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不死者の王

 次に視界を取り戻した時、ファジルを取り囲む景色は王都オルシュタットの賑やかな街並みから一変していた。薄黄色の砂塵が風に乗って舞い、足元の大地は乾ききってひび割れている。遠くには荒廃したように見える山々が、ぼんやりと霞んで見えていた。


 舞い上がる砂塵が喉を刺すようで、ファジルは思わず口元を手で覆った。


 エクセラたちは?

 ファジルは反射的に周囲を見渡した。師匠のジアスや黒装束の者たちも含めて、エクセラたち全員の姿が視界に入ってくる。


「ここは……どこだ?」


「分かるわけないでしょう。強制的に魔法陣で集団転移をさせられたのよ!」


 エクセラが苛立ったような声を上げる。

 

 集団転移。

 聞いたことがない。そんなことが可能なのだろうか。


 そんな疑問が顔に出ていたのだろう。ファジルの顔を見てエクセラが再び口を開いた。


「私だって聞いたことがないわよ。事前に念入りな準備をすれば可能なんでしょうけど、あの瞬間で全員を転移させるなんてね」


「あの銀色の物、魔導具でしょうね」


 エディが一歩踏み出すとそう言った。


「……魔導具って、噂でしか聞いたことがないわよ? 国宝級の宝物じゃない」


 エクセラは信じられないといった顔をしている。


「そうですね。そしてそんな物を何故、この者たちが持っているのか……」


 エディはそう言うと、仮面と手袋を外して大地に放り投げた。不死者の証でもある白骨姿がそれで顕わになる。


 その姿を見て、正面で対峙しているジアスの片眉がわずかに動いたようだった。


 エディの姿で、ただの白骨と違う点が一つだけある。双眸は底知れぬ闇のように黒く塗りつぶされていて、その中心に赤く光る小さな光源かあることだ。


 その光がきらりと瞬いたような気がした。


「不死者の王として、訊きたいことがたくさんあるようですね。もっとも、このお師匠さんが素直に教えてくれるとも思えませんが」


 エディの言葉にジアスは顔を顰めて口を開いた。


「不死者の王? 意味が分からんぞ。何なんだ、この骸骨は? お師匠さんって、俺はこの骸骨の師匠なんかじゃないぞ? それに随分と上から目線なようだな」


 ファジルとしても、ジアスの言葉には大いに同意するところだった。


 エディって不死者の王だったのか?

 そんな話、聞いたこともないぞ。まさか自称じゃないよな?

 仮に自称だとしても王を名乗るなんて、随分と大きく出たものだとファジルは思う。


「さて、仕切り直しだ。ここなら人の目を気にする必要はない」


 ジアスが長剣を構えた。ファジルに向けられたその顔には、やはり冗談や脅しの類など一切ありはしなかった。


 やはり自分もいい加減に覚悟を決めなければいけない。

 ファジルがそう思って獅子王の剣を構えた時だった。その横にエディが静かに立った。


「エクセラさんはガイさんの援護をお願いします。私はこの男に訊きたいことがありますので……」


 いつものふざけたおっさん骸骨の響きがその口調にはなかった。


 エクセラもファジルと同じで、いつもとは違うエディを感じとったようだった。何かを言いかけたエクセラだったが、珍しく口を閉じて無言で素直に頷いた。


「訊きたい? やはり上から目線の骸骨だな。骸骨がでてきたところで、これ以上は何かを言うつもりはないがな。それとも魔導士が多いからって有利だと思っているのか? 近接戦で魔導士など役に立ちはしない」


 その言葉とともに、ジアスの長剣が風を裂きいて水平に鋭く薙ぎ払われた。。


 速い。

 自分に向けてではなくて、隣のエディを目掛けてだったため、ファジルの反応が一歩遅れる。ジアスの突きを弾こうにも間に合わなかった。


「エディ!」


 ファジルが思わず叫んだ瞬間だった。エディの指先が素早く空中をなぞる。すると、青白い光が滲み出し、淡い輝きを帯びた防御壁が瞬時に形成される。ジアスが放った長剣がそれに触れた瞬間、甲高い音を立てて弾かれた。


「ほえー? こんなに短い時間で防御壁を展開できるなんて、エディは凄いのですー」


「まあ事前の準備が必要ですがね」


 カリンの驚いたような口調の言葉にエディが謙遜するように答えている。


「カリンさんは防御に回ってくださいね。私はファジルさんと攻撃に集中しますので。もっとも、私はファジルさんの背後から魔法を撃つだけですが……」


 言葉尻に苦笑の響きがある。骸骨だから表情などはないのだが、それがあれば苦笑を浮かべているのかもしれない。

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