表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染、なんかじゃない  作者: 咲倉碧
1/1

第一章 関係性

野いちごさんの同名の作品のリメイクバージョンです。

なろうでは初めての投稿なので、色々わからないことなど多いですが最後まで読んで貰えたら幸いです!



「おい緋鞠。」



八時二十分。


クラスメイトが続々と揃うこの時間帯、朝の喧騒の中私を起こしたのは男物の声だった。どれだけお母さんが起こしても中々起きないのに一発で起きてしまうのはそれがこの人だから。



「あ、翔斗! 今日朝私のこと置いて行ったでしょ。ほんとひどい!」


咲田翔斗。

年少の時に家の近くに引っ越してきた翔斗は幼小中高と同じで俗に言う幼馴染だ。



「遅れてくるお前が悪い。」


「数分の話じゃん。」


「でも遅れてた。」



顔も整ってるし基本何でもできるの翔斗の汚点は性格が悪い事。本当は優しいのに、あんまりその優しさは周りに伝わっていない。



「ちょっとくらいいいじゃんか。」


「いや、約束は約束。」


「待ってくれてても学校間に合うじゃん。」


「なんで俺がお前のためにその数分を待たなくちゃいけないのか理解できない。」


「ほんとひどい…」



「まあまあ、二人ともそこまでにしなよ」



二人の喧嘩が険悪にならないうちに止めてくれるのは親友の柚月。ちょっと天然なとこもあるけどとても優しい。



「もう柚月、なんか言ってよぉ」


「今日も相変わらず仲良いね。」


「よくないし!」


「あれ、ここってハモるとこだと思うんだけどな…。」




いや、私もちょっと思ったけどよ! 首を傾げる柚月には何も言わずに、私は翔斗を睨む。



「そんなに性格悪いからモテないんだよ翔斗は。」


「あ? 俺性格いいし。お前よりかは全然だと思うけど。」


「所詮みんな顔しか見てないでしょ。」


「告られたこともないようなやつに言われたくないな。」


「ひっどー! ちょっと気にしてるんだから言わないでよ…。」


「ふーん、気にしてるんだ。」


「…うーわ。」



「てかお前今日日直だろ? 早く職員室行って来た方がいいんじゃないの?」


「言われなくても行ってますー」


「寝てたくせに?」


「…うるさい! ていうか何か私に言うことあって来たんじゃないの?」




「あー…」

さっきから散々私を揶揄っていた翔斗が初めて少しバツの悪そうな顔をした。



「今日の放課後行く予定だったコンビニアイスの引換券、部活で行けなくなったから俺の分もやる。」



「えええー! 嘘でしょ?」

この前学校帰りに二人でコンビニに寄った時、期限が今日までのアイス引換券をもらったので今度一緒に行こうと約束したんだ。




「じゃあ翔斗が部活終わるまで待っとく。」

せっかくの放課後ミニデートができるチャンスを失いたくなくて私は諦めずにそう言う。



「いや、大会前だから学校終わった後も近所の競技場で練習するんだ。終わったら九時だぞ?」


「えっ、…いいよ、九時まで待っとく。」


「馬鹿か。お前のみになんかあってみろ、お母さんが泣くぞ。」



「…。」

そんなこと言われたら何も返せなくなってしまうんだ。特に普段は意地悪な翔斗がそんなことを言うと、余計だ。

ちっちゃい頃に親が離婚した私の家では、今日までお母さんが女手一つで私を育ててくれた。そのせいか私のお母さんも、このことを知っている翔斗や柚月も心配性で特に同じ母子家庭である翔斗は何かある度に“お前のお母さん”を連発させる。




「…わかったよ。その代わりさ、今度この前できたクレープ屋さん連れてってね。」



「はいはい。」

明らかに呆れた顔をした翔斗は、SHRの開始五分前を知らせるチャイムが鳴って自分の席に戻って行った。






「良かったね、デートの約束できて。」

ここで、全ての成り行きを見守っていた柚月が口を開いた。



「ほんと嬉しい。もう私空まで行っちゃうよ。」


「咲田くんと喋ってる間は全然そんな素振り見せないのにやっぱり本当に好きなんだね。」



「ちょっと、やめてよそんなこと言うの…」


本当のことだけど、声に出されて言われると流石に照れてしまう。




「緋鞠ちゃんかわいいねぇー。ほら、お顔が真っ赤だよ?」


「もうやめてよー!」


「もー、さっきは『うるさい!』とか憎まれ口叩いてたくせに随分と照れてらっしゃって。」


「ちょっと柚月っ…」


「乙女だねぇー」



「こら柚月!」


私が怒ってやっと囃すのをやめた柚月は、しばらく一人で笑ってから唐突に真剣な顔をしてきた。



「でもさ、私本当に二人お似合いだと思うんだけどなぁ。」


「そ、そんなこと言われてもさ。」


「ほら、告白とかしないの? 絶対におっけーさせると思うんだけどな。」


「するわけないじゃんそんなもの!」


「えー、なんで?」


「だって恥ずかしいしさ、振られたら絶対気まずいし…。いいの! 私はこのままでいいの。」



別に付き合いたくないわけじゃない。

でも今のままで満足してるし、これ以上求めることはないから。それに告白なんかして振られたらこうやって一緒に喋ったりができなくなるんだからそのリスクを考えたら今のままが一番いいんだ。“幼馴染”のままこれからもずっと隣に入れるのが一番いいかなって思ってる。



「でもさ、いいの? 咲田くん女の子たちに結構人気なんだから先に取られちゃうかもしれないんだよ?」




柚月に痛い所を突かれて、ちょっと返答に困ってしまう。

所詮顔しか見ていない、とは言うもののその顔がいいんだから仕方ない。翔斗は高一の今日までで30以上は告白されているほどモテてるんだ。それに一軍の女の子たちの推しへと化していて、その子達は彼女でもないのに嫉妬がえげつなく稀に私の靴箱の中に藁人形が入っていたりもする。


「…翔斗は今付き合いたい人がいないからいいの!」


「それ、ほんと?」


「ほんとだよ、翔斗前そう言ってたもん。」



「ふぅん…。あ、もうSHR始まるよ。席帰るね!」

柚月はまだ少し納得してないようだけど、そろそろ朝休みも終わりなので自分の席へと戻っていった。


ちなみに、四つ離れた席から聞こえる「おい緋鞠! 日直!」の声に気づいていなかった私はチャイムと同時に走る羽目になった。




♢ ♢ ♢


「あっま! おいしっ! さいこー!!」


土曜日の昼下がり、私は最近流行りのスイーツの店に来ていた。そして勿論、隣にはこの男。



「なんだこれ、生クリーム多すぎるだろ。絶対無理。無理無理。こんなん食べててよく吐かないな。」


甘党でもないくせにちゃんと約束通り一緒に来てくれるのは嬉しい限りだけど、店に入った時から食べてもないのに無理としか言わないのはちょっと腹が立つ。




「えーなんで? 美味しいよ? 特にこのイチゴとの相性の良さよ! 一口でいいから食べてみなって。」



「絶対無理。てかなんなんだこの砂糖とミルクの多さ。大人しくブラックにしとけば良かった…」

私が美味しくイチゴスペシャルクレープを食べている間、翔斗はそれを見ながらカフェオレを飲んでいた。




「食べないの…? ほら、翔斗が好きなアイスもあるよ?」


「いらない。てか俺気分悪くなったからちょっと外の空気吸ってくる。」


「え、あ…うん。行ってらっしゃい」


「ん。」



流石にこんな所来るべきじゃなかったかな…。ほとんど減っていないカフェオレを見てそう少し後悔する。翔斗、こういう女の子らしい所好きそうじゃないし。


『彼女が行きたくて連れてきた感半端ないよね。』

『うわ、ワガママ女でた!』

『あんなかっこいい彼氏なんだからそんなんしてるとすぐ見放されそうw』

『ちょっとは相手のことも考えて店選ぶべきだよね。』


すぐ近くに座っている女子大生たちの言葉がここにまで聞こえてきて、余計に心が沈むのを感じた。



あーそうですよ、翔斗はかっこよくて賢くてスポーツもできて人並みの優しさは持ってて、とにかく全部すごい人で、それに比べて私なんか顔も成績も愛嬌も全然だし跳び箱5段までしか飛べないような勇気も何もないようなバカですよーだ。でも好きになっちゃんだから仕方ないじゃんか。好きとか抑えれるもんじゃないんだから仕方ないじゃん。昔っから『なんであんな子と仲良くするの?』『幼馴染だからって可哀想』って翔斗が言われてたことくらい知ってますよーだ。知ってるけど幼馴染とか私が選べる物じゃないんだからそんなこと言わないでほしいんですう。

そうさ、そうさ、私はワガママで翔斗のことなんか何も考えてないようなダメ人間ですよーだ。でも私たちをカップルって思ってくれてありがとうございますぅ!




そこまで考えて、少し止まる。



あれ、じゃあ私たちは何?



一緒に遊びに行ったり、登下校もしたり、昔は手を繋いだこともある私たちの関係って、何?

この年でデートに行く二人って大体恋人科これから恋人になるような人たちじゃないの?



そう、結局ただの幼馴染。それ以上でも、それ以下でもないんだ。



この前柚月に言われた言葉が心の中で反響する、


“先に取られちゃうかもしれないよ”


取られるなんかない。翔斗に限ってそれはない。翔斗は誰も好きな人がいなくて、これからもずっとそう。そう思っていたのは、私だけかもしれない。そう考えたら余計悲しくなった。




『てかあれもしかして兄弟?』『あー、なるほど。だからワガママでもいいわけか。』

私のことを話していた女子大生たちの会話はエスカレートして、終いには兄弟疑惑まで浮上してきた。


あーあ。いっつもこうだ。

翔斗も他のみんなも、私たちを恋愛、強いては異性という面で見てくれていない。そうやって見えるようにして、私が翔斗に恋愛感情を持っていないという考えを植え付けるっていう思惑にはうまく乗ってくれてるみたいだけど、ここまでくるとやっぱり悲しくなるんだよね。




考え事をしていたからかアイスが垂れていることに気づかず、ひんやりとした感触が手に伝わってから後悔する。



「あちゃ…」

独り言を呟いた時、クレープが手からすり抜けた。



「手、洗ってこいよ。」

いつの間にか帰ってきていた翔斗がクレープを持っていたのだ。




「あ、うん…。ありがとう。」


言われるがままに手を洗いに行った私は、帰ってきてからの光景に目を奪われてしまった。




「…アイス、溶けてたからもらったぞ。」


ホイップクリームを口の周りにつけながらクレープを頬張る翔斗はなんだかリスみたいで可愛かった。



「意外とこれ、いけるな。ありがとな、連れてきてくれて。」


カフェオレをズズズ、と音を立てるくらいの勢いで吸っていることに気づかないわけはないけど、そこには触れないでおいた。



私が気にしてること、わかってくれてたんだ…。

これが翔斗なりの気遣いなんだって言うことくらい、言われないでも気づく。



だって私たちは幼稚園の時から今日まで、ずっと一緒に過ごして来た仲なんだから。



「ほら、お前も食べろよ。」

そう言って、クレープを差し出してくる。



ぱく。

翔斗の手に収められたままのクレープを思いっきり齧ったせいで口の周りにクリームがいっぱいついてしまった。



「おいおい、小学生か?」


「翔斗だってついてるよ。」


「え、嘘まじ? どこ?」


「うーん、そっち。」

「え、こっち?」


「違う違う、反対!」


「あ、届かねぇ。」


「手で拭きなよっ」


「嫌だよ、汚れるじゃねぇか。」


「何それ!」


そう言い合って、二人で笑い転げる。いつの間にか女子大生の声は耳に届かなくなって、心の中のもやが晴れるのを感じた。




♢ ♢ ♢



「ねえ緋鞠。」


「ん?」


弁当箱の上に箸を置いて、一呼吸してから柚月は言った。



「それさ…間接キスじゃん!」



昼休み、人はまばらだけど何組かのグループはいる中庭に柚月の大きな声が響いた。発せられた単語にギョッとしてこっちを見る人が何人か。


「ちょっ、声大きいって!」



「いや、いやいやいや! だって間接キスだよ? 間接キス!」

わざわざ“キス”を強調されて、こっちが恥ずかしくなる。


「…そうだよ。」


「もうさ、それ付き合ってるじゃん!」


「違うよ、そんなんじゃないもん! 違うの。」


全力で否定するけど、実際に間接キスをしたってことは事実でそれに変わりはない。そしてその点に関してはめちゃくちゃ嬉しかった。だって、トイレから戻ったら私が食べてたクレープを頬張ってるんだよ? 可愛すぎでしょ!!

いや、間接キスなんてちっちゃい頃からしてたし今に始まったわけじゃないんだよね。けどまあ中学入ったあたりからは全然だし? そもそも向こうからしてくれることなんて滅多になかったし?




「けど、そっかそっか。ついに咲田くんの愛が溢れ出してきてしまっているんだね…。」


「何それ。」


「まま、次の段階に行くのも遠くはないのかもしれないね。」


「次の段階って何よ」

柚月の言い方が面白くて、私のツボにはまる。



「えぇー? 告白してくるとかかなぁ。」

呑気に唐揚げを頬張りながら、とてつもない爆弾を投下する柚月。


「な、んなわけないじゃんっ! いや、いやいや、そもそも翔斗には好きな子なんかいないし!」


「へぇー?」


「ちょっと、もうやめてよー!」


「まあさ、今までそんな感じじゃなかった咲田くんがいきなり脈ありサイン出してきたんだったらいい兆しじゃん。」


「そうだといいけどさ…。」



「あっ、ごめん! 部活のランチミーティング行かなきゃ行けないこと忘れてた! もう始まってるかもしれない!」



柚月はそう言っている割にはのろのろと弁当を片付けて、そのままじゃあね! と言ってから様々な部活の部室が立ち並ぶ別棟の方に行ってしまった。





初秋の涼しい風に当たりながら、一人で考える。


翔斗…、ね。


私が困った時、いつもそばにいてくれた翔斗。

友達と喧嘩したとか、膝を擦りむけたとかお父さんがいなくて悲しいとか、そんな些細なことで泣いていた年長時代、いつも隣で手を繋いでいてくれた。小学校の時にいじめっ子からお父さんがいないことを揶揄われていた時、すぐに駆けつけてやっつけてくれた。初めてお母さんと大喧嘩した時もそんなのするべきじゃなかったと後悔してた時、友達とうまく行ってなかった時には、何も言っていないのにちょっとだけだけど慰めてくれた。


普段つんとしてて冷たいのにふとした瞬間に優しくなる。そんな翔斗に、気づいたら惚れていた。


お弁当を食べ終わった翔斗たち男子が中庭に来て、バトミントンを始める。


そんな屋外でやったら風でうまく飛ぶはずないのに。そう思っていたら案の定、早速シャトルが風に煽られて別の方向に飛んでいく。このまま青空の彼方へ飛んでいくんじゃないかなんて考えていた矢先、シャトルが木に引っかかってしまった。



友達と笑い合う翔斗を遠くから眺める私は、もしかしたらいつまでもこのままなのかもしれないねって思った。

柚月は“告白されるかも”とか言ってたけど、そんなの翔斗の性格上あり得るわけがない。まあ、別にこのままのいい状態がいつまでも続くなら、それに越したことはないのかもしれないけど。


翔斗のことを考えるたびに結局はその結論に行き着く私は、もしかしたら現実を甘く見過ぎているのかもしれない。翔斗には他に好きな子がいるのかもしれない。何かが起こって、離れ離れになってしまうかもしれない。



いや、その時はその時か。

そうだよね。


クレープを食べた時からずっと引っかかっていたこと。


今男子たちが頑張って取ろうとしてる、バトミントンのシャトル。

あれ、小さいくせに一回木に引っかかったら絡まってなかなか取れないんだよね。


それとおんなじように、ずっと私の心から離れてくれなかったこと。



私たちの、関係性。


今の私たちは友達であり、幼馴染。


とりあえず、それだけは確かなのだから今はこの肩書を大切にしよう。

ほら、恋は片思いの時が一番楽しい、なんて言うしね。それは成功者の言う言葉だけど。




不意に、翔斗と目が合った気がした。


でも、すぐにそらした。


男子たちが竹馬とかを使って頑張ったお陰でシャトルも無事取れたみたい。


ふと空を見上げると、雲一つない快晴が広がっていた。



“幼馴染”


うん。これでいいや。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ