第一章16『戦いの結末は――』
もしセリフに間違いや抜けている箇所があったら
すみません。
大目に見てください!
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盗賊はメリアに意識を向けていてまだ、ヒロアキ達には気がついていない
すると、リーフィアの物資を破壊する魔法で奴隷たちの身体を固定していた鎖と牢を固定していた錠が外れた。
「ふぅ…良かった。なんとか助けてあげられそうですね」
「よくやった、お手柄だぞリーフィア」
壊れた錠の鉄部分が捻じ曲がって宙ぶらりんになっている。
扉が開けられて中にいた子供や老人を含む囚えられていた人々が開放された。
「おお、外へ出られそうだ!急げ」
「盗賊に見つかれば、一巻の終わりじゃ」
周囲は長時間捕まっていた緊張と恐怖感から我先に外部へ移動しようと行動する者たちでパニックになる。
なんとかして収めようとヒロアキは言葉を発して、
「みんな聞いてくれ! 落ち着いてきいて欲しい。 策があるんだ」
ペンで書いた紙を人々の前へ出して広げてみせる。そこに書かれていたのは、現在地の描かれた大まかな塔のマップと通路の線図だった。
「冒険者のおにいちゃん、それなんてかいてあるの?」
「そ、それはだな…」
と、幼女に言いかけた時囚えられていた内の一人の見た目40代くらいの男性が声を上げ、
「だ……騙されるなよ皆! こいつらはきっと賊の手下、一芝居うってヤツらと裏で取引をして、おれらを他国に売っ払う算段なんだ!!」
「そうよ そうよ。こんな素性のわからない連中の言う事なんて信じられるワケないじゃない」
盗賊に拐われた人たち、向こうからしたら読めない字を書いたりする変な奴で賊の仲間と思うだろう。強引に連れて行かれた先で半ば強制的に労働させられ、まともに食事すら無い場所にいたんだ無理もない。が、俺は日本にいたと言ったところで異世界の人には信じてもらえるハズもない――
「違います……ごしゅじん――ヒロアキ様は悪い人ではありません」
尻尾と耳を逆立てながら猫人族のリーフィアは必死に説得を試みる。
言葉以外で何か説明できるものはないのかと頭の中を回転させて考えてみてもなにもない。と俺は思ったとき、レイナがあるモノを手に出して皆に見せた。
「――これでいいかな?一応は証拠になると思うんだけど」
見せたモノ――それは王都で発行したランクプレートと冒険者としての活動の許可等を得たことを示す許認可証だった。確認が済むと俺達を疑っていた者は1言謝罪し、素直に話を聞いてくれるようになった。
「その策とは一体……」
「んにゃ、今から順を追って説明すっから少しだけ時間をくれ」
もう一度図の描かれた紙を取り出すと指先をしながら説明を始めて、
「――黒く塗り潰されている線が通路、四角で囲ったモノがブロック塀だ。俺はこの部屋へ侵入する前に妙な階段を発見した」
「ヒロアキが言う階段って登りか、降りどっちだったの?」
顔を覗かせながら前屈みで不思議そうにしているレイナの問に答える。
「階段は下へと続いていて隙間から外部の光が漏れていた。おそらく盗賊たちが外へ脱出するための経路だと俺は思う」
「ここは、ごしゅじんさまの案に賭けてみるしかこの状況から脱するのは他に無さそうです……」
幸い何かあった時の為に出口を開けっぱなしにして塞がないでおいて正解だった。
人質と囚われている人たちを解放するためにメリアが魔術で生成してくれた炎を灯った角灯を持ってマップと一緒に奴隷の一人に手渡し、こう指示する――、
「この地図を頼りに行けば出口に続いている階段へ辿り着けるはずさ。 皆を連れて向かっていてくれませんか?」
「君たちはどうするの」
「後で、きっと追いついてみせますから」
リカルダに勝てる自信はない、けれど大切な仲間を置いてヒロアキだけ尻尾を巻いて逃げる訳にはいかない。
囚われた人々は助け合いながら慎重に少しずつ戦闘中域から出て、指示された出口の方向へ歩いて行くのを無事に確認したあと、ヒロアキ達はメリアに加勢するために背を向け戻っていくのだった。
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――現在の状況
盗賊リカルダが戦闘経験の差でやや優先だがメリアはその差を体術センス、豊富な魔術でリカバリーしながら立ち回っている。
「――――ッ!」
「オラオラどうした?! 息が乱れてきてるぜ? さっきまでの威勢の良さはどこへいった」
背後にいる囚えられた奴隷たちが退避したのを完全にこの目で確認し終えるまで大技を使うことができない制限下での戦い、民間人を巻き込んでしまうことを彼女は何としても避けたかった。そのため100%の力が出せずにいる。
鋭いサーベルの刃がメリアの腹部目掛け、突きが放たれるもメリアは身体を後ろへ傾けて避け致命傷を免れる。レノで練られた魔法の粒子で、刃は進路を変え彼女の左頬をかすめただけに留めた。
だが、
盗賊が懐に隠していた袋から掌で掴むと何かが宙に投げられた。塔から吹き抜ける風に乗って舞う塊の正体は砂だ。
「――――!」
「てめぇ、魔力を温存していやがるだろ?だが、いくら強い魔法を使えても、すぐには展開できねェだろうよ?!」
一時的にだがメリアの視界が砂煙によって潰されてしまう。それに乗じて反対側の方向から飛び込んできたリカルダは蹴りを放つ。
「――――ッ!」
「手応えはあり……もらったァ!」
細くて華奢な彼女の骨をへし折るには十分な威力だ。
一撃が脇腹へ直撃したかに見えたが身体を傾けることでその衝撃を後ろに逃がして回避したメリアは、
「ッ……?!」
「驚くことかしら、相手を甘く見ているのはあなたの方じゃない。それとも今のが全力? ――だとしたら拍子抜けね」
「小娘が……なめんなァ」
盗賊が油断していた隙を狙って背後に移動し、メリアの回し蹴り。
少しよろける盗賊だがすぐに体制を立て直して反撃、彼女はそれをバク転しながらの回転蹴りをリカルダの顎へくらわせると距離をとりつつ後ろに離れる。
すかさず、リカルダはオーラを纏った右ストレートを放った。
「うぉおおおおおお!!」
雄叫びと共に渾身の一撃を放つ。しかし、その一撃を難なくかわし懐へ飛び込む。
拳はメリアの左頬を逸れて空を切り、メリアはリカルダの腕を摑んだ。そのまま背後に回り込み、関節を極めてリカルダの動きを封じる。
「これで、その怪力は封じられた」
「そいつは――どうかな!!」
それをメリアは横へ移動してスレスレのところで回避してみせると呼吸を整えてから魔力を練る。
通り過ぎていった一定方向にそろった細い流れのオーラの極光は分厚い塔の壁をいともたやすく貫通し大穴を開けた。
まだ魔法も扱えず、ろくに魔力もない普通の人間のヒロアキの目線には映画でも観ているかのようなアクションの連続で目で追いながら状況を理解するのがやっとの状況だ。
立ち尽くして戦いを観戦していることしか非力な俺にはできない。
それでも仲間たちの役には立ってみせようと心の中でつぶやくと、何とか足手まといな自分なりに頭を使って考えてみるもいい案が思い浮かばない、レイナとリーフィアの二人は援護しながらメリアが戦いやすいように魔法や剣による攻撃でサポートをしている。
が、なかなか相手を倒せる決定打になるような場面にはならず戦況は長引いていくばかり、
考えろ、考えろ! 俺にできること。は何かを考えるんだ。
足元を見ると先程の攻撃で崩れた壁から飛んできた小さい石ころの塊が転がっているのに気がつく。
ヒロアキは、それを掌で握って目の前へいる盗賊の親分へおもいっきり投げつけた!
石ころは円の軌道を描いてコツンと盗賊リカルダの頭へ当たって反動で跳ね返った石は床に落ちた。
「なんだァ……てめえ、喧嘩売ってんのか?ゴラぁ」
「ひ……ひぃ……ッ?!」
一気に標的はヒロアキへ向けられた。
何より自分よりも、ましてや相手をしている女剣士や魔法使いに比べてずっと何倍も格下であろうクソ雑魚の虚を衝く攻撃を油断していたとはいえ、くらってしまったのだ。プライドの高い賊の怒りは限界点へ達する。
彼の行動はリカルダの神経を逆なでるには十分に足りていた。
「てめぇ……始末すんのは後回しにしてやろうと思ってたが、やめだ――ぶっ殺してやる!!」
「び、びぇーーーっ! 天にまします我らの〇〇✕――おお神よ、愚かな私めに救いの手を」
不様――何たる不様な格好だろう。けれどこんな危機的状況でカッコ良いもクソもあるか、恥とかそんなもんは一旦捨てちまえ、
逃げた。ヒロアキはとにかく全速力で逃げる――追いつかれたらきっと殺される。どんな方法で処刑されてしまうのだろうと頭の中で悪いイメージが脳裏をよぎる。
相手は武器を構えながら高速で迫って来ている、俺はというと何も持っていない丸腰状態、結果は一目瞭然。
震えているだけのブルってる臆病者な人?腰抜け、卑怯者。知らない人が見たらこんな感想を抱くと思う――
しかし、それはなんの策も無しに俺が逃げていたらの話――、
激昂したリカルダは詠唱するとドス黒いオーラを纏った炎の火球を俺達へ向けて放った!
それに並行してメリアも攻撃魔法を詠唱する。
「くッ!……いけない。 ――炎の砲弾!」
「圧縮した闇の弾丸ァッ!」
宙に無数の火球を出現させて発射すると同時にリカルダの攻撃を相殺して防いでみせた。
蒸発した煙が上がる。
ニヤリと笑うリカルダ、
しかし、別方向から通常のさらに2倍ほどの大きさの黒い火球がリーフィアとレイナに向けて飛んできていたのに俺は気がつく。
俺は、2人を守ろうと身を投げるようにして盾になろうと前へ走る。
「俺はどうなってもいい……間に合え、間に合えッ!!」
「――――!」
つい先ほど開放された俺の能力が発動した。
その瞬間、俺に直撃するはずの火球が、弾力性のあるガラスに当たったかのように目の前で跳ね返る。
跳ね返れば速度は少し落ちるはずなのだが、勢いと速度は減速せずそのままに火球はリカルダの方向へと向かっていく。
「何のスキルもねェ雑魚が、オレの攻撃を跳ね返しただと?! 舐めんなよクソがァ」
「なに……今の」
俺の開放されたスキル。
『反射竜王』を初見ではじめて見たリーフィアとレイナは驚いた顔をしている。
火球は逸れてリカルダの頬をかすめて通り過ぎた。
「へへ………間に合って良かった」
「おい、てめぇ、小僧。いま何しやがった!なんの魔法か知らねェが一回のラッキーパンチが当たっただけで、図に乗ってんじゃあねぇぞコラァ!」
さらに激昂したリカルダはサーベルを握りヒロアキへ向かって突進してくる。
走りには自信のあった俺だが、
相手の足の方が背を向けて俺が距離を取ろうとするよりもずっと速い。
「――あがッ」
右肩に何やら違和感を覚える。
少し間を置いてからヒロアキは状況を認識した。鈍い痛みを感じる……左肩を見てみると、鎖骨から上の辺りにサーベルが突き刺さって切り裂かれた箇所は骨が見えるぐらい貫通していた。
「小僧、お前も魔法の使い手だったとは知らなかった。今まで加勢しないで観ているだけの臆病者だと思ったがよォ……?」
「あぐ……ッ」
振り返えろうと、すぐ相手へカラダの向きを変えようとしたが痛みで判断が鈍る。
思いっきり左の脇腹を蹴られた俺は背中から壁に叩きつけられ、反動で地面をゴロゴロと転がり回った。
――くっそぅ……前に自殺しようとしたバツなのかなぁ………あん時より痛いや。
立ちくらみがした時の様に視界がボヤけてもうろうとしてくる。
うっすらと聞こえたすすり泣くリーフィアの声、切り裂かれた場所から大量の出血。
倒れていた所のそれは、まるで湖のように地面が真っ赤に染まって見えた。
痛すぎて指先がピクピクと痙攣している。
なんとか必死に耐えてはいるが時々、意識が飛びそうになるのを我慢した。
「ハッァ!小僧…もうオネンネか?」
「うぐ……ッ」
俺をあざ笑うかのように見下ろしている盗賊リカルダの顔がうっすらと視界に映る。
少し休みたい。
いや、これは寧ろチャンスだ。俺を馬鹿にして笑ってくれる間だけ相手の攻撃の手が止まってくれている。 ――考えるんだ、奴を倒せる1手を!。
薄れゆく意識の中で必死に
俺が出血で倒れている間も仲間たちは守ったり攻めたりを繰り返しながらの戦局が続いている。
「……やらせないわ」
「その程度かよ。――魔法の使い手の小娘が」
立ちはだかるメリアの魔法攻撃を躱したリカルダは後ろへ、ステップして回避行動を取った。
……が、倒れているヒロアキが近くにいるのに気が付かなかった。
そう盗賊にとって俺は強力な魔法を使えない雑魚や、道端に捨てられているゴミと同じ存在だからだ。
その認識がリカルダにとって致命的なモノになるとは……。
俺は盗賊に気づかれないようにそっと立ち上がると少しずつヤツとの距離を縮めて歩く。
出血していない動かせる方の掌をグッと力を入れて握りしめる。
――もし本当に魔法ってのがあって俺にもそれが使えるのなら、ほんのちょっとでいい……力を貸してくれ。
土壇場の一発勝負の賭け、成功するかは分からない。それでもやってみるしかなさそうだ。
右手に全エネルギーを集中させるイメージで掌から血が出るくらい力を入れて握りしめる。
するとスキル『反射竜王』から発せられるバリアの力を右手に球状の形へ変化させ、オーラを付与して力を込めた。
「おい、盗賊さんよ――主役でも何者でもない俺の一撃は弱ェかもしんねぇけど、――俺はお前を超えていく……ッ! ――それだけの理由が俺にはあんだ!!」
「な、何ィ?! ――どが……ぐしゃァッ!」
俺はリカルダの頬に一撃だけかましてやった。床を何回転か転げ回りながら、ぶん殴られたリカルダは壁に激突して倒れた!
「ハァ……ハァ………一発だけ、やって……やったぜ。こんちくしょう」
渾身のヒロアキの一撃が炸裂。
持たれ掛かるようにぐったりと倒れているリカルダは口を開く、
「オレの――負けだ。盗品はこのエリアにある。――持って行け」
長かった盗賊団との死闘にようやく幕が下りた、本当に命を賭けた戦いはヒロアキたちの勝利で閉幕した。
俺達パーティー4人は指示された場所に無造作に置かれている『竜神の兜』を発見して袋へ入れた。
村や一般市民から盗まれた品は別の風呂敷へ分けて回収した。――きっと困っている人も大勢いるだろうから。
「やりましたね!ごしゅじん様」
「おう。リーフィア達、皆のおかげだよ」
「どうだか、――1人戦闘中に敵前逃亡を図ろうとした者もいたらしいのだけど?」
腕を組み、呆れたような顔でメリアは俺の方を見る。
「に、逃げてたんじゃないやい! 走りながら攻撃出来る範囲まで誘導してただけで……始めからそれも作戦の内だったの!!」
「一般より頭の悪いリーダーにそんな芸当が可能とも思えませんね……どこまでホントなのやら」
「まぁ、まぁ。ふたりとも、結果的にいい方向へいったんだからね! ね? 終わり良ければ全て良し」
雰囲気が悪くなりそうな手前でレイナが掌を胸の前に出してヒョコヒョコと動きながら二人の静止に入る。
もうすぐ王国の警備隊がリカルダを拘束しにやってくることを告げるとリカルダは抵抗しない意思を示して、
「――すぐそこに非常出口がある。そこを使って外へ出るといい」
「去る前に聞きたいことがあるの。この紋章と男に見覚えはあるかしら……?」
洋服のポケットから1枚の写真をメリアは取り出して盗賊に質問を投げかけ、少しの沈黙のあと口を開いた。
写真に写っている者は、三角形、ピラミッドの中央に眼が描かれていて果実の横に蛇の刺繍が描かれたコートを着用している二人組みの男性だった。
「理由は知らない……が、その紋章を持っている奴らを追うのは止めておけ。組織の名は――『アマネセル』優れた魔術師や異能力者で構成された天才集団。同時に殺戮を好む集まりで、全員が国家を転覆させられる程の力を有している――と人々から恐れられ危険視されているヤツらだ」
前に、冒険者ギルドでメリアに聞いたことをヒロアキは思い出した。
被害を生み出し惨劇を各地で引き起こしている――ある恐ろしい組織の行方を彼女は追う為に旅をしているということを――、
「他に質問がなければさっさと行け――じきに追手が来る」
「ええ、そうさせてもらうわ」
側にあった隠し扉から非常出口の階段を降り、途中何者かとすれ違ったが賊の手下ではなかったので気に留めず、歩いて盗賊団のアジトから俺達は塔の外へ脱出することができた。