直ちに持って来させよう」


少しして、運ばれてきた紅茶の湯気に、私はホッと息をして。


香りはあまり感じない。

それは、多分、隠しようのない緊張のせいだった。

湯気は束の間の休息を運ぶ。

気休めでしかない、たった一瞬を。

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