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死霊王教団事件(星暦1697-1699)

 死霊王教団事件とは、死霊王(リッチ)を崇拝する地下教団が星暦1697年から1699年に掛けて起こした誘拐拉致事件及び殺人傷害事件の総称である。



<<概要>>


 9世紀の魔法学隆盛の時代に君臨したという死霊術師であり、「死霊王(リッチ)」と呼ばれたドグラン・ハーベスターを崇拝するハーベスター教団は、現世に死霊王を再び召喚すべく密かに生贄を集めていた。

 アーヴァ王国・ヴェルタ王国(現アルトニア共和国)・神聖アルトニア帝国(現アルトニア共和国)の3か国に跨ったこの大事件は、最終的には神聖アルトニアの帝国騎士団が中心となり解決した。事件の首謀者である教団指導者と教団員は捕らえられ、神聖アルトニアの首都であるウィロー市にて処刑された。

 時は17世紀の世紀末であった事もあり、この一連の事件と経過については、後の時代でも創作として人気が高く、現在でもこの事件を元にした小説や映画等の作品が数多く製作されている。



<<事件の経過>>


 1697年2月22日、ヴェルタの首都ヴェルタンカにて、小麦商人の一人娘であるカレン・エニコスが行方不明となる。当時街の治安維持を担っていたヴェルタンカ市衛兵団は両親の訴えを真剣に受け止めず、初動捜査が遅れる事になった。

 1697年4月3日、同じくヴェルタンカにて、アーヴァ出身の貴族の令嬢であるミレニア・サンドレアが行方不明になり、同月9日から11日にかけて市民の女性数名(名前は不明)の何者かによる誘拐未遂が起こる。

 ここに来てただならぬ事態が起こっている事に気付いたヴェルタンカ騎士団は、麾下の衛兵団を動かし本格的な捜査を開始。5月2日には川岸でカレンの遺体が発見され、更に同年1月の時点で、浮浪者や孤児が次々と行方不明となり、後にその一部が死体として見つかっている事が判明した。2月の時点で動かなかった衛兵団は当時のヴェルタ王ガーリング四世の名の下で叱責され、衛兵団長及び副団長は解任された。


 同年10月に入ると、ヴェルタだけでなく隣国であるアーヴァや神聖アルトニアでも同じような誘拐事件が起こった。誘拐の被害者や誘拐未遂にあった者は、この時点で既に100名を超えていた。

 1698年1月21日、神聖アルトニアの都市カタンカにて、新年夜祭(ニヴァル)に参加していたビネン侯爵家の姉妹が誘拐された。姉は14歳、妹はまだこの時点で10歳の誕生日を迎えたばかりであった。

 侯爵家と王家の要請を受け、遂に神聖アルトニアもこの事件に対し本格的に動き出した。

 聖月教教皇庁から聖堂騎士(パラディン)の資格を得ていたルドマック男爵を隊長として、帝国騎士団内に捜査の為の特設部隊が編成された。

 姉妹の誘拐から2か月後、ルドマックは事件の裏に死霊王を崇める地下教団が存在する事を突き止めた。地下教団は魔力の質と量に優れる者を誘拐していた事も判明した。



<<教団掃討作戦と、事件の解決>>


 1698年5月、ルドマック率いる特設部隊はアーヴァとの国境付近に存在する寒村を強襲。そこは地下教団の拠点となっており、教団員を捕縛または殺害した。なお誘拐された被害者は既にそこには居なかった。

 同年6月、ヴェルタ、アーヴァ、神聖アルトニアの三国で事件に対して合同捜査を行う事が決定。神聖アルトニアの特設部隊にヴェルタ、アーヴァの騎士等が参加する事になった。

 同年10月から1699年1月に掛けて、三国にて再び誘拐事件が頻発する。

 1699年4月、特設部隊は遂に地下教団の本拠地を突き止める。そこは神聖アルトニアとヴェルタの国境付近に存在する、5世紀に隆盛したルニ諸王国の都市遺跡群であった。


 1699年4月28日、特設部隊は神聖アルトニア騎士団及び教皇庁の支援を受けて都市遺跡に侵入し、ハーベスト教団と交戦した。生贄の儀式により死霊王は復活寸前であったが、教皇庁の精鋭の司祭と修道士による命懸けの封印措置により、死霊王は現世に現れる事もなく消え去ったとされる。

 ルドマックは首謀者である教団指導者及び関係者を無事に捕らえる事が出来た。

 浚われた人々は、生贄の儀式により死亡するか極端に衰弱していた者が殆どであった。ビネン侯爵家の姉妹は、姉は既に生贄に捧げられて亡くなっていたが、妹は辛うじて生き残っていた。

 2年前に誘拐されたミレニアも生き残っていた。彼女は人よりも魔力量が多く、教団が使用する古代魔道具起動の為に生かされていた。

 こうして事件は解決したが、その犠牲は大きかった。



<<事件の終わり>>


 事件の犠牲者総数については、定かではない。

 捕縛された教団員の証言では、1697年の誘拐は儀式用の魔道具の動作試験の為の「素材確保」を目的とした誘拐であり、かなり大雑把に行われた物だった。

 教団員は3か国に潜伏し、拘束系魔道具や呪法を用いて被害者の意識を奪い誘拐を行っていた。事件発覚の切っ掛けとなったカレンは、実験後に衰弱したまま放逐され死亡したとされる。

 1698年に入ると、彼等は体内魔力の質と量に優れる者を優先して誘拐するようになった。ビネン姉妹が浚われたのはこの時期である。


 また、地下教団にはボスコニア地方出身の獣人や、当時の魔領ゲーテ(現ゲーテ自治区)出身の魔人が所属していたことも留意すべき事項である。

 彼らは教団に魔導や呪法の知識を提供し、見返りに教団の資産の一部を受け取っていたとされる。獣人ウルミは黒狼の一族出身であり、1629年9月に起きた「黒呪の火祭り」事件の首謀者の子孫であった。魔人2名は捕縛されたものの、当時の人魔協約の特例によりすぐさまアーヴァのブラド魔公爵家に引き渡され、ゲーテに送還されたと言われる。


 事件解決の功績により、星暦1700年6月1日に特設部隊の騎士等に3か国及び教皇庁からの合同で勲章が贈られた。部隊を率いたルドマック男爵は子爵に陞爵され、三頭鷲黄金勲章が贈られている。



<<事件後に作成された創作物について>>


 被害者にとっては悲惨な事件であったが、謎の教団が起こした事件でありそれを聖堂騎士率いる騎士が解決したとして、事件解決時点で既に民衆には人気があったという。神聖アルトニアのウィローにて、事件のあらましとハーベスター教団の恐ろしさ、聖堂騎士の活躍が描かれた絵物語である「聖堂騎士物語」が事件解決からすぐの星暦1700年6月に発行され、民衆の間で出回っている。(※1 作成者、発行者は不明。紙及びインクの材質から、貴族が書いた物が民衆に流出したと推測されている)当時を生きた商人の日記によると、資料としては残らないが他にも似たような書物は幾つも存在したようだ。


 事件の約3年後に当たる、1701年11月には劇作家であるミゲル・ザッコスが、一連の事件の経緯を脚色して小説化した「死霊王の祭壇」が出版された。出版当時は実在人物や事件の起こった地名を別名に改める事で出版されたが、出版から約40年後の再販の時点で別名扱いだった箇所は元の人物や地名に戻ってしまっていたようだ。現在出版されている死霊王教団事件を扱った作品の多くは、この作品が源流とされている程に世界各国に浸透している物語である。


 なお、物語を盛り上げる為にザッコスは事実とは異なる幾つかの捏造や事件の時間軸の変更を行っている。

 以下に有名な物を幾つか挙げる。

・ルドマック男爵はビネン侯爵家と交流があり、姉と婚約を結んでいた。

 →ルドマック男爵とビネン侯爵家には事件発生時点で一切繋がりは無い。婚約の事実も存在しない。(そもそもルドマックは1698年当時は43歳で既婚である)

・事件後に婚約者を失っていたルドマックは、ビネン侯爵家の妹と結婚した。

 →上記に同じ。ただしビネン侯爵家の妹の産んだ子とルドマックの孫が結婚した事実はある。

・事件の初期に誘拐され救出されたミレニアは、救出してくれたルドマックの事が忘れられず後にルドマックの愛人となった。

 →上記に同じく事実無根。そもそもミレニアを救出したのは特設部隊の別の騎士であったというのが定説である。ミレニアについても数年後に故郷で郷士と結婚したという記録がある。

・ルドマックが聖堂騎士の修業時代にハーベスター教団の指導者と戦っていた。

 →そもそもルドマックが教団の存在について知ったのも1698年であるとされている為誤り。(要出典)

・特設部隊に所属する、事件の解説役である架空の騎士「ネルケ・ザイオン」の存在。

 →元になった人物は部隊にはいるが、ネルケが庶民出身であったのに対し彼は貴族出身である。

・特設部隊が創設された時期と、ルドマックによるアーヴァ国境付近の寒村攻略の時期が入れ替わっている。


 後の世では更にそれぞれの作者によって多種多様なアレンジが加えられ、物語に幅と深みをもたらすようになった。

 ルドマックは聖堂騎士という役目柄(※2 正確には聖堂騎士の資格を持っているのみで、事件当時は教皇庁に仕える聖堂騎士ではないのだが)、物語の主役として描写が過剰に盛られる傾向にあり、ルドマックの年齢は事件当時は20代前半から後半であるとされ、かつ顔は美麗であったと描写される。

 また物語では女性との恋愛描写は欠かせない物であり、上に挙げたビネン侯爵家姉妹やミレニアだけでなく、死亡しているはずのカレン(※3 この場合カレンはルドマックに救出されて生き残る)や、敵対したハーベスター教団の獣人ウルミ、挙句の果てに実際の事件とは全く無関係の村で誘拐されたとされる村娘がヒロインとして抜擢されるケースすらあった。(※4 ごく少数ではあるが、ルドマックと男性騎士とのロマンスが描かれる物語もあったという)

 ある時期にはルドマックの架空の愛人が年間ダース単位で増えていくという有様で、ルドマック伯爵家(※5 次の代にて子爵から陞爵されている)は度々抗議文を出している事や、酷い創作を出版した者には訴訟を行っている事が当時の裁判記録から分かっている。

 ルドマックは剣技に優れ魔法にも造詣が深かったと描写される事も多いが、彼自身は剣技も魔法も突出して優れていたわけではなく、部下の指揮や他部署との交渉にその才を発揮したとされる。


 兎にも角にもこの事件にその後も魅力を感じた者が多かったのは間違いがなく、現代でも小説や漫画やゲーム、映画の原作として多くの作品が製作されている。


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