第一章12『スビルカ王国と宝具』
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スビルカ王国の国王がいる城へ俺達4人は、招かれた。
「よく来た、ワシがスビルカ王国12代国王である!」
黒い髭を生やした小太りな外見の王様が国の紋章が入った玉座に座っている。
なんでこう、どこの国のヤツらも上から偉そうにしてるんだよ。
ファンタジーあるあるか、何かなのか?。
「おぬしらの噂は聞きおよんでおるぞよ。渓谷にいるゴーレムを倒したそうじゃな。なにやら魔王の復活を阻止するために旅をしておるそうな」
「ドラグニアとは別の世界から来ました。ヒロアキと申します」
深々と頭を下げて俺たちは1人ずつ自己紹介をするとスビルカ国王は話を続ける。
「別の世界とは、まさかおぬしは古より伝わる、異界の地より召喚された伝説の大英雄なのか?」
「……俺にも…わかりません」
「見た目からして余り強そうには思えぬのだが本当に別の世界とやらからきた者なのか?とても信じられん」
以前リーフィアも同じことを言っていたことがあった。
その大英雄とやらはそんなにすごいのか?伝説の竜と共に世界を救った人間って聞いたっぽいけど。
「ゴホン。では、ゴーレムを倒した実力のある、おぬしらに頼みがある!」
国王がひと息ついて渋い顔をして俺を見る。
疑っているのだろうか。
「――リカルダと名乗る盗賊が、この城から『竜神の兜』を奪って逃げて行ったのじゃ。臣下の者たちにも追うように命じたのだが………皆返り討ちにあい殺されてしまった」
国王は一瞬、俯向いて顔をしかめる。
そこにレイナが訪ねた。
「盗賊はどこへ向かったのか分かったりしますか?」
「うーむ…北東の方角にある洞窟へ潜伏しているという情報を耳にしたのじゃが詳しい事は……」
「人のモン奪った挙げ句に殺しは酷いな」
「盗賊リカルダ。レイナと2人で旅をしていた時に聞いた事があります、自身の目的の為にならどんな卑怯な手段も使う人物だとか」
王道ファンタジー小説やゲームじゃよくある敵役といったイメージだろう。
拐われた姫を救出してめでたしめでたし、的なシナリオじゃないかよ。
子供の頃にやったテレビゲームの物語の様で異世界ストーリーが本格化してきた。
やっと本筋に入ったみたいで俺はワクワクすっぞ。
「――『竜神の兜』を無事に取り戻せたならヒロアキ……そなたを強き者と認めようぞ! こうしとる間にも別の拠点へ逃げられてしまう……さぁ、ゆくのだ!」
なんか、スビルカ国王の勢いに言いくるめられた気がしたのが引っかかる。
メリアが小声で、王の命令を拒否したら極刑は免れないわ。とか物騒なことを言ってきたので俺は頼みを請け負うことにして場を納めた。
それから城を出た俺とメリア、レイナにリーフィアは、装備を整える為にアイテムを購入する為、町へと向かう。
「ヒロアキ、これからどうしよっかー」
「まずは足りない物を買って準備をしてから向おう」
「ごしゅじん様に賛成ですね」
「相手は盗賊、強敵よ。何をしてくるかわからない……抜かりのないよう念入りに策を立ててからターゲットの拠点へ行きましょう」
任された依頼の支度を終えた俺達は国を出て、沼地を進む。
ブクブクと俺の歩いている背後から泡が弾ける音が聞こえる。
レイナとメリアがサッと武器を構えた。
敵感知のスキルをリーフィアは発動させる。
可愛らしい頭部に生えているネコミミがピョコピョコと、レーダーのように動いた。
「……周囲に敵の反応多数、ごしゅじん様のすぐ近くです!」
沼地の中から人の手を形どったモンスター、キラーハンドが複数体ほど現れた!
泥で出来たキラーハンドの何本もの手がリーフィアの足を掴んで沼地へ引きずり込もうとして襲い掛かった。
「い、イヤーーーーーーッ!離して……ください」
俺の好みのタイプではない。小さな女の子は恋愛の対象外……だが、
幼女の生足を掌で掴んでいるとは、うらやま………けしからん。
俺の元いた世界でそんなことをしようものなら事案で警察に通報、逮捕されるぞ。
「リーフィアちゃんを離して!」
レイナは剣を魔物に突き刺すと魔物は消滅した。
俺もリーフィアを掴んでいる沼の手を引きちぎり彼女から引き剥がす。
その背後でメリアが攻撃呪文を唱えている。
「巻き添えをくらってしまう恐れがあるため、沼地から離れてください」
「任せた」
メリアは口上を唱えると宙に小さな氷の結晶のようなものが出現し、生み出されるに従ってがそれを中心に周りの温度が低下していく。
「皆、効果範囲外へ離れましたね 『スノーフリーズ』!」
凍てつく冷気が沼地を一瞬にして氷結させ、氷足場を形成した。
キラーハンドの群れが周りから次々に消滅していく。
「これで楽に進めるようになったな」
「ええ、先を急ぎましょう」
スビルカ国王の言っていた北東の方角にある洞窟へ足を進めていく。
途中、休憩がてら俺のステータスを確認してみることにした。
冒険者プレートに触れると宙に液晶のようなパネルが出現、俺の個人情報や現在のLvや冒険者ランクが映し出される。
もちろん指紋認証のような厳重なセキュリティで守られているため触れた本人以外からは閲覧することはできない。
「なぁ、メリアは呪文とかそこらへん詳しいだろ。俺に魔法は使えないのか?」
「この世界に産まれた者は全て例外なく、少量でもレノは体内に宿っているはず……修行すれば最弱レベル程度の魔法なら誰でも扱えるようになるわ。 それがどうかしましたか」
「いや、だからさ。こんだけ戦闘をやってんのに魔法1つも習得出来てないのはおかしくないか。ゴーレム戦でのバリアはどう説明するの?」
ステータス画面に表示されているスキルツリーの習得の画面を開いて見せる。
「なんかさぁ……覚えた魔法を観れる一覧の画面が俺のだけ鎖に繋がれて錠でロックされているみたいなんだけど」
「おかしいですね、戦闘経験を積んで冒険者のLvが上がればランクの上昇と同時に使用できる魔法も開放されていくはずですが……」
「ほら、以前ヒロアキは違う世界から来たって言ってたでしょう。私たちとは上昇するために必要な経験値の量が違うんじゃないかなー?」
「ごしゅじん様が、ゴーレムの攻撃を弾き返している場面を見ましたけどあの現象は魔法なのでしょうか?」
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道中、リーフィアはネコミミと尻尾をフリフリしながら機嫌が良いのか鼻歌を歌っている。
その歌がずっと俺の後ろから聞こえてくる。
耳がとろける、なんとも癒やされる良い歌だ。
聴き惚れていると茂みからオレンジスライムが5匹飛んでくる。
俺は咄嗟に持っていたナイフを構えて連続で突き刺した。
「ヒロアキ、もうすっかり手慣れてきたねー」
「初心者ランクのルーキーにしては良くやる方じゃないですか。まぁもっとも、これぐらいで喜んでいる様じゃパーティーを率いている隊長にしては情けないのには変わりないわ」
長旅の中でもメリアのツンデレぶりは尚も衰えず俺に向かって毒を吐いてくる。
異世界から来た俺をまだ警戒してんのか、当たり方がキツい。
もうちっとマシな言い方ってのはないのか?こうオブラートに包むとかさァ。
子供のリーフィアの足の疲労がきていたのか少し休憩を取ることにした。
「大丈夫か?リーフィア」
「はい、ごしゅじん様の期待にお応えするためならば…」
足の付け根部分が少し赤く腫れているのをリーフィアは必死に手で覆って隠そうとしている。
「無理するな。辛い時は言ってくれ」
「大丈夫です…まだ歩けますから」
「……どれ、少し見せて」
俺は冒険者用のリュックから救急箱を取り出して患部に消毒液をつける。
靴が擦れてしまったのだろうか、無理もない、彼女は俺に買われるまでの間に過酷な環境で過ごしてきたのだから。
こんな長距離の移動は幼い彼女にとってはキツいと思う。
「ごしゅじん様は、痛くないのですか?」
「ん? 元いた世界じゃ俺はパシリ扱いされて、たくさん走らされたからな。これぐらいは平気さ」
言葉の意味が分からないのかリーフィアは不思議そうな顔を俺に向けている。
「リーフィア、もう少し砕けた話方でもいいからな。堅苦しいのはどうも苦手で」
「俺とお前はもう仲間だ。そこに上も下の関係はねェからさ、せっかくだ気楽にいこうぜ」
「……うん! 感謝いたします。ごしゅじん様」
救急箱から包帯を取って治療した箇所に短く巻いてあげるとリーフィアは微笑む。
簡易的なレジャーシートを広げて俺は腰を掛ける。
小さい湯沸機に川から汲んできた水を入れて湯を沸かす。
水が沸騰したら、カップにコーヒーを淹れて仲間のパーティー全員に手渡した。
「ほら、これでも飲んで休憩しようぜ」
「くれるの?ありがとうー、ヒロアキ!」
「……無能な人間のクセに気が利くのね…………食べ物を粗末にするワケにはいかないわ。 いただきます」
ゴーレムの時以外、俺の目立った場面はまったくなかったけどよ。それにしてもつーか、やっぱりメリアは俺への風当たりだけ妙に強くないか?同性の2人にはフレンドリーに接してくれてるのに。
人間に対してヤケに差別意識というかそういった言葉をメリアの口からよく聞く事が多い。
俺が異界から来たってぇのが、彼女の中で突っ掛かりみたいなものがあるのか、それとも他にあって人間嫌いなのも何か強い理由があるのか……それは今の俺には分からない。
なんにせよ俺にしてやれることは仲間たちを信じてやることだけだ。
「レイナって空いてる時間はいつも剣の手入れをしているのか?」
「そだよー、いつ何時モンスターの群れが襲ってきてもいいように研ぎ澄ませてあるの♪」
頼もしいな。レイナは接近戦に魔法もこなせるし、なにより露頭に迷っていた俺を、仲間になって一緒に冒険しないかと最初に誘ってくれたのは彼女だった。
今も感謝している。
彼女達と出会わなければ、最初のパーティーから追放された状態のまま俺は一生………はぐれ転生者で異世界の生活をボッチで過ごす羽目になっていたのかもしれない。
俺も仲間たちの期待に応えられるように強くならなくては。