第一章11『A級討伐クエスト』
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目が覚めると、歯を磨いてシャワーに入り身体を清める。
武器屋のおっちゃんの店で買った冒険者用の服に着替え、受付で宿屋の主人に軽く会釈をすると、俺は外へ出た。
宿泊代は昨日に支払ってあるので心配はない。
――それにしても昨日は大変だった。
みんなが寝静まってから、ひとりで風呂に入ろうと思って風呂場に行くと身体を洗って入り終えたメリアと脱衣所で鉢合わせしちまうんだもんなぁ。
深夜に行ったのでまさか誰か居るとは思わない、アイツに殺されるかと思った。
この出来事については、時間があればまたの機会に話すとしようか。
裸体とかは見れなかったけど…。
スビルカ王国の城下町に足を運ぶと、冒険者ギルドへ入っていく。
「いろんな国に冒険者ギルドってあんだなァ」
内装や建物の造りは王都エリクトにあるギルドに似ていてわかりやすかったので初めて来た国なのに一目で冒険者ギルドの施設だという事が分かった。
「おはようございます、ごしゅじん様」
猫人族のリーフィアが俺に挨拶をしてくる。
「おはよう、リーフィア」
「おっはよー。ヒロアキ、今日もいい天気だねー」
レイナの明るく元気な声がギルドの広場に響く。
「遅いですよリーダー、もう皆とっくに集まって来ていましたけど。居なかったのはアナタだけ、5分前に行動するのは冒険者にとって基本よ」
「俺はまだ冒険者になったばかりだ」
相変わらずの俺に対する警戒心がすごい、彼女はまだ俺のことを嫌っているらしい。
そんなこんなで、全員が集まったので討伐クエストの依頼書を受付から持ってきた。
「なになに? ゴーレムの討伐クエストだね。報酬は金貨20枚だってー」
金貨20まい、俺の元いた世界のお金に換算したら20万円の大金じゃあねぇのか?! 今までの生きてきた人生で親からもこんな額の小遣い貰ったことないのに、うますぎる。
「ゴーレム……土やレンガで出来た動く人形の魔物です。金額が高めに設定されてますね、おそらく報酬に見合った強さの強敵ということでしょう」
「ごしゅじん様、私たちのレベルで倒せるでしょうか?」
「それは分からないけど、旅の資金を増やしたい。やってみるしかなさそうだ」
俺達は岩山に囲まれた渓谷へ向かった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「依頼書によると、ここに生息してるみたいだよ」
デカい岩と石に挟まれた狭い通路を通って討伐対象のいる場所へ歩いて行く。
RPGゲームとかによく出てくる遺跡みたいな場所だ。
「こんな場所に魔物なんて本当にいるのか?」
「いなければ依頼の張り紙なんて出さないと思いますが、隊長なのにそんな事も考えられないのかしら」
緊張してるパーティーのみんなを和ませようとしてやるところだったのにメリアめ、無愛想なやつだ。
と思って俺達は渓谷を進んでいると何かを探知したのかネコミミをピョコピョコと動かしながらリーフィアが少し上の方を指さして、
「あれは何でしょう、人のような魔物のような……」
「お……おい、なんだよありゃ」
てっきり泥人形のような雑魚モンスターの姿を想像していたが、目の前に現れた魔物に驚いて俺は度肝を抜かれる。
巨人――まさにその言葉が似合う程の大きな肉体に太い腕、高さ5メートルを超える身長と巨体のゴーレムが目の前に現れた!!
「みんな下がって一度距離をとって」
俺がパーティー全員に声をかける。
次の瞬間、ゴーレムの太く大きな腕から繰り出された一撃は渓谷の山の形のようになっている岩を粉砕した。
「人間があれをくらったらひとたまりもありません……私が注意を惹きつけますからその間、3人は避難してください」
「メリアはどうするんだ?」
「強力な魔法を使って倒せればいいのですが、周りを巻き込んでしまう可能性が……」
レイナが岩山に挟まれた壁と壁の間を交互にステップしながら踏んで飛んでいる。
そして岩山の上に移動すると丁度ゴーレムの真上にきた。
このまま、助走をつけながら飛び降りると大きく剣を振り下ろして雷を纏った斬撃を放った!
ゴーレムが気を取られ怯んでいる隙にメリアが魔法による攻撃を叩き込む。
「……『漆黒の弾丸』」
魔力を圧縮した弾丸を打ち出した。
無数の弾丸がゴーレムへ命中し、ダメージを与えた!
「これでは埒が明かない。決定打に欠けますね………仕方ありません、超上位魔法を使います」
魔力を温存してかつ、周りの仲間を気遣いながら戦闘する余裕が彼女にあったとは。
低いLv帯の冒険者とは感じられない。
「――俺より前にドラグニアにいて、多くのクエストもこなしているのにメリアが冒険者ランクを上げないのには理由があるのか?」
「英雄とか権力に興味は無いし、そっちの立場の方がいろいろと動きやすいからよ。気が向いたらやってみるわ」
過去に何度か昇格を勧められていたがチヤホヤされたり世間から縛られたりするのが嫌いらしいので蹴っていたとのこと。
「けれど冒険者ランクと本人の実力は比例しない例外の場合も存在する、Lvが低くても英雄や上位ランクと同じ強さを持った戦士も世界にはいる。ということは覚えておいて」
レイナとリーフィアが距離を取りながら援護してくれている。
「――メリア。あぶない!避けて」
ゴーレムが掴んで投げ飛ばしてきた、巨大な岩石がメリアへ向かってきていた。
俺の命くらいで仲間が助かるなら……彼女を後方へ突き飛ばして前に立ち塞がるような形でかばう。
――駄目かと思われたその時……飛来してきた岩石を突如、見えない透明のバリアが俺の前に出現して岩石を跳ね返した!
反射した岩石はゴーレムへ向かって放たれると胴体へ直撃して砕けた。
「俺が……やったのか今の」
「危ないところを助かったわ……ありがとう。しかしアナタから、借りが出来てしまいましたが」
メリアは不満そうな顔を俺に向けながらお礼をのべる。
「メリアさん。今のウチに」
リーフィアが動きを封じる魔法で足止めをしてくれている。
彼女の合図に続いてメリアが詠唱を唱えた。
「――ウィンドテンペスタ!!」
対象の足元から大型の竜巻を出現させゴーレムを攻撃、竜巻は円を描いてゴーレムを切り裂くとドーム状のエネルギーとなって激しい轟音と共に爆発した!
土煙が治まると、そこにゴーレムの姿は無く地面にクレーターの跡だけが残っていた。
対象の魔物は跡形もなく消し飛んだようだった。
「やったね。メリア!」
「まぁ……当然です」
「今回はちょっとだけ俺も活躍したぜ。終わったし、帰ろうか」
「はい、ごしゅじん様。空が暗くなる前にスビルカ王国へ戻りましょう。皆さん」
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「確かに承りました。A級討伐クエストのクリア、おめでとうございます。お疲れ様でした」
冒険者ギルドの受付へ報告を終えた俺は報酬を受け取る。
俺の元いた世界のお金に換算したら20万円の大金、流石に1日だけで稼げる額にしては破格過ぎだ。
この冒険者プレートは倒したモンスターの種類や討伐数、これまで受けたクエスト、冒険者のランク。
現在の職業やLvが細かく記載される。
プレートは各国が運営しているギルドの受付で最新の情報へ書き換えて更新してもらえるシステムで、盗難などにあった際は情報の詳細が開示されず書いてあるモノが所有者の本人でないと見えないような特殊な魔法が施されているのでセキュリティ面は安全になっている。
万が一、知らない土地や場所で冒険者プレートを落としてしまっても再発行も可能で不安になる心配はない。
「あの時、ゴーレムの攻撃を跳ね返したように見えたが何だったんだろう。スキルはまだ1つも覚えてないはず……」
ポツリと俺は心の中で呟く。
自動で習得してくれる機能でもあるのか?とも思って自分のプレートを確認して観ても何も記載されてはいない。
魔法使いでもないし呪文でもない、メリアかリーフィアの補助魔法か何かだったのか?けれど、あの時点で掛けてもらった記憶はない。
討伐もこなして経験値も少しは入っているはず、俺のステータス欄の数値が多少は上がっているが、あまり強くなった実感は無い。
攻撃から身を守ってくれたあの現象はなんだったのか考えていると受付の人が話しかけてきた。
「――なにやらヒロアキ様御一行宛てに招待状が届いておりますが」
冒険者ギルドの受付の人が封筒を手渡してくれた。
中身を確認してみると、次のようなことが書かれていた。
A級討伐クエストの成功、おめでとう。
巨大ゴーレムを討伐してくれた諸君らの実力を見込んで頼みたいことがある。
詳しく話をする場を設けたい………諸君ら冒険者パーティー全員を我が城へ招待しよう。
――スビルカ国王。
「ごしゅじん様、これは」
「行ってみるしかなさそうだな」
送り主は俺達が居るスビルカ王国の城を統べる国王からの手紙と城への招待状が入っていた。
俺達4人は王国にそびえ建っている大きな城へ向かって足を進めた。