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師匠

「ガイ、カリンを!」


 ファジルは短くそれだけを言う。エディは自力で何とかするだろう。何といっても不死者のおっさん骸骨なのだから。


「え? えっ?」


 急に飛びかかってきたファジルに対して、エクセラが驚いたような叫び声を上げた。


 座っていたエクセラの腰に飛びついたファジルは、そのまま顔が彼女の豊かな胸に包まれてしまう。


 ……わざとじゃないので、勘弁してほしい。

 ファジルが心の中でそう詫びた瞬間、部屋の右手にあった壁が爆音とともに弾け飛んだ。


 エクセラに覆い被さるようにして床に転がったファジルの体を壁の破片が打ちつけてくる。


 ファジルの下でエクセラが目を白黒とさせていた。そんな顔をすると、いつもより少し幼く見えて可愛らしい。


 そんな場違いの感想を抱きながら、頭を上げてファジルは周囲を見渡した。土煙でファジルの視界はまだ不明瞭だ。それに邪魔をされてカリンやガイ、そしてエディの姿も見えない。


 魔力の高まりは感じなかったが、魔法の直撃だったのだろうか。だが、そのような高まりがあれば真っ先に、エクセラやエディが気づいていてもおかしくないはずだった。


「カリン、ガイ、エディ!」


 立ちこめる土煙の中でファジルは声を張り上げる。


「大丈夫だ。カリンも問題ない」


「私も無事ですね」


 ガイとエディからの返答がある。大きな心配はしていなかったが、やはり無事だと聞けば安堵するものがある。


 エクセラもファジルの体の下で、もぞもぞと動いている。こちらも問題ないようだった。エクセラの顔が、なぜか赤くなっているような気がする。もう既に怒っているのだろうか。


 ファジルがそんなことを考えていると、土煙の向こうでガイが声を張り上げた。


「また来るぞ。部屋の中では不利だ。外に出るぞ!」


 確かにどこから何の攻撃を受けているのかも分からなく、ましてやこの土煙で視界を奪われていてはどうにもならない。ガイの言う通りだった。狭い室内では剣も振り回せないだろう。


「分かった。エクセラ、俺から離れるなよ!」


 エクセラの返事も聞かないままでファジルは立ち上がると、彼女の片手を掴んでそのまま部屋を飛び出した。部屋は二階にあって、部屋を出るとすぐに階下に繋がる階段がある。


 部屋を飛び出した廊下では爆発を伴った急な騒音や揺れで、何事かと宿屋の人や宿泊客が右往左往している。


「狙われているのは俺たちだ。部屋に入ってろ! 巻き添えを喰らうぞ!」


 ファジルは声を張り上げた。ファジルの必死な形相に事情は分からないが、巻き添えはごめんだとばかりに次々と人が部屋に消えて行く。


 ファジルはそれらを見送った後、階段を駆け降りる。その間もエクセラの片手はしっかりと握っている。


 背後を振り返る余裕はないが、エクセラも必死について来ているはずだ。エクセラだけではない。ガイやカリン、そしてエディも後に続いているはずだった。


 一階に降り立って、宿屋の扉に手をかけた瞬間だった。再びファジルの背中に鋭い悪寒が走る。


 それを感じた瞬間、ファジルは背後のエクセラの腕を強く引いて、彼女を両手で抱えて床を転がった。。


 その瞬間、木製の扉が粉々に吹き飛んだ。エクセラを抱えて床を転がったファジルは、背後で彼女を庇いながら片膝立ちとなる。


 粉々に吹き飛び、無残に空いた空間から姿を現したのは、アルギタで遭遇した黒装束の男だった。もっとも、装いが同じなだけで同一人物なのかは分からない。だが、同一人物なのだろうとファジルは直感で思う。


「ほう……こいつも避けるか」


 間違いなく聞き覚えがある声だった。認めたくなくて、あまり考えないようにはしていたが、そうだろうという覚悟も既にしていた。


 ファジルはゆっくりと口を開いて言葉を紡ぐ。


「……ジアス師匠」


 黒装束の男は答えない。だが、その声は間違いなく、ファジルに村で剣を教えたジアスのものだった。

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