第一章5『謎の少女とクエストへ』
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結局、朝になるまで悩み続けた結果、俺は自殺することが出来なかった。
あの時、町で声を掛けなければ。一緒に協力してあげたりなんてしてあげなければ――。こんな罪を被せられて辛い思いをしなくても済んだのに。
ヒロアキは、自責と後悔の念で頭の中が埋め尽くされて押し潰され今にも発狂しそうになりながらも必死に自我を保った。
この世界に勝手に連れて来られて、正体もわからない知らない誰かに召喚させられてなんで自分だけこんな酷い目に遭わなくてはいけないのか。
――くっ、復讐……。復讐してやる、俺に犯罪者の汚名を被せて異世界生活をめちゃくちゃにした――この国に、
必ず復讐してやる!!
ヒロアキはそう心に決意した。
「なんでだよ!見てんだろう?神様仏様ってのが本当にいるのなら少しくらい慈悲をくれたっていいじゃあないか!!神様は、生きとし生けるもの全てに平等なんじゃあないのか? なんなんだよホント」
また深い後悔と自責の念が襲ってくる。俺がやったワケじゃあない。けれど、謝罪の言葉をどれだけ並べても、悔やんでも、どれだけの数を後悔しても失われてしまった者の命は戻ってはこない……。
「ふざけんじゃあねえよ。ちくしょうおおおおおぉぉぉぉおッ――!」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
生きて元の世界に帰還することそれが罪と彼女に対する償いになるのなら。
「生活できるだけの食料や道具、周辺の地理とか覚えて…資金を手に入れて…っと。それに魔物を倒して鍛えておくこともしておかないと」
やらなくてはいけないことがたくさんある。それにどうしたら元居た世界に戻れるのかも知りたい、ここに召喚されて来れたという事は戻れる方法もあるかもしれないということ。
ポジティブに前向きに考えてないと心がどうにかなりそうだったから――。
異世界ドラグニアにやって来てからというもの何も口にしていなかったことに気がついた。
「――腹が減ったなあ」
余りの空腹に石階段にしゃがんで少し休んでいると、後ろから男の怒鳴り声が聞こえた
「聞いてんのか。――おいそこのガキ!お前だ座ってんの、商売の邪魔だ。どいてくれねえか――!」
声の先に視線を向けるとそこには、筋肉質で体格のガッシリしたモヒカン頭の店主が腕を組んで立っていた。
「ガキの兄ちゃんよ。お前さん、居座られると商売の邪魔なんだ」
と店主は言うと店の入口に座るヒロアキに話しかける、
「すっげー憂鬱で病んでんだよ」
「――ウチんとこの店前で彷徨かれて悪い評価が付いたら面倒だ。とりあえず、こっちへ来い!」
筋肉モヒカン店主に腕を引っ張られて、ヒロアキは店の中へ押し込まれた。
「――これは……」
ヒロアキの眼の前に綺麗に置かれていた物は、布や鋼鉄などで出来た衣類や戦闘用の防具に、ミスリル石やダイヤモンドで加工された高価な武器たちが棚やカウンターテーブルに整頓されて並べられていた。
「ウチは武器屋を営んでてな。他の王国や町にも店舗を経営していて、王都は本店ってところかな」
透明な袋に入ったパンを1つ、ヒロアキに向かって軽く投げるようにして渡すと、
「そういえば。兄ちゃん、腹空いてるんだってな。今だけはコレしか用意してねェ、我慢してくれ」
「ありがとうおっちゃん」
有り難くパンを手に一口かじりついた。気になるのはなぜ、どこの誰が俺を異世界に呼んだのか。その正体と目的、元居た世界に帰れるのか
そう考えていると、
「兄ちゃん、名は?」
「ヒロアキだ」
「そうか。ドラグニアじゃみかけない変わった服装してんな」
「…まぁ」
「ボロいきったねぇ服じゃいけないだろ? どれ、待ってな」
店主は店の奥からローブとグリップの付いた小刀を手渡してきた
のでヒロアキは上から羽織った
「お、兄ちゃん。ちっとはマシになったじゃねえか、 武器と身を守るモノがないとこの世界じゃあ生き残れないぜ。なにせ、王都の外には手強い強力なモンスターが生息してるからな」
「おっちゃん、俺でも倒せる低レベルな魔物やモンスターは近くにいないか?」
「それならエリクト王国近くの草原にうろついてるオレンジスライムがいいだろうレベルは1で、初心の冒険者でも素手で倒せる程度だ!そこで数時間ほど粘ればドロップアイテムを売って少しは稼げるだろう」
――労力と時間が釣り合ってない気もしたが生活するためには仕方がないが、やってみるしかなかった。
「で、装備品の代金はいくらになりそう?」
店主はヒロアキを見て何か違和感を感じたらしい。盗人かと思っていたが平均的な男性の身長で筋肉量もごく一般的な普通の男ひとりで犯罪しても成功率は低い、それに計画性がない。 彼は何かあるのではないかと察してくれた。
「おっちゃん、どうして…」
「何か事情があるんだろう? 俺はいらない武器の在庫処分をしてやっただけだ」
「この借りはいつか返すよ」
「兄ちゃんの出世払いでいいぜ。その代わり同じ境遇の人がいたらその時は手を差し伸べて助けてやってくれな」
武器屋の店主はグーサインをしながらそう言って店を出て行くヒロアキの背中を見送る。
「――さて行動開始だ」
王都の外へ出るとすぐ草原で奥には高い高い山が見える。緑いっぱいに広がる美しい景色、そこには元居た世界の外と同じように動物たちがいた。
しかし、元居た世界とは明らかに異径の姿をした生き物のモンスターたちが群れを成して何十と自然にいる。
その中に武器屋の店主が言っていたオレンジスライムとやらを3匹見つけた。
「こいつ等をひたすら狩れば、多少は力も付くはずだ」
ヒロアキは数時間と費やし、ひたすらに標的を倒しては魔物がドロップするアイテムを道具屋に持って行き、買い取ってもらって売るという作業を繰り返し続ける。
日が暮れたら安価な宿屋に泊まって休憩。また魔物を小刀で斬って倒す、この日程を2日間もやり続け――、
「こんなモンでいいだろうか。ある程度、銅貨や金貨なんかも貯まってきたぞ。それに腕力もそれなりに付いてきている」
食料品の調達に城下町をぶらついていると、冒険者ギルドの掲示板にチーム募集の張り紙を発見する。
「なになに?共にクエストをこなして君も英雄に!冒険者パーティ募集、高収入。やる気ある者求む。だってさ」
高収入?嘘つけ、日本でもたいてい、こういう謳い文句が書いてあるチラシは詐欺だってばあちゃんが言っていた。
どうせ誰も来やしないさ…。
それ以外にもパーティーを募集をしている冒険者はたちはいるがその人たちはメンバーが揃ったのか外へクエストに出て行ってしまった後のよう。
俺と組んでくれるヤツなんていない、そう思っていた時だった。
「あなた一昨日からずっといるけどクエストは受けないの?」
俺に二人の女性が声を掛けてきた。
ピンク色の髪でポニーテールの美人な剣士風の女の子。
腰に剣を二本ほど装備している。
おそらくは二刀流の使い手だろう、明るい雰囲気をしている。
その娘の隣には、どこかミステリアスな雰囲気を漂わす大人びた美しい容姿、長腰まで届く長い黒色の髪に冷たい目を宿している、理知的な瞳の
少女だった。
二人とも、俺と同い年か1つくらい上の年齢だろうか。
「え、ああ。クエスト?受けてみようかな」
俺のその返答に彼女は嬉しそうな顔をして、
「いま丁度わたし達も新しいクエストを引き受けてきたところなの!
でも、二人だけじゃ心細くて困ってたんだー。もし、よかったら一緒にクエストやらない? 冒険者プレートをみたら、君はルーキーランクなんでしょう。 チームで魔物討伐をこなせば経験値は他の人にも割り振られるシステムだからLvアップと冒険者ランクの両方を効率よく上昇させる事ができるよ? もちろん、タダ働きでクエストに参加してくれとは言わない。それなりのお返しはするつもりだから安心してね」
「よし、その条件乗った!」
「自己紹介がまだ、だったね。わたしはレイナ。 レイナ・ヴァスティアーユ。 役職は剣士で冒険者をやってるんだぁ!よろしく」
「メリア・アルターアグニルです。 好きな物は特にありません。 私はある目的の為に、冒険者として強くならなくてはならないの……。呪われてしまった一族の同胞たちを開放すること、呪いをかけた犯人は、S級犯罪者集団『武天魔』奴ら全員ひとり残らず、必ず殺すこと。
だから力が必要なんです。 あなたは利用価値がありそうですね」
復讐だろうか。メリアは、複雑そうな事情を抱えて冒険者を
やっているそうだった。
「俺はヒロアキと申します。レイナさん、メリアさん、お二人共よろしくお願いしますッ!」
冒険者ギルドを出て外にある出入り口付近へと足を進めた。
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俺たちは討伐クエストのをクリアするために平原へとやってきていた。
生い茂る平原の真ん中には3匹のモンスター。あの時とは別の個体だろうか黒い頭をした狼の魔物の姿がある。
狼の魔物はこちらに気付いて向かってきている、
剣士の少女、レイナは鞘から剣を抜くと戦闘態勢に入った。
「洞窟に生息してるのとは違った個体のLvが低い種類の魔物だけど、油断しないでヒロアキ」
「新入りの人。足手まといには……、ならないでくださいね」
あの時の惨劇がまた頭の中でフラッシュバックしてしまいそうになったが震えたカラダを抑えると、俺も構えた。
「私が隙をつくるのでそれに合わせてレイナが攻撃してくれませんか」
「わかったわ、メリア。じゃあいくよ!せーーーのッ」
次の瞬間、メリアは手を上に向けて空へかざすと手のひらから赤い火の燃えている火球が出現した。
無数の火の玉は俺の脇を通って狼の魔物の群れへ命中する。
「おお、魔法すげえ!」
ヒロアキは驚きを隠せない、詠唱とかは聞こえなかったがその事象は、ファンタジーに出てくる物そのものだった。やはり改めて見ると迫力がちがう。
「逃さない……よ、ていやーーーーッ!」
剣の刃の部分に小さい竜巻を纏わせたレイナの斬撃が狼の1体を捉え剣を叩き伏せる、
渾身の一撃が狼の胴体を真っ二つに切り裂いた。
倒したのも束の間、一匹、二匹と草原の茂みから魔物が沸いて出てくる
「これでは埒が明きませんね、」
「レイナ、あれを使うしかないみたい」
何かとっておきの秘策でもあるのだろう二人は小声で何かを話していて俺にはよく聞こえなかった。
「Lv13超上位魔法を使います。巻き込まれたくなければ、頭を地面に伏せて守ってください」
完成するまで詠唱に時間がかかるらしい。その間に足止めをするのが俺の役目だ。
「こっちだ!犬っころ」
ヒロアキは剣も魔法も使えない無能なのでその辺にあった木の棒や小石を投げて狼の注意をそらす作戦。
けれど怖いものは怖い、鋭く尖った牙に研ぎ澄まされた爪。そんなヤツらが何匹も増えてくる。
俺は涙目になりながら全力で草原の中を走った。
だが狼の走りは人間よりも圧倒的に速かった、ヒロアキの必死の足止めも虚しく追いつかれそうになる。
そうして時間稼ぎをしてる間にメリアの呪文が完成したみたいなので俺は頭を地面へ伏せた。彼女が詠唱を唱え始め、
「消え去りなさい、『ガイアインパクト』っ!!」
周囲にまばゆいほどの閃光がほと走った。
メリアの展開した魔法陣から放たれた巨大な熱を持った光球は狼の魔物たちの群れへぶつかると、
目も開けられない程の光と轟音。凄まじい風は音速を超え、衝撃波が発生。大爆発を起こしながら狼を粉砕した。
魔物の群れがいた場所には半球のクレーターが出来ていて、
爆発の破壊力を現すのには十分な光景だ。
あれだけの威力の魔法を使ったのだ、相当な量の魔力エネルギーを消費しているのにも関わらずメリアは息一つ乱していない。魔法に関してはかなり秀でた才能を有しており、かなりの猛者であることが伺える。
魔法のスキルを上位まで開放するとここまでの大威力を持っている呪文が使えるようになったりもできるのか……。と俺は驚きつつ感動に浸っていると、
「もう終わりなんですか?つまらない。これでもまだ私は半分の力も出していません」
「わたしも少しは魔法が使えるんだけど剣士は基本、接近戦が主な役割りだから。さっすがメリア、頼りになるねー」
俺も何か貢献しなければ、彼女たちの背後に隠れていた狼一匹に武器屋のおっちゃんから貰った武器でトドメを刺し、今日のクエストは終わった。
ようやく次回から本編に入ります。ご一読頂けましたら幸いです。よろしくお願いいたします
物語と矛盾が生じたため一部シナリオを変更いたしました。