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応援

 そう考えていた時、視界の先に村が映る。


「ほら、エクセラ、やっと村が見えてきたぞ」


「そりゃあ、歩いていれば村にだって着くでしょうよ」


 エクセラが取りつく島もないようなことを言う。彼女はまだまだお怒りのようだった。


「そう言うなって。村があれば宿屋がある。お風呂にも入れるぞ」


 ……宿屋があるのか、よく知らないけど。

 ファジルは心の中で呟く。


 お風呂。

 その言葉にエクセラは忽ち上機嫌となったようだ。


「さあ、行くわよ!」


 妙な節をつけた鼻歌とともにエクセラが先頭を切って歩き始めた。


 機嫌がよくなったエクセラを見てファジルは安堵の溜息を少しだけついた。幼馴染みだから庇うわけではないのだが、エクセラは決して悪い娘ではないのだ。


 少しだけ素直に感情を表に出すだけだ。

 ……小さい頃から叩かれた記憶しかないけども。


 そんなことを思いながら、ファジルはカリンに茶色の瞳を向けた。カリンの様子を見る限りでは、エクセラに言われたことなどは気にしていないようだった。背中の白い羽を揺らしながら、とことこと歩いている。


 ファジルの視線に気がついてカリンが、こてっと首を傾げた。何でしょうといった感じだ。


 ……やっぱり、可愛い。何だか鼻血が出そうだ。


「えへへ、そんなに顔を見るのは止めるんですよー。何だか恥ずかしいのです」


 カリンはそう言って、少しだけ顔を赤らめたようだった。


「ファジルは何で旅をしているんですかー?」


 何で旅を……。


 子供とはいえ否定されたり、馬鹿にされるのは嫌だなとの思いが一瞬だけファジルの脳裏をよぎった。しかし、嘘をつくようなことでもない。


「何て言うか、俺は勇者になりたいんだ」


 ファジルはそう言うと、再び慌てて口を開いた。


「もちろん、勇者になれないことなんて分かっているんだけどな」


「ほえー。勇者ですかー。凄いのです。かっちょいいのですー」


 カリンか青い目を丸くしている。


「ちょっと、そこの天使、あまりファジルを調子に乗らせないでよ。勇者になれないのは分かっているけど、勇者になりたいだなんて意味が分からないんだから」


 エクセラが背後を振り返って、ファジルの言葉を一刀両断にしてみせた。そう真正面から言われてしまうと、やはり流石に凹む。


「ほえー?」


 しかし、カリンは首を傾げている。どうやらエクセラの言ったことが今ひとつ分からないようだった。


「でも、勇者になりたいなんて格好いいのですー。ぼくもファジルが勇者になるお手伝いをするんですー」


 カリンが片手を挙げて、ぴょんぴょんと跳ねる。それに合わせて金色の髪が宙を舞う。何とも愛らしい姿だ。心が洗われる気がする。


「はあ? カリン、私の言ってることを聞いてたの? 勇者になんてなれるわけがないでしょう」


「ほえー? じゃあエクセラはファジルの応援をしないんですかー? 冷たいのですー」


 カリンは不思議そうな顔をしてみせた。


「そ、それはもちろん応援はするわよ。ファジルのことなんだから!」


 カリンのそんな顔を見てエクセラは慌てた様子で口を開いた。


「じゃあ、僕と一緒に応援するんですよー」


「違うわよ! 応援とかそういう話じゃなくて……」


 何だかよく分からないことで、エクセラとカリンが再び言い合いになっているようだった。

 それに自分のことだと何でエクセラが応援するのかもファジルにはよく分からない。


 よく分からないので二人の話は放っておいて、ファジルは前方を指さした。


「ほら二人とも、もう村に着くぞ」


 視界にある村はさして大きな村には見えなかった。ファジルはエクセラに茶色の瞳を向けた。


「エクセラはこの村、知っているか?」


 エクセラは赤色の頭を左右に振った。


「流石にこんな小さい村は聞いたことがないわよ。この先にはもっと大きな街、ウィルポートがあるのは知っているけど」


「ほえー。静かな村なのですー」


 カリンが感嘆の声を上げている。確かに物静かな村だった。人の気配がないわけではなかったが、ひっそりという言葉がそのまま似合う雰囲気を醸し出していた。

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