第二章1 『ヘルクダール王国』
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この世界の名はドラグニア――。
魔法があり魔獣がいる。
ドラグニアは人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族などたくさんの種族が存在している。
人族は最も多く、人口も多い。その他も獣人族とエルフ族はまあまあいる。
中でもドワーフ族は数が少なく、小柄で物づくりに長けている種族。主に武器や防具の製造をしているが、鍛冶師として己の人生を突き進む人も多くいるため職人として国を支えることもある。
獣人もいるが数が少ないので奴隷として扱われることが多い。
ひょんな事から日本に住む少年『ヒロアキ』は、何者かの手によってドラグニアの地へと転生させられてしまう。
今は色んな経験を経て、冒険者パーティーを組み、仲間達と共に旅をしている。ヒロアキの目的は自身を転生させた者の正体を暴き、いずれ来たる厄災を阻止し魔王を倒すこと――。
この世界には伝説として語り継がれている最強の生物、ドラゴンが世界の果てに、いるとかいないとか、
異世界ドラグニアは不思議が溢れている魔法の世界――。
ヘルクダール王国。横並びに街全体を囲う城壁が建設されており、その中には人口700万人ほどが暮らしている。
中世ヨーロッパ風な外見に歴史ある古めかしい印象を受ける――辺りには木材や煉瓦で出来た家々が立ち並んでおり、奥には教会や学校のような建物もあった。
城門をくぐり抜けると手綱を引いて停留所に馬車を停止させる。
「皆様到着いたしました。ヘルクダール王国でございます」
ここまで連れてきてくれた運転手へヒロアキたちは感謝を伝えると馬車を降りて別れた。
「でっけー建物が多くて凄いな」
「リーダーの住んでいた場所には無かったのですか?そんなに珍しくも何ともないと思いますけど」
驚いて何が悪い! 日本にはそんなファンタジー的な建造物はねぇから。とメリアにツッコミを入れたくなったが、俺の情報を明かすワケにもいかずグッと堪える。
ひと息着こうとしたのとほぼ同時に――、
武器屋の店から出て来た男性が声をかけてきた。男性はメリア達へ軽く一礼をして、
「これは、これは――噂は耳にしております、なんでも賊を打ち倒したとか」
彼は、眉目秀麗。
何百万もしそうな仕立てられた高級なスーツを着こなしその容姿はあらゆる異性の相手を魅力する、端整な顔立ちで整えられたスタイルをした外見。
身長はヒロアキよりも十センチは高い長身の男性、
おそらく男性は見た目から20代後半といったところだろうか。
「どちら様でしょうか」
「自己紹介が申し遅れました。わたくし、バレット・バレド・セブン。と申します」
上下黒のスーツに身を包むバレットという男性は仕草や立ち振舞、その佇まいから高貴な家柄の出の人物であるというのが感じられる。
「ああ、なんとお美しい容姿をした方なのか! まるでお姫様のよう」
「――え?」
腕を脇に当てまるでダンスでも踊るようにレイナへ近づくバレット。
地にひざまずくとレイナの手を取って、彼女の手の甲へ軽く口づけをした。
あまりに突然の出来事だった為、レイナは少し驚いたものの冷静に
「……どうも、ご丁寧に」
「腰に下げている剣をみるに相当卓越した剣技の持ち主とお見受けしました。もう一人の女性の方は魔法使いでは?」
一瞬でレイナとメリア、二人の職業や実力を見抜いてしまった。
相当な観察眼の持ち主、バレットは一体何者なのだろうか?
「皆さん、この国に来るのは初めてという方も多いでしょうから私がご案内しますよ」
「それは助かります、ぜひお願いいたします。バレットさん」
現在、俺たちのいる地点。大きな噴水のある広場から左へ曲がって真っすぐ行ったところの中央市場へ向かった。
ヒロアキは彼について色々知りたいので聞いてみる、
「バレットは普段なにをしたりしてる人なの?」
「お仕事ですか?機械を使って部品の組み立てをしたり自社製品を開発、販売する仕事をしています」
このヘルクダール王国の市場も、他の国に負けず劣らず大勢の人で賑わっている。
美味しそうな匂いのするパン屋さんに、小道具店。たくさんの本が売られた店がいつくも開店していた。
「なぁ、メリア。なんでこの国は本屋が多いんだ?」
「――ここヘルクダールは文学の国と呼ばれていて学力が高く、優れている著名人や学者を多く輩出している国なんです」
ふいに尋ねられたからかメリアの顔は少し、むすっとしていて不機嫌だったがちゃんと受け答えはしてくれていた。
「いいですね! 文学の国。何か勉強になることがあるかもしれないですよ」
「そうだな」
俺の後ろをくっついてくるのは、王都の奴隷商で売り捨てられていたところを俺が拾ってあげた猫人族の幼い少女、リーフィアだ。
尻尾を左右にフンフンと振りながら俺の服の裾を引っ張って迷わないように歩いている。
ネコ耳はアンテナのように横や後ろ向きへ動かしながら何かをしている。多分、初めて訪れる場所なので周りの音を聴き取って危険が無いかどうかを調べているのだろう、
その姿はとても愛くるしくヒロアキは娘や孫を見守るおじいちゃんのような気分になっていた。
と、干渉に浸っているとバレットが話しかけてくる。
男同士だし呼び捨てでいいかな? とのことなので良いよと俺は返事をする。
「ヒロアキか。ここ、ドラグニアじゃ変わった名前だけど何処の出身? 特別な家柄の出自とか」
「あ……ああ、そうなんだ。ウチんとこアレでさ……」
ま、まずい! この世界の人間にあまり俺の素性を知られない方がいい。
俺が転生されて別の世界から来たなんて誰が信じてくれると思う?
仲間たちに聞いた時だって異世界召喚とか、転生って単語すら全く知らなかったリアクションをしていたのだから。
知り過ぎる人間が多いと、他国からの暗殺部隊だ!とか勘違いされたり敵が送り込んだスパイだ!とか認定されたりして話しが面倒になる。最悪な結果に、そうならない可能性も無くはない――、
「なぁ、あれは何?」
話題を別の方へ不自然にならないように変えつつ、槍の形が掘られた看板を掲げている武器屋を見ると店頭に展示されている鎧を指差してバレットに質問した。
「あれは戦士が戦に出陣する際に使う、この世界の特殊な合金で出来ている鎧だよ。 もう100年以上前の――」
ドラグニアで入手出来る特殊な金属か。異世界のアイテムだし、何か凄そうな代物であることは間違いない。
RPGゲーム。ファンタジーものでよく出てくる鉱石と言えば、アマンダイトやヒヒイロカネ。ミスリルにオリハルコン、といったモノが定番だ。
他は仮想世界で加工されたプラチナや金なんかがRPG特有の固有武器のサイキョウ順位の間に入っていたりする位置にあったりする。
中央市場からもっと遠くに見える建造物をヒロアキは指を差してバレットに尋ねる
「へぇー……そうなんだ。で、あれはみた感じ教会っぽいな!あの奥にある建物はなんだ?」
「ヒロアキは興味があるのかい。あれは学校だよ」
中央市場からもっと遠くに見える建造物をヒロアキは指を差してバレットに尋ねる。それは、お城や宮殿の形をした巨大な学校――
「いずれ迫りくる厄災――魔族の脅威から世界を守る目的で、魔術師が魔法を学ぶ為に建設された別名『魔術塔』ポンコツなリーダーは本当に何も知らないようなので学力が低いのにも解かるように、簡単に教えてあげましょうか?」
と、横で黙って聞いているだけだったメリアが問答だけのキャッチボールに痺れを切らしたのか腰を折ってくる。
彼女の表情はさっきよりも不機嫌そうで、目を閉じて呆れている――、
『そんな当たり前のこともしらないのかしら』とでも言いたそうな雰囲気だ。
もったいない、非常にもったいない。静かに黙っていればドラグニアでも5本の指に入る程の美少女なのに。相手を煽る棘のある言葉がいつも、ひと言余計なんだよなぁ……。無知なのは仕方ないだろ?本当に俺は日本から飛ばされて来てしまったんだから、そして転生させた『何者かの正体』を暴くことが俺の目的でもある!
「悪かったなポンコツで。 これから色々お勉強させてもらいますよ」
「仮にもパーティーのリーダーなのですからしっかりしてもらわないと。 一緒にいる私たちまで低いLvに見られてしまうわ」
はぁ……と深いため息をつくと彼女はやれやれといった様子でジト目で俺を睨む。
――思い返せば、王都でパーティーに誘われて加入させてもらった時から俺への当たりがキツくないですかね?! 寝泊まりする部屋を別々にされたり、敵のアジトで置いてかれそうになったり。
一体いつになったらメリアと仲良くなれるのだろうか。
どんよりした空気になりそうなところをレイナが明るくしようと、
「みんな仲良く、ね? これから強くなっていけば良いと思う。それに、ヒロアキは役に立ててるよ」
「ありがとうレイナ。 やはり異世界にもヲタクに優しい女性は実在していたのか!?」
「――おたく??」
いったい何の国の言葉か分からず指を頬に当て首を傾げるレイナ。俺は急いで訂正しようとするも、
「俺んとこの故郷の言葉で、複数または何か一つのことに情熱的で深い造詣と想像力を持ってる人って意味……かな。たぶん」
「ん〜〜……何だかよくわかんないけど、継続して何かを続けられるってとっても素敵なことだね!」
深く俺のことについて追及されてしまうのか?とも思ったが、レイナは自分なりに理解して納得はしてくれたようで良かった。
横を歩いていたメリアが上目遣いでこちらを睨みつけて、
「そういうリーダーは、ドラグニアに来てからなにか学ぼうと継続したり努力したのかしら?誰かの通訳が無いと文字すら読めないのに」
「だから、これからやりますってば!何回も言っとるでしょうに」
いちいち俺の痛いところを棘のように衝いてくる娘だなぁ。粗を探すんじゃあなくて少しは良いところも探そうという気はないのか?!
「――へいらっしゃい!」
俺達の話しているやり取りが見えたのか、パン屋の店主がこちらへ呼びかける。
ガン無視して素通りするわけにもいかず売り場の品だけでもみてやることにした。挨拶はされたら返すのが礼儀――悪い性格な人間だと思われでもしたら次にこの国に来たときに気分が悪くなりそうだからだ。
「美味そうだな」
「だろ? よかったら連れの姉ちゃん達もどうだい。この店のパンは味もいいんだ! 買うのが不安なら試食もあるからそれを食ってから購入を決めてもいいぜ」
商品棚には様々な種類のパンが綺麗に陳列されている。
プレーン、苺のパン。チョコレートパンに梨パン。ピザトーストやチーズにバジルのパンまで、
種類は実に様々で店内は香ばしい香りで充満されていて食欲をそそる。試食用のバケットを持ってきてくれたので、せっかくだから食べてみることにした。
まずはメリアとレイナが、
「店主さん、この商品は美味しいですね……」
「――ホントだ! 挟んだ食パンの中に生クリームと果物がふんだんに入っていて凄くおいしい」
続いて俺とリーフィアも手に取って一口頬張る。
「ご主人様、おいしいですぅー!」
「マジでうめぇな……舌触りも良いし、生地もモチっとしていて柔らけェ」
「兄ちゃん達、だから美味いっていったろ? 王都を含め、他の国にも支店もあるから見かけたら買ってみてくれよな」
自慢げに鼻を鳴らすと店主は腕を組んで仁王立ちをしている。
なにもせず立ち去るのも引けるので商品を買って店から出て大通りへ戻った。
住宅街や学校なんかもある為か行き交う人の数が尋常では無く物凄い多い。
出店で買ったものを歩きながら飲食をしている人や帰宅途中の学生さん、これから仕事へ向かう人などいろんな人が大通りを利用している。
「確かに文字も読めたりすらできないんじゃこの先不便だよなぁ……あいつの言うことも一理あるな」
書けるようにはなれなくても読めるようには、せめて成らなくては一人では店に置かれている看板すら今はわからない。
外の国から日本へ渡航する人の不安な気持ちがヒロアキは、ちょっとだけわかったような気がした。
「あれ? そういえば、バレットさんは」
「どこでしょう?……買い物をしていたら見失ってしまいました」
先ほど知り合ったバレットの姿がない。彼のことを探して通りをみわたしても何処にもいなかった。
ついさっきまで一緒に歩いていたはずなのに――ヒロアキはそんなことを考えていた時だった。
「どけどけェ! ぶっ殺されたくなかったら道を開けろ!!」
――片手に凶器を持った男の怒号が人でごった返している大通りの日常を非日常に変えた。