第一章15『烈戦 火花散る死闘』
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――選手交代。名前を呼ばれたメリアは手首を軽くスナップさせる動作をすると一步前へ歩いて行く。
それを見て、先ほどまで楽しそうに戦っていた盗賊リカルダの表情が曇った。
「ケッ……なんだよ。次の相手は小娘か?つまらねェ…だから全員でかかってこいつってンだよ。 阿保が。まとめて殺してやるよ」
「つまらない小娘かどうか……試してみたらいいわ」
地面を蹴り、刃物を構えた盗賊のリカルダが懐へ飛び込んだ!
研ぎ澄まされた切っ先はメリアが魔法で生成した分厚い盾をくず紙のようにいともたやすく簡単に切断してみせると、魔術を使う為のエネルギーであるレノが粒子状になって消滅。
不敵な笑みを浮かべて――、
「なんだてめェ、魔法使いだったのか。 だが今までと同じだとは思わねェことだ、今度の武器は魔術耐性が施してある。 あらゆる状況に対応し、切り替えられるようにしておくのは殺しの基礎中の基礎だ」
「だから――、何?」
続けてリカルダが勢いよくをサーベル振り抜く!下から上段斜めの角度でリカルダはもう一方のサーベルを振るう。流れのある連続攻撃、
これをメリアは身を後ろへ傾けながら下ると攻撃の範囲から少し距離を離して回避し、
「残念だったな? 俺ぁ様々な種類の武器を使いこなせるよう特別な訓練を受けている」
「へぇ? ……でも、それだけじゃ勝てないわよ」
だが、メリアはその全てを紙一重でかわしリカルダが大振りの一撃を放った瞬間を狙って懐に潜り込み、
「っ!?」
「――――」
両手に持っていた刃の一本を蹴りで打ち上げた。
「だから言ったでしょう? 魔術耐性が施されている程度では、私は倒せないと――」
「体術まで心得てやがるとはなァ、あの短い時間の中でオレの攻撃をきり返してくるとはタダ者じゃねェとみた」
空高く飛んだ刃が折れて床へ落ちると金属が当たって耳を刺す甲高い音が響く。
少し体勢を崩してメリアはよろけたが、まだ攻撃をくらってはいない――、
一呼吸を整えてメリアは崩れた姿勢を直すと立ち上がった。
付け入る暇もないくらいの速い攻防を二度も見せつけられ、ただヒロアキは観ていることしかできなかった。
イカツイその殺人鬼みたいな風貌の盗賊は、チンピラとかその辺にいる不良とはワケが違う。
明らかにリカルダと名乗る盗賊は、裏の社会で生きてきたであろう何とも言えない雰囲気を漂わせる。
仲間や自分の命など軽くみている者の目をしていた。
盗賊の相手を任せている間にレイナとリーフィアは役割を分担して人質や奴隷達が収容されている檻の破壊を試みていた。
リカルダに気づかれる前に――、
「リーフィアちゃん。何とか出来そう?」
「――やってみます! 私も少しは皆さんのお役にたちたいので」
少しは魔術の知識を持っているらしく魔法を使って錠を壊して外へ出せないか。
リーフィアは呪文の詠唱を始める――、
「なぁ、俺にも何か手伝えることはないか?」
「そうだねぇ……うーん…ヒロアキは登ってきた塔の道を覚えてる? 巻き込まれたら大変だから捕まってた人達を別の場所へ避難させてくれないかな」
「……分かったよ。俺に良い考えがある」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「盗賊リカルダ、あなたが盗んだ物を返しなさい」
「――そいつは聞けねぇ相談だなァ……てめぇらにはここで死んでもらう」
再度、サーベルを構えながらリカルダは大きく踏み込み間合いを詰めてくる刺突、
「同じ技が通用するとでも思ったの?」
急に身体全体を左に反らして相手をよろめかせ、メリアは転じて、刺突による攻撃を軽くかわした。しかし、リカルダは追撃をおこなう。武器を空へ放り投げ回し蹴りを繰り出す!
「入ったァ! クソザコが、手ごたえあったぜ」
その重い一撃はメリアをふっ飛ばして土壁を粉砕しながらそのまま背後へ吹っ飛んだ彼女の身体は壁へと激突し、軽くめり込んだ。
大きな爆発音にその場にいた全員が反応する。土埃が上がり、中からメリアの立ち上がる人影が少しずつ現れた。
「――これが全力だとしたら拍子抜けね……賊の程度が知れるわ」
「馬鹿な?!無傷だと」
付いた埃を手で払うとメリアは伏せていた顔を上げる。
すると、瞬く間に彼女の両眼が本来の綺麗なブルーの瞳から黄金色に変わって輝いている。
王都でオオカミの魔族を退治した際に見た、あの時と同じ色をした眼だった。
「――大人しく返してもらえるような相手では無さそうね……少し荒いけれど、実力行使させてもらうわ」
「ほぅ……あれが噂に聞く『冥王眼』てめェがその持ち主だったとはなァ」
冥王眼
――瞳が発する力。
ある種族にのみ発現する特別な眼。
スピード、パワー、発動した者の身体能力を1段階上昇させることができる。
魔法やスキルとは異なる特殊体質のようなもの。
冒険者ランクやLvを上げただけでは取得することは不可能とされる貴重な業の種類の1つ。
常人では習得することが出来ない、いわゆる秘術。
「ご存知みたいね、説明する手間が省けたわ」
前にも瞳の色が変わるような現象を見たことがあった
ヒロアキの頭では何がなんだかわからない為、レイナに説明を求めた。
「めいおうがん、ってのは一体、何なんだ?」
「あれは、特別な種族のみ扱える秘術なの。魔法を使う時に消費するレノの総量は生まれつき決まっているのだけれど冥王眼は、発動した人間のパワーとか魔力の量、基礎身体能力を底上げしてくれる。これらの特異体質は、多くの場合血縁によって受け継がれるため、その体質を活かして繰り出す特殊な技を『血統神羅』と呼ばれているの」
実際に見てもらったほうが分かりやすい。
掌をメリアは上に向けるとメリアは右手から炎、左の指先から小さな雷を出現させてみせた。
「このように能力が発動している条件下でのみ、私は異なる属性の魔法を複数同時に、詠唱を破棄して扱うことができるのよ」
「や、やべぇつーか凄い現象なのは伝わったよ」
「――まぁ、知能が著しく低いリーダーにはちょっと早かったみたいですが」
「なにその言い方、すっげー傷付くんスけどメリアさん!?」
苦笑いを浮かべて俺は心の中でそっと誓う。(ぜってーいつかお前が恥ずかしくなって、顔を真っ赤に染めながら尊敬崩壊させてやるから)と、声には出さないけど言ってやった。
「御名答。だが、血統神羅を持つ者の恐ろしさはソコじゃあねェ――真に恐ろしいのは通常、何年、何十年と鍛錬をして得られる魔法の火・水・闇・光・風・雷と全ての系統の力を瞬時に扱えることだ」
「――もう一度警告するわ、盗んだ物を返して」
「オレたちゃ盗賊だ、強者も弱者も関係ねェ。 ――欲しいモンは力ずくで手に入れる」
「ゲスが――」
筋力強化 の魔法を詠唱し、自身に施すリカルダは猛スピードで加速しながら右ストレートを放つ!
しかし――メリアは既のところで回避しつつ、身体を屈めてリカルダの懐へ潜り込むとその土手っ腹へアッパーを食らわせた!!
「――あがッ!」
すかさずメリアは、手をかざして魔法陣を出現させる。そこから無数の氷柱を展開した。先端は小さく尖っていて、殺傷力はなく他の魔法に比べれば威力は少ないが相手に傷を付ける程度はある。
盗賊リカルダへ発射された氷柱は数本ほど命中し、残りは土壁へ激突した。
――パリン。
グラスが割れるような音を立てながら氷柱が当たった箇所から冷気が出ている。だが、リカルダにはかすり傷一つつけられていない。
「甘ぇつってんだよ! 図に乗んな小娘」
発生した冷気を利用して姿を潜めていたリカルダは拳を振り上げて背後から襲いかかる。
殴ると見せかけて片方の手には隠し持っていたナイフが握られていた。
刃がメリアの腹部に届くわずか数センチのところで、ひし形の魔法の盾を展開させて身を守った。
「チッ! バレてたか」
「――弱い者から強引に力でしか奪うことしかできない。 そんな知能しか持ち合わせていない 盗賊の考える小細工が通用するとでも思っていたの?」
相手の攻撃を防御しながら既に次の攻撃をする準備を整えていた。
魔法を使用する為に使う、練り始めていたレノに詠唱を加えて圧縮したエネルギーの弾丸をメリアは打ち出す。
感覚を空けながら遅れて放つ、無数の弾幕を掻い潜ってそれを横移動しながらリカルダは避けていく。
「相手は1人じゃないよ!」
攻める機会を伺っていたレイナが腰の剣を抜いて構えを取る。
魔法で炎を纏わせ、それぞれ左斜め垂直に斬りつける三連続の斬撃を放った。
屈んで姿勢を低くしてリカルダは隠していた鉄の盾を使って高速で繰り出された斬撃をガードする。
「防いでいなければ焼かれていた……あの剣士の女。てめえ、かなり高い練度の剣術の使い手のようだな」
鉄で出来た盾の表面は斬られた跡が残っていてその断面は黒く焼け焦げになっていた。
用が済んだとみるや持っていた盾を地面へ、リカルダは投げ捨てる。
「……『血統神羅』の持ち主の力はこんなもんじゃあねぇはずだ。この程度とは笑わせるな。 それとも仲間に被害がでねェよう、パワーを抑えているのか?」
「なら……」
一気に間合いを詰めるとメリアは盗賊に近づいて回し蹴りを食らわした!
大きく後ろへ吹き飛びそうになるリカルダだが、足に力を入れて体勢を整える。
「もし、もろにくらっていたら――コイツ……魔法による攻撃が主体だと思っていたが、まさか接近戦も出来るとは」
「盗人風情が魔法を扱えるとは驚きました」
――場面は変わって
破裂音と地響きにビビっていた小心者 ヒロアキなりに何か思い付いたようで、
「――レイナ、紙と何か文字が書けるモノ持ってないか?!」
「ふぇ?? うん。あるけど」
「頼む、あとで返す!少し貸してくれ」
少しの間黙り込んで考えたあと、ヒロアキはちり紙の上にペンで文字と図を書いてみせた。