第一章14『命を賭けた戦い』
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敵から攻撃を受ける直前――
体が無意識に動いていたと説明した方が言葉としては正しいだろう。
目の前で起こった事象と発動した能力に驚いてリアクションをとるのに1秒ほどの間と時間がかかった。
この異世界ドラグニアに来て、はじめて俺が身に付けた技と呼べるものだった。
本来なら触れた瞬間に起爆し炎と衝撃波で周囲を破壊してしまうはずのミサイルによる攻撃を見えない透明色のバリアがヒロアキの前に出現し、物理現象を無視して一旦、無力化し使用者、もしくは発動した対象の相手へ形や現象、威力はそのままに反射し、弾き返してしまった!
跳ね返ったミサイルは形や威力、現象は保った状態のまま盗賊の手下Aまで飛んでいくと奥の壁に当たって大きな音を立て爆発した。
視界が徐々に観えるようになる。
盗賊の手下Aは避けたのか爆風と衝撃で吹き飛ばられて床の上で気絶していた。
爆煙が晴れると巨大な穴が壁に空いている状態になっている。
「信じられない、いまのは本当に俺がやったのか…?」
「助かりました。油断していたら二人共やられていたところでしたね、リーダー………礼は言っておきます…一応、役立たずなりによくやったと褒めてあげます」
相変わらず変わりのない俺への辛辣なメリアの対応に若干、心に突き刺さったような感覚があったが……気にしないでおこう。(いつになったら警戒を解いて俺を認めてくれるのだろうか)
「今まで施錠されていた俺のスキル表が開放されて見れるようになってんだけど、名前はええっと…『反射竜王』だったか……このスキルに詳しいこととか何かメリアは知ってたりすんの?」
「――そんな効果のスキルや魔術の名称は聞いたことがありません。あなたが加入して来るまでレイナとは二人でずいぶん前から冒険者として活動してきましたが………わからない、何か特別な技能や職業などの類ではないかしら」
ブロンズランクの冒険者、メリアでさえ分からないモノとなるとそれ以上はどうすることもできない。
スキル一覧やツリー表を確認してみても能力と発動条件以外の文章は黒線で塗り潰されており、残念ながら読むことが出来なかった。
「これで俺もパーティーのリーダーとして役に立つことが出来そうといったところかな!」
「そうですか……先を急ぎますよ。こうしている間に盗賊たちが逃げる時間を与えることになってしまいますから」
爆破の影響でできた壁に空いた大穴は広い通りへ繋がっていてそこへ出るような設計になっていた。
「ほほう。あのレンガの壁はダミーで奥へ進めるってワケか」
「一見行き止まりのように見えますが、通常ではわからない仕掛けになっているということですね」
俺たちはさらに奥へと歩みを進めて行く。他の通路に比べかなり薄暗くなっており、足元も見えづらい。
滑らないよう土壁を伝って直進しながら歩いているとふと、右に人が1人分通れるような道を発見。気になったので灯りで照らしてみると微かだが足元に太陽光が差し込まれていることに気が付く。
独り先を行くメリアを余所に、
もっと奥に灯りを向けると怪しさ満天の古びた階段が下へと設置されている。どこへ繋がっているのだろうと不思議に思いはしたが、気をとられていると彼女の背を見失うかもしれないので、急いで後を追う。
突き当りまで進んだ箇所に固く閉ざされた怪しげな扉が1つだけそこにはあった。
「なんだなんだ?いかにもって感じじゃないか。いそうだよな、盗賊の親玉が」
「気を抜かないで、何が仕掛けられているか分かりません」
固く施錠された部分を外して俺達はおそるおそる、ゆっくりと扉を開けて内部へと入って行く、
「な――何だこれは」
目を背けたくなるような恐ろしいものだった。鉄格子の中に老弱男女が閉じ込められ軟禁されている状態、老人や若い男女に中には幼い子供の姿がある。逃げ出さないように足首を鉄球の付いた楔で繋がれて皆、動けなくされているようだ。
その数はざっと確認しただけでも四十人以上、下は幼児から上は老人までいる。一部の者は一様に目に光がない、体に暴行を受けた痕はないが顔は痩せこけている者ばかりで目は虚ろだ。
無気力に沈んでおり自我が感じられない。そしてみな正気ではない、虚ろな目は何も映しておらず、涎を垂らす口は犬のようにだらしなく開けられたままだ。
「狂ってる……なんて恐ろしいことを」
思わず口をついた感想だった。こんな劣悪な環境に閉じ込めて、正気でいられるはずがない。
「おそらくは皆、盗賊たちに誘拐されて連れて来られたのでしょう。早く救出してあげないと」
幼い女の子が今にも息絶えそうなほど酷くやせ細り、脱水症状を起こしてかなり衰弱している。
ヒロアキは鉄格子の僅かに空いていた隙間を使って持っていた水を飲ませてあげた。
「いま助けてあげるかんな!ほら、コレをお飲み。もう大丈夫だ」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん……助け…にきて…くれたの?」
一口、水を飲むと女の子の顔色が少し良くなっていた。この様子だとまともに食料も十分に与えられていない環境に置かれていたのだろうということはわかる。
「私たちは賊ではありません、あなた方の味方です。安心してください」
「どうもありがとう」
倒れている者、疲弊している者たちに持っていた食料や水を分け与えてあげる。
「――ワシにも少し分けてはくれぬかの」
からだ中傷だらけの年老いた男性が声をかけてきた
「ああ、もちろんいいぜ。まぁ数はそんなに持ってねぇし量は物足りないかもしれないけど」
「いやいや、有り難い。食べ物が口に出来るだけで十分じゃよ」
長方形のブロック状のチョコレートを手渡すと老人はそれを口に運ぶ、
「お礼にちょっとばかしじゃが奴らについての情報を教えてあげるよ」
「盗賊とその親玉について何か知ってんのか?!じぃさん」
これで、盗賊の尻尾を掴む手掛かりを得ることが出来るかもしれない――、ヒロアキは嬉しそうにして身を乗り出す。
「そう急かすでない、――ボスの名はリカルダ。数百人の盗賊を従え、その凶暴な性格で村中を恐怖に陥れた張本人。女子供や弱い立場の者を拐って奴隷として売りとばし、人間を道具として扱う極悪非道な人物じゃ」
「こりゃ、ひでぇ話しだな」
――と、その時。奴隷たちが軟禁された部屋全体に幼い女の子の泣き声がこだまする。
「えーん。お兄ちゃん達、たすけて!こわいよう」
「うるせぇクソガキ。言うことを聞かないとアタマぶち抜くぞ!⠀いいのか?」
声のした方向へ視線を向けると小さな女の子を片手で抱き寄せ、そのこめかみに拳銃を突きつけて大男が立っている。
「塔内に設置してある監視カメラを確認して来て見りゃ邪魔するネズミが湧いてるじゃあねぇか。ああァ?!」
「お前は何者だ」
「――俺様の名はリカルダ。人身売買に人殺し、金さえ貰えりゃ何でも殺る盗賊だァ!」
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――と、次の瞬間! 盗賊が引き金を引くよりも速く火を纏った魔法の弾丸が拳銃を撃ち落とした!
「ほい、間一髪ぅ」
「ご無事でしたか、皆さん」
どうにか別ルートを使って合流したレイナとリーフィアに助けられたようだ。
「ぐあッ!?」
盗賊の拳銃が弾かれ、その衝撃で彼は手から銃を落とす。
「チッ……なんだ!? 」
「私は『魔法剣士』そして、この剣は『対応した属性の魔法を剣に纏わせて飛ぶ斬撃を放つ』――」
レイナはそう言って自分の持っている剣の切先を盗賊に向けた。
「また一匹、ムシケラが現れやがったか」
ほんの少しの間盗賊が動揺した時に縛っていた腕の力が弱まり拘束が解かれ、小さな女の子をレイナは男の元から引き離すことに成功する!
「うえーん、怖かったよー」
「良し良し頑張ったね、もうダイジョブだからね。お姉ちゃん達が助けてあげる!」
女の子を抱き寄せ彼女の頭を優しく撫でてあげると、巻き込まれないようレイナは自分たちの後ろにいるように促す、
それを見ていた盗賊は腕を組んでイライラしている。
「ゴォうラァ! 人様の土地に入って暴れてるやつァ、どこの誰だ」
スビルカ王国の宝である竜神の兜を盗み取ったお前が言うセリフか?とも思ったが、ややこしくなりそうなので俺は指摘しないでおく。
その風貌は、盗賊の手下どもと同じバンダナを巻いて軍隊が着用する迷彩柄のジャケットを素肌の上から着こなし、柄の部分に大きな護拳があるタイプの軍用サーベルを片手に装備している。
盗賊というよりもチンピラや不良に近い見た目をした男が俺たちを睨みつけて立っていた。
盗賊にメリアが問いかけ、
「あなたの目的は何!どうしてこの様な行いを。――罪の意識はないのかしら」
「全く無ェな。弱ェくせに群れを作って怯えながら隠れて生きることしか出来ない奴らのことなんざ。今まさに、そこにいる奴隷共も一緒さ! 俺はヤツらを手助けをしてやったとすら思ってんだぜ? 命なんて小せェ小せェ。そんな分かりきったくだらねえ事聞くなよ」
「もういい、虫唾が走る。――お前の様な輩は反吐が出るわ」
怒りで顔を歪ませ、青い双瞳が睨むように盗賊を射抜く、
彼女がこんな表情をするのは久しぶりだ。正義感が人一倍あって犯罪者や非道な行いをする者はメリアが最も嫌いなものであり嫌悪感を抱く存在。――ヤツの一言が彼女の逆鱗に触れてしまった。その鬼気迫る顔に周囲の空間に緊張が走る。
「ここは私たちが相手をします。非戦闘員は離れて!」
「てめぇらを冥土に送る前にもう一度、名乗っておこう。オレの名が轟くようになァ。 ――オレ様の名はリカルダ。盗賊、趣味はオレを追ってきた思い上がった冒険者共を返り討ちにして晒してやることだ!」
空気を切り裂くようにサーベルを振りかぶり、刃を前方へ、
盗賊の攻撃を前に立ちふさがるのは女剣士のレイナだ。
「女だからって甘く見ないで」
「構えも良い、素人じゃあねぇな……少しは楽しめそうだ」
互いに鍔迫り合いの状態になり刃と激突し、甲高い音を立てた。いったり来たりの激しい攻防が繰り広げられる。
左右からくるサーベルの切り込みを一瞬でレイナは、先読みして自身の身体と脚を一歩引くように攻撃をいなした。
所詮は盗賊。サーベルが使えるといえベテランやプラチナ冒険者ほど剣術の使い手などではなく、その荒々しい戦闘スタイルを見るに恐らくは、我流で学んだものと推察することができる。
相手との距離を図りながらレイナは反撃の機会を伺う。そして、
――片手剣の三連撃を放つ!それは物凄い速さで繰り出される攻撃。軌跡は円弧線を描いて斬りつけた。
盗賊は斬撃をスレスレで回避するも二撃目がヒット、頬をかすめる。
「あ……がぁ!?」
よろめいた隙を見逃さず、更にもう一撃お見舞いする。
盗賊は胸部にダメージを受けて怯みを見せた。その隙をレイナが逃すはずもなく、素早いステップで接近して上段からの斬撃を見舞う。
「て、てめぇ!よくもやりやがったな!」
盗賊は怒り心頭、少しの間だけ反撃する思考を奪う。
――ズバッ!! と鈍い音が響いて盗賊は地面に膝から崩れるように倒れた。
「ほう、やるじゃねェか その動き…何処でソレを学んだ?」
「教えない。悪党に褒められても嬉しくないよね」
居合か剣道の達人のようなその剣技は、神業と表現した方が伝わりやすい。が、相手もさすがに戦闘慣れしていたようで決定的な一撃を与えるまでにはいかなかった。
「どうせなら全員まとめてかかってこいよ!それともなんだ、騎士道精神とやらがあんのかァ?」
「悪いケド、敵に手の内を明かしたりはしないの」
このクエストを受けるにあたって皆で決めていたことが3つある。
一つは帰還できるだけの体力を少しだけ残しておくこと、元いた場所へ帰れなくなってはクエストを達成出来たとしても意味が無い。
二つ、アジトへ潜入する際にもしも敵に捕まっていた人間が居たり人質にされている者がいた場合は慎重に行動し、人質の避難を先に優先する。万が一やむを得ず戦闘に入った場合は民間人をなるべく遠くへ避けたあとですること、要するに他者を巻き込まない。
そして三つ目は――、全員生きて帰ることだ
攻守が二転三転する凄まじい剣劇にヒロアキは息を飲む。
「これくらいでいいかな?そういう作戦だもんね」
体制を立て直して盗賊の間合いから離れ、レイナは後方へ一旦さがるとメリアに交代するサインを送る。