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蔵書室

「まあ、人それぞれじゃろうからな。いずれにせよ先程も言ったように、蔵書室への出入りは自由じゃ。気の済むまでエクセラの探求心を満たすがよいじゃろうて」


 ほっほっほっほと笑って、マウリカは顎の白い髭をなでながら更に言葉を続けた。


「調べて分かったこと。それを最後に教えてもらおうかのう。エクセラほどではないのかもしれんが、私にもまだまだ探究心というものはあるようじゃ。バルディアで使われた魔法。その原理に私も興味が出てきたようじゃ」


 ……興味があるのなら、自分で調べればいいのに。

ファジルは内心で呟いた。


「承知しました。マウリカ先生。我儘を聞いてくださってありがとうございました」


 エクセラが改めて頭を下げている。ファジルもそれにつられて再び頭を下げる。


 その頭上ではマウリカの笑い声、ほっほっほっほが聞こえていた。





 「思っていた以上に広いんだが……」


 それがファジルの素直な感想だった。天井まで届く本棚が迷路のように並び、その隙間に通路が広がっていた。


 棚にある本の中にはかなり古びた背表紙のものも散見された。古今東西のものが集まっていると言っても過言ではないのかもしれない。


 所々には机が置かれていて、魔法学院の生徒なのだろう。まばらだが机に向かっている人の姿もある。


 古びた紙の匂いが漂い、時折本をめくる音だけが静寂を破る。王立魔法学院という厳格な背景もあって、この空間全体がまるで時間そのものを封じ込めたような雰囲気を醸し出していた。


「これ、全部が本なのか?」


 自分で言っていて当たり前だろうと思いながらも、ファジルは思わずそう言ってしまう。


「王国中の本があるとは言わないけど、他では見られない貴重な本もたくさんあるのよね。そうなるとこれぐらいの量になるみたいよ」


「それにしても、これだけの本から知りたいことを見つけるのは難しいだろう」


「まあ、ある程度は体系立てて置いているのだけれど……」


 エクセラが言い淀むと、それまでは珍しく黙したままでいたエディが口を開いた。


「エクセラさんが言っていたように、バルディアで使用された魔法が炎系魔法ではない。それは間違いないでしょうね。発動された魔法は、おそらく召喚系の魔法かと」


「召喚系ね……なるほど。一理、あるわね」


 魔法のことがまるで分からないファジルには、何がなるほどなのか、さっぱり分からない。いや、そもそも召喚系という言葉からして謎だ。


 魔法は魔法だろうと思うし、分かることはエディのくせに何だか生意気だということぐらいだ。


「でも、召喚系の魔法ってそのほとんどが古に失われたのよね?」


 エクセラが考え込む様子をみせながら言う。


「膨大な魔力を必要とする魔法ばかりで、実用性には乏しいですからね。ですが、現存している魔法もいくつかありますよ。転移系の魔法も召喚系魔法の一種ですので」


「そうだったのね。やっぱりエディ、ただの骸骨じゃないわね。あなたの知識、侮れないわ」


 エクセラに称賛されて何だかエディが誇らしげだ。仮面をつけているし、そもそも骸骨なのだから表情なんて分からないのだけれども。


「人族の中では廃れていった魔法が、あちらでは独自に進化していった可能性が高いのかもしれませんね」


「なるほど、その線から調べてみましょう。その過程で、あちらに関する何か手がかりが掴めるかもしれないわね」


 あちらとは魔族のことを指しているのだろうとファジルは思う。しかしこれだけ本があるのだから、魔族ってこんな種族なんですよといった本があるような気もする。どうなのだろうか?


 だけれども、それを口にすると怒られそうな気がするとファジルは思う。幼馴染みである赤毛のこの娘は何かと凶暴なのだ。


 そんなことを考えていたファジルにエクセラが深緑色の瞳を向けた。


「退屈したら散歩でもしてきたら? 中庭には綺麗な噴水があるのよ。気分転換にちょうどいいと思うわ。調べ物は私とエディに任せてくれていいのよ。どうせファジルには、本で調べ物なんて向いてないでしょう?」


 はあとばかりにファジルは頷く。でも、どうせって何だよと少しだけ思ったりもする。せめてもう少し言い方があるだろう。もっとも言われたことに間違いはないと自分でも思うのだったが。

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