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はぐれ転生者で異世界活動  作者: 双葉きずな
第一章『異世界からの来訪者』
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第一章4『善意と重たい着せられた代償。罪と罪』

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時間が止まる。というのはこういうことを言ったりするのだろうか。



「――これはきっと夢なんだそうに違いない」



そう思いたかった。ふと、ヒロアキは下を見るとペンキで塗られたかのように自分の着ていた服がどす黒い血で染まっている。

死にものぐるいでひたすらダンジョンの出口へ走っていたからか肺のある場所が痛くて息が苦しい。


生きて生還しているということは無事に撒くことができたのだろう。後ろを振り返ると黒い頭をした狼の魔物の群れの姿はなかった。




パーティーの一行は終始無言のまま、一言も言葉を交わさずギルドへと帰還した。

冒険者ギルドに置かれているテーブルに黙って席につく、



静かな静寂の空気を裂いたのは、リーダー格の剣士の声だった。



「ヒロアキ、悪いがパーティーメンバーを出て行ってもらう……君のような役立たずはクビだ。足手まといの君はもう追放だよ」



リーダーの告げた言葉に俺は言い返すことが出来なかった。

突然の出来事に魔法使いの彼女と弓使いの男は暗く絶望の表情で酷く震えていた。



「いい加減にしてよ!も、元はといえばヒロアキ、あんたのせいでこうなったんじゃないの。責任を取って顔面一発殴らせなさいよ!それが無理なら、さっさと消えてちょうだい」



当然だろう、俺の不注意だった。つまずいてまんまと魔物の仕掛けた罠にハマらなければあの惨劇は回避できたかもしれない。俺が回復術師の少女を殺したのだから、



あの時、狼の魔物の群れに襲われている回復術師の光景がフラッシュバックした。

死んでしまった、鋭く尖った牙に貫かれ回復術師の少女は殺されてしまった目を見開き、驚いたような顔で死んでいる少女の姿が脳裏に焼き付いて離れない。責任は俺にある、 

――そう、原因はなんであれ彼女は俺が殺してしまったのと同じだ。



魔法使いは何か言いたそうだったが、それを遮ったのは弓使いシーフの男だった。



「人の話しきいてますかヒロアキさん!。 あなた、自分が足を引っ張ってるという自覚はありますか?」

「…すまない」



冒険者ギルドの受け付嬢さんが飲み物を持ってきてくれた。

しかし弓使いの男はヒロアキの返答を聞いて怒りが頂点に達したのか水の入ったコップを思いっきり力をいれてテーブルに叩きつける。



「はぁ?! すまない?言葉はそれだけですか? ふざけないで下さい! あなたがぼんやりしてたせいで我々の大切な仲間の命が失われたんですよ!! あなたが彼女を殺したのと同じではないかと思いませんか?!」

「……ごめん、本当にごめんなさい」



悔やんでも悔やんでも、回復術師の少女の尊い命は帰っては来ない。



「ヒロアキさん。あなたは彼女が襲われている時、何をしていたか覚えていますか?他のメンバーは怖くても必死に魔物に立ち向かい武器や魔法で回復術師さんを助けようとしながら出口へと向かいました」

「……」


「ですがあなたは、自分だけ助かろうと一人でダンジョンの出口の方向へ走って逃げて行ってしまったじゃあないですか。僕の言っていること間違ってますかね」



弓使いの男の言う事はごもっともだ。

返す言葉もみつからない。周囲が呆れていると怒りの表情に満ちたリーダー格の剣士が近いてきていきなりヒロアキへ腹パンをくらわせてきた。



「……ぐ、グッ!」

「彼女は怖かっただろう、苦しかっただろう。回復術師の彼女が最後に言った言葉を覚えているか?誰か助けて…。だった」




剣士の男は倒れているヒロアキへ何度も何度も、何発も蹴りをいれる、

仲間を失った悲しみや憎しみが込められていた。

しかし、ヒロアキはやり返したりしてやろうとは思わない

手は一切出さなかった。


「仲間を見捨て逃げ出したお前に渡す報酬はない、お前の行為は裏切りと殺人だ!殺人犯が気安く冒険者を語るな!!」




あの当時、回復術師の少女が襲われている。ヒロアキが、

それに気がついた時にはもう手遅れで、


あの時、 タイミングが違っていたら


運命が変わっていたかもしれない――。




「取り返しがつかないことになってしまった……」




ヒロアキは心の中でそう言って深く絶望した



これがいわゆる詰んだ、という状態なのだろうか。





これからどうやっていけばいい――、




どうしたらいいか自分ではわからなかった。




ボタンの掛け違いで、



まさかこんな大変なことになるなんて思ってなかった。どうして……。




激昂した剣士は鞘から剣を抜いてヒロアキの喉元の近くまで突き立て、



「本来ならヒロアキ、お前は王都の兵士に突き出して、王様に裁いてもらおうと思っていたがやめだ。返答次第では今ここで――」



「やめてください!お気持ちはとても痛いほどわかります。けど、

もう十分でしょう。他の冒険者の方々もギルドを利用してるんですよ?迷惑です。余所でやってください」



俺を庇ってくれたのは受付嬢さんだった。



「ヒロアキさん一人に責任をすべて擦り付けるのはおかしいと思いませんか?あなた方も彼と同じ状況ならそうするしかないはずです。私は多くの冒険者を間近で見て接してきました。最初は誰だって初心者なんです! あなた達もそうだった頃が、あるんじゃあないんですか?」



彼女の言葉も正論だ。その言葉に今まで怒りをぶつけてきた三人の冒険者たちは受付嬢の言葉をただ聞いていることしかできない。



「でもヒロアキの行為は殺人に等しいはず、裁かれるべきだ!」

「そんなことをすれば一緒にいた貴方がたも、裁かれてしまう対象になるのでは?。 結果的には助けられませんでしたが、それはとても悔しくて悲しいことです。亡くされた気持ちは、私にも痛いほどわかります。ですが剣士さんは今、ヒロアキさんをその武器で手に掛けようとしました。それで回復術師さんが喜ぶとでも思っているのでしょうか?」



回復術師さんの為になることでしょうか?彼女がそう言いかけた時ギルドに居た他の冒険者たちが一斉に受付嬢に賛同するかのように野次を飛ばした。



「お嬢さんの言う通りだ!お前たちは八つ当たりしたいだけか」

「そうだ、そうだ。一方的に罪を着せて擦り付けるのは間違ってんぞ!

お前らは

ただ現実から目を背けたいだけなんじゃねえのか?!」



冒険者三人は立場が悪くなって居づらくなってしまったのか、

「ちっ!クソが」と捨て台詞を吐いて去って行ってしまった。



「あの、ヒロアキさん……。大丈夫ですか」

「ありがとう」



受付のお嬢さんは前屈になってしゃがむと、持っていたハンカチで出血した箇所を拭ってくれた

ヒロアキの身体はボロボロで血が出ていた。



「初仕事でしたね……お気持ちお察しいたします」

「ごめん、俺のせいで巻き込んでしまって」



近くにいた他の冒険者、数名に肩を貸してもらいながら身体を起こしてもらった。



「特別に宿を手配いたしますので今日は泊まって傷を癒やしてください、お薬も用意させていただきます」

「迷惑をかけてしまってすまない……」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※







肩を貸してもらいながら手配された宿の自室へ連れて行ってもらった、

宿の主はズタボロで傷だらけの姿を見て何か事情があったのだろうと察して何も聞かずに宿の部屋の空いている一部を貸してくれた。



「うう……」



さすが異世界で調合された治療薬、かなり深いダメージじゃなければかすり傷程度なら数時間の内に傷が塞がる。

だが、寝付けない。脳に刻まれたあの絶望的な光景が何回もフラッシュバックしてしまう。

回復術師の少女を救ってやれなかったという後悔の念にかられそうになる。



なんでいつも、いつも俺のやることは空回りして上手くいかないんだよ!

昔っからそうだ、運動会では一等賞目前で抜かされ2位、修学旅行の時なんかは風を引いて高熱が出てしまい欠席。学校ではいじめを受けている、付いたあだ名はクソ虫。

給食の時も、ホームルームでも一人ぼっち。

何をやっても駄目な人生だ。


そうだ、ダンジョン脱出用に事前にロープを支給されていたんだっけ。

いっそのこと自殺してしまおうか、

ロープをカーテンレールの空いている箇所へ引っ掛けて首が収まる大きさの輪を作った。



自殺してしまえばあの悲惨な光景、自分の犯した罪を忘れることが出来て全てが楽になるだろう、そんな考えが頭の中をよぎる。




「華やかな異世界生活は一瞬で終わった……」



きっと次の日には仲間を見殺しにしたクズ冒険者としてのレッテルを貼られてこの異世界ドラグニアで生きていくことになる。


元居た世界ではいじめられて虐げられてきた、しょうもない人生だったがこの異世界でなら脱却してやり直せるだろうと、自分の捻くれた性格から変われるんじゃないか。新しい自分として生きていけるそんな甘い考えでいた。



かわいい彼女を作ってデートしたり大勢の部下を従えて慕われて英雄として語り継がれる勇者的なのに成りたかったなあ……。



しかし、その思いは儚くも砕け散る。



しんでしまったら何もかも終わってしまう、自殺するのはやっぱり怖い。


痛いのも嫌だ。やり残したこともたくさんある。



母さん、父さんごめん。もうどうでもいいや。そんなことを考えていると気づけば日が登って朝になっていた。




………俺の意識は何かに吸い込まれるように遠くなる、急速に意識が遠のいていくそんな感覚に突然襲われた…………。












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