第一章8『覚醒』
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「ごしゅじん……さま。血が」
弱いモンスターを事前に狩りまくってLvアップしておいたのが幸いしてなんとか生きてはいる。
俺の背中からは血が吹き出ているのを見て、
顔面蒼白になってリーフィアは震えていた。
「君が無事なら……良かった」
「し、死んじゃイヤ!」
リーフィアは杖を振りかざし魔法の詠唱を開始した。
「――『女神の祈り(オラシオン デ ラ ディオサ ヒール)』!」
緑色の粒子がヒロアキを包み込むと、出血が止まってみるみると傷が塞がっていく。
「助かった、ありがとうリーフィア」
「初めてごしゅじん様の役に立てて良かったです」
体内にある、かなりの魔力を消費するのか彼女は力を使い果たしてペタンとへたり込む。
「これくらい、なんてこと……ないです」
「無理すんな、休んでくれ」
今だ魔獣との闘いが終わる気配はない。
レイナとメリアは相手の攻撃を冷静に対処している。
「オラオラァ!二人がかりでもその程度か?」
魔法で生成した盾でメリアが防ぎ、その間に剣士のレイナが攻撃へ転ずる。
「魔族の癖によく喋りますね」
「なぁ、1ついい事を教えてやろう。大昔オレたち魔族に喧嘩を吹っかけて来たバカ共がいてなァ。人間とでけえトカゲみたいな見た目のヤツらだった。テメェらの世界でいう竜とか言ってたか?」
「………」
「それは、それはクソみてェに弱くて秒で殺っちまったぜ。まるで蟻を相手にしてる様な気分で最悪だった。テメェら二人の攻撃を見てると、そいつらが、チラついてチラついて。思い出して笑っちまうぜ」
「――今のがアナタの最後の言葉になるかもしれませんよ……遺言はいいのか、言いたいことはそれだけですか」
うつむいていた顔を上げるメリアは鋭い視線で魔族を射抜く、本来の綺麗なブルーの瞳が黄金色に変わって輝いている。
初めてメリアが感情を露わにした瞬間だった。
「か、変わった……テメェまさか?!あの一族の……」
「狼男の言葉を遮ってテレポートしたかのように一瞬で間合いを詰めると拳の連撃と渾身の右ストレートを魔獣の顔面へ、くらわした!
「私、魔法しか使えませんって誰か言いましたか?魔法使いの弱点は接近戦、街中で大技の魔法を放つと大きな被害が出てしまう場合がある。 自分の弱点を調べて対策するのは冒険者の基本中の基本だと思いますが」
「ぐ……がァ」
魔獣は何メートルも吹っ飛んでコンクリートの壁に激突した!
「て、テメェ」
「この状態で長くいると体力を消耗して疲れてしまうので、もう終わりにしてしまってもいいでしょうか」
オオカミ男の硬い皮膚を貫通して大きなダメージを与える。
何倍もの体格差のある相手を瞬時に圧倒してしまった。
魔法の使い手と見せかけて正体は脳筋スタイルですか?!俺は、
まるで素人とヘビー級ボクシングチャンピオンの試合を見せられているようだった。
「メリア?どうしよっか、このままにして帰しちゃうワケにもいかないし」
「うーん、困りましたね」
おそらく……おそらくだ。俺の意見だがパーティーに誘って来てくれる前、俺が異世界へ転生してくるずっと前から彼女達は旅を共にしてきたものと思われる。
「ゆ、許してくれ……何でもする。魔王の城の場所と正体について教えてやる、だから見逃してくれないか?」
「それは駄目だよー」
「アナタは何の罪も無い人たちの命を奪った。許すことはできません、絶対に」
メリアは魔族の頭上に光子状の輪を出現させると輪がオオカミ男をまるでブラックホールのように吸い込んで魔獣は光の中へ消えた。
「とにかく一件落着だね」
「当面の危機は去った……ということですが魔王の存在が明らかになった以上新たな脅威が迫ってくるのは確実でしょう」
またしても俺の活躍の出番も無く終わってしまった。
どうやらメリアは戦闘特化モードから元に戻れるらしく普段の雰囲気に戻っていた。
このパーティーに俺の居場所がなくなってる気が、
「ねぇ、ヒロアキ。その小さい子は誰?あ、もしかして新しいパーティーメンバーかな?!」
「その首輪……奴隷でしょうか?別で買い物を頼んでいたはずですけど。 アナタどこでそんな! まさか、誘拐して」
「いや、誤解だ!武器屋のおっちゃんみたいな反応しやがって。俺がそんな風なことする人間に見えるか?困っていたから助けてあげたんだ」
「相変わらずアナタはお節介といか、拾ってくるのが好きですね……だからいつまで経っても役立たずなんですよ。少しはパーティーに貢献したらどうですか?」
信用してないのか、メリアは軽蔑の眼差しを向けて俺に毒を吐いてくる。
サブクエストも含めてパーティーの活動期間もだいぶ経ってるのに相変わらずツンツンムーブをかましてくるお前に言われたくない。このツンデレ娘!(剣士のレイナにはデレている)が、
「あの……あなた方はごしゅじん様のお知り合いでしょうか」
「ああ。武器を持っているのが二刀流の剣士レイナ。そっちの毒突いてくる方がメリアだ。俺のパーティーメンバーだよ」
「ちょ、俺のとはどういうこと?勝手に言わないで。あと変な紹介の仕方はやめてもらえますか……これだから人間は信用できない」
「えっ?!パーティー変更の再登録の時にヒロアキをリーダー枠にして登録しちゃったけど。ダメだった?」
普通力の強い者が先頭になってチームを率いて行くのでは?
え、え?どういう事?みたいな顔をしてポカンとしているメリア。
「私たちのパーティーに彼が加入した扱いではないのでしょうか?冒険者歴だって私たちの方が長いですし…」
「ううん、だって隊長は自由に決めて良いって冒険者ギルドの掲示板に書いてあったから」
レイナさん?あれれ、レイナはもしかして、もしかしなくても天然か、
天然なのか。
彼女には天然爆乳娘の称号を与え……いやよそう。
「あのぅ」
何がなんだかわからない不思議そうな顔をしてメリアは俺の服の袖を引っ張る。
「私はリーフィア。レイナさん、メリアさん。よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願い致します、リーフィアさん。こっちの変な男よりは信用出来そうです」
「変なのって俺のこと?!」
「よろしくね、リーフィアちゃん。何だか楽しい旅になりそう!」
魔獣を退けた功績として特別に奴隷が冒険者に登録する事を国が許可してくれた。
冒険者ギルドで登録をしてリーフィアは正式な冒険者として認められる事となり、
こうして新しい仲間リーフィアが、パーティーに加わった。
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翌朝
談笑と朝食を終えて、王都のエリクト国王から直々に呼び出され城へ足を運んだ。
「お主たちの活躍は聞いておる。襲い来る魔族から、よく王都を救ってくれた。礼を言う!」
国王様の護衛で鎧と剣を装備した騎士の者たちが綺麗に整列している。
俺達は1人ずつ自己紹介した後、国王様に深く一礼した。
「既に諸君らの知っている通り魔王がふっかつしようとしている。まず魔王とこの世界について教えよう」
国王の話を短くして説明すると、
かつて『創造の神ゼクスドラゴン』は、2つの世界を作った。
日の光が降り注ぎ人間たちが暮らす地上、
神とその眷族たちが住む天界。
ですが神々が統治する世界に意を反し、魔王は侵略を企て軍勢を率いて神たちへ戦争を仕掛ける。
圧倒的な力の前に屈するしかないのかと思われたその時、そこへ待ったを掛けたのが、異世界より現れたの戦士とゼクスドラゴンでした。
魔族対ドラゴン。両者の戦いは熾烈を極め死闘の末、戦士は魔王を封印、帰還した戦士は世界を救った勇者として、大英雄と呼ばれ人々から伝説として語り継がれる存在へ、
そして現在に至るという。
「しかし、900年後。現在また、いずこともなく現れた凶悪な魔物が、あんこくの闇に世界を破滅させようと動き出しつつある。そこで魔族を退治したお主たちの力を見込んで魔王ふっかつを阻止し、世界に平和を取り戻しに行ってほしいのじゃ」
なるほど、ドラゴンが作った世界だから名前がドラグニアなのか。
魔王。けっこうファンタジーの世界っぽくなってきたじゃあないか。
「そこの男、見慣れない格好をしておるな。確か召喚の儀式によって異界の地より呼び出された者か?」
国王がヒロアキへ尋ねる。
「はい。ヒロアキと申します。自分は何者かによって此処とは別の世界から転生されて来ました! 国王様は何かご存知でしょうか」
メリア、レイナ、リーフィアの3人は俺に視線を向ける。
俺を異世界ドラグニアに転生させた何者かの正体がわかるかもしれない。
「すまぬ、残念ながらワシにも分からぬのだ」
「……」
「大丈夫ですよ。ごしゅじん様。きっと手掛かりが見つかるはずですから!」
「私も協力するよー」
「そうですね……丁度、次の街に向かう準備を整えていたところでした。私にも果たさねばならない目的がありますから」
王様はパチンと1回手を叩くと
「ふむ、お主たち皆の目的は一致しているようだな。これから冒険の旅に出てもらいたい………ワシからの依頼だが請け負ってくれるな?」
なんと!クエストとして直接、国王様からの依頼だ。
成功したあかつきには特大の報酬が支払われるらしい。
断る理由がない。
「タダでとは言わん。ワシからのおくりものじゃ!受け取るがよい」
俺の前に金塊とお金が入った袋が護衛の兵士から手渡される。
「世界の人々はいまだ世界に脅威が迫ってきていることを知らない。魔王を倒し、この地に再び平和を。では、また会おう! 異界から来た人間、ヒロアキよ!!」
前払いの報酬の一部を受け取ると、
俺たち四人は再び国王様に一礼して城の外へ出た。