第一章13『異能の力』
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スビルカ王国の秘宝、竜神の兜を盗んだ盗賊が居る場所へ向かう途中の草原を、俺達は歩いていた。
周囲を警戒しつつ、進む。
少しの休憩以外は何時間も歩きっぱなしだ。
町で買った荷物は交代制で代わりながら背負う、リーフィアはまだ幼女なので長く持たせるワケにはいかないので俺が彼女の分まで多く持ってあげることにしている。
途中で食事休憩と休息を挟んで、地図を見ながら現在地と盗賊が潜んでいそうな洞窟の位置を照らし合わせる。
「ごしゅじん様」
「ん?どした」
すぐ横を歩いている奴隷で猫人族のリーフィアが、俺の服の裾を引っ張って何かを訴えるようにジェスチャーしている。
どうやら……おしっこを我慢していたらしい。
メリアとレイナに少し止まってもらうように説明するとリーフィアの脇を両手で抱えて木の陰に移動する。
その様子はまるで、お母さんが小さな娘をトイレに急いで連れて行ってあげている場面そのものだった。
衣服の紐でスボンが固く固定されているので解いてあげるとリーフィアは下着を脱いで小さく屈んで用を足す。
足し終わったら紙を添えて立ち上がって、リーフィアは当てながら紙で拭いた。
もちろんその間、俺は顔を伏せて一切何も観ていない。
襲い来る魔物の群れを倒しながら歩いていると反対方向から馬車を引いて何処かへ向かう商人とすれ違った。
「何か買いたい、売っているモノをみせてくれないか?」
「いらっしゃい、お兄さんここらじゃ見慣れない服装だね。なにが欲しい?」
荷台に掛けられているカーテンを開けると商品が置かれている棚があった。
どくがのナイフや護身用の盾、回復の薬。槍に、銅の剣、ボウガン等様々なものが陳列されている。
「そのポーションが欲しい。料金はいくら?」
「薬1つ1000ロギー、銀貨1枚です」
先ほど救急箱に入れていた消毒液を少し使ってしまったので補充しておきたかった。
にしてもポーション1つだけで銀貨1000ロギーは高過ぎる、近くの街なら1つ銅貨1枚の価格で買えるはずだ。
「おい、なんだコレはボッタクリじゃあないか」
「勘弁して下さい。ウチは各地を転々としながら商売してまして、これぐらいの値段設定にしないと生活できねェんですよ。近頃はなんでか知らないけど魔物が大量発生している時期でして物価も上がってんです」
うーん………これも魔族達が魔王とやらをふっかつさせようとしている影響だろうか。
はた迷惑なヤツらだ、平和に大人しくしていてほしいよ。
「仕方ないか」
少し不満だが盗賊との戦いに備えてポーションを20本分買っておくことにした。
きちんと料金を支払い終わると商人と別れて先へ進む。
その道中、俺達は大きな穴の空いた入口の塔らしき建物を見つける。
猫人族のリーフィアがクンクンと鼻を鳴らす、
「――ごしゅじん様。ここ一帯にひとが何人も出入りした形跡と臭いがあります」
「でかしたぞ!リーフィア、流石は俺の」
頬を染め、上目遣いで嬉しそうな顔をして俺に向ける。
「みんな気をつけて、盗賊たちかもしれない。嫌な感じがする」
「レイナは強いので大丈夫そうですが………そっちの男が心配ね。盗賊に殺されないように祈るといいわ」
「辛辣コメントどうも…」
「ごしゅじん様は私がお守りしますから!」
一行は塔の中へ入って盗賊の捜索を開始する。
中は明るく照らされていて、迷路のように入り組んだ造りになっている。
このようになっているのは正体を追ってきた者から盗んだ品を隠すためだろう。
「――ごしゅじん様。広すぎて探すのにかなり時間を要しそうですね、ここは二手に分かれて探しませんか?」
「私はリーフィアちゃんと左の通路から探すね」
「では……私はリーダーと反対を捜索しに行くことにするわ」
そろそろ名前で呼んでくれても、そう思いつつ俺達は分かれて同時に盗賊を捜索しに向かった。
俺とメリアは、しばらく進んでいると首なし騎士があらわれた!。
首なし騎士。
剣を持った鎧を着ている戦士の魔物で大きさは人間と同じかやや小さいくらい。
首から上が無く恐ろしい見た目をしている。
魔物の強さは生息している地域やレベルで異なっているらしく俺が出会った個体は少し弱い個体だった。
メリアと協力して倒していく。
魔物はバリエーションの違う色違いが存在しているそうで、他にも青い鎧を着た首なし騎士や黄金の鎧の首なし騎士が塔の周辺をウロウロと歩き周って見廻りしている。
「きっと侵入してくる者がいないか監視しているのでしょう。見つからないよう慎重に進むわ」
「ああ、いま来られたら面倒だから」
俺たちメリアは物音をなるべく立てないように奥へ、奥へと進んでいく。
階段を上がると扉の前にきていた。
どうぞ入って下さいと言わん様に施錠されておらず開いている。
まるで俺らが来るのを始めからわかっていたかのように、
「左右は壁で行き止まり、進むには入ってみるしかなさそうだ」
「魔物が飛び出してくるかもしれないわ……一応構えて」
恐る恐る部屋へ入ってみると、案の定彼女の言うとおりダークきのこの群れが3匹襲いかかってきた!
「ダークきのこは、別の生き物の頭に寄生して自分の手足のように操る魔物よ……その魔物のレベルや強さは大したことは無いけれど、寄生する対象に応じて力が変化するわ。魔物はもちろん、人間の肉体も乗っ取ることが可能とされているの」
「やべぇな油断しないよう注意しないと」
ダークきのこの伸びる触手がヒロアキへ迫る。
「ピギェェェェェェェェェェェェェェッ!」
「コイツにカラダ乗っ取られたら死んだのも同然じゃあねぇかよ! 最強の魔法で何とかして下さいよメリアさん」
攻撃された瞬間にその時点でジ・エンドが確定する。
ひたすらヒロアキは触手を避けるので精一杯だ。
音ゲーの譜面のリズムに合わせる様に触手の動きに合わせて素早くカラダを動かす。
ギリギリのラインでなんとか初見の触手の攻撃を俺は避ける。
付かず離れずの距离を保ちながら後ろへ下って回避した。
呪文とか一個でも覚えていたら少しは楽だったのだろうか。
一体いつになったら習得できるのか?俺は、ちょっとだけ後悔した。
その気持ち悪い見た目と嫌悪感を俺に与えてくるキノコを前にメリアの事をなぜだか思わずさん付けて呼んでしまうが、俺の応答にこたえてメリアが一歩前へ出た。
ハァ………とひとつため息をつくと装備している杖をメリアはかざす、
「……『トゥルエノイガ』!」
鋭い閃紅と共に魔物の群れの頭上へ落雷が直撃する!
魔物たちは完全に塵となり跡形もなく消滅した。
チームで活動している場合は、経験値が半分に分割されて振り分けられる。
今の戦闘で100ポイントの経験値を獲得、レベルが1上昇。
ヒロアキの冒険者Lvが8になった。
真っ直ぐ行って奥に突き当たった正面にもう一つ扉がある。
目の前の視界には人の姿は入っていないが気配を感じる。
そしてメリアが仕掛けた魔法のトラップが反応した。
1人、2人、全部で3人………。
頭にドクロのバンダナを巻いて手にサーベルを構えて握っている。
見るからにいかにも、イカツイ盗賊の手下って見た目をした男たちが行く手を阻む。
待ち伏せか。俺達の体力が減ってきたところを背後から奇襲するつもりだったのだろう……指示した者の正体は盗賊のおやぶん。
簡単に通させてくれる話がマトモに通じるような人間じゃあ無さそうだ。
尖った武器の刃ではない部分を舌で舐め、悪役らしいポージングで部下の1人が言い放つ、
「命が惜しければ黙ってここから立ち去れェ!そうすれば命だけはたすけてやる」
「無理な相談ですね………指示を下している輩はどこ」
「見るからに冒険者らしいが、テメェら雑魚に教えてやる筋合いはねぇな」
3人の手下が一斉に魔法の使い手であるメリアの方へ斬りかかる。
しかし、俺よりも遥かに戦闘の経験が豊富なメリアは相手の動きを先読みして攻撃を躱す――。
「その程度で…………仕留められると思われるなんて残念だわ」
先に強そうな者を警戒して処理しようとしたのだろうが、
何度サーベルを振っても刃はメリアにかすりもしない。
狙う相手を間違えたな。
メリアは姿勢を低くして盗賊の手下Cの懐に飛び込み腹へパンチを入れる。
その隙を狙って背後から襲ってくる盗賊の手下Bを背負投げでダウンさせ倒していく。
「あの小娘、魔法以外に接近戦………格闘もやれたのか?!聞いてねェぞ」
「――残るは1人……逃げ場はないわ。観念することね」
連れをやられて焦った盗賊の手下Aはマントの中から大型のバズーカを取り出して銃口を俺達へ向ける。
「このバズーカには、魔力を圧縮させた大火力の爆発する火薬が積まれている。コイツを近距離でくらえばテメェらでも終いだ!」
「ヤ………やばい……!」
直撃すればこの部屋ごと吹っ飛ぶ。
敵もろとも自爆するつもりなのか?!
この世界の魔力を圧縮させて使っているらしくバズーカの見た目こそ似ているが、俺の元いた世界の現代で使われていた近代的な兵器とは破壊力が何倍も桁違いらしい。
確かに、くらったらタダじゃ済まなそうだ。
発火と共にこちらへ弾頭が凄まじい速度で向かってくる。
当たってしまう………そう思われたその時、突如、見えない透明色のバリアが俺の前に出現してミサイルを跳ね返した!
そのままミサイルは盗賊の手下Aまで飛んでいき、奥の壁に当たって大きな音を立て爆発した。
視界が徐々に観えるようになる。
盗賊の手下Aの姿はない、
爆煙が晴れると巨大な穴が壁に空いていた。
………ピコンという効果音が鳴る。
ゴーレム討伐の際、落石から身を守ったあの業だった。
専用の特殊技能……『反射竜王』が使用可能になりました。
「大丈夫か?メリア。………これは一体」
特殊スキル『反射竜王』
上位技能の一種で相手の攻撃を反射し、そのダメージを対象へ移し逆転させる異能の力。発動条件はスキルの所有者に対して明確な殺意を持って攻撃してきた場合のみに発動。
弱点は、この能力はヒロアキの意思とは 無関係に自動で発動します。
なので無効化できない攻撃も一部存在するということ、が記されていた。
「ええ、無事よ」
「なんか獲得したみたいなんだ……メリアは知ってたりする?」
今まで錠の鎖でロックが掛けられていた俺のスキルツリーの画面が開放されていることに気がつく。
「これは俺がしたのか」
「攻撃を無力化して反射したというの?!……私でも見たことのないスキルです」
この異世界ドラグニアに来て、はじめて俺が身に付けた技と呼べるものだった。