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捨てられた犬みたいな顔

 結局、衛兵に行った報告において、エクセラが懸念していたようなことは何も起こらなかった。外側から明らかに割れている窓硝子といい、外から室内に何者かが侵入してきたことには疑う余地がなかったこともあるのだろう。


 また、窓硝子を派手に割って侵入する全身が黒ずくめの男を見たという目撃情報があったのも大きかった。ガイに言わせると白昼であんな目立つ格好をしていれば、誰かに見られるのも当然だというところらしい。


 もっともエディが言うには彼らの目的は目立つ、目立たないではなくて正体を隠すことが目的なのだろうということだった。エディ自身も骸骨の体を隠すためにやたらに目立つ奇妙な仮面を被っているので、彼らの気持ちが分かるのかもしれない。


 もっともファジルとしてはだからと言って、目立つ必要はどこにもないのではとも思うのだったが。


 またあの襲撃者たちと衛兵。それらを辿っていくと同じ支配階級に繋がると言った話。それが本当であったとしても、やはりその末端である彼らが横の連携を取っていることはないようだった。


 実際に横の連携が取られていれば、衛兵たちに言いがかりに近いような理由でファジルたちは捕えられていたのだろうから。その辺りもエディの見立て通りのようだった。もっとも、あのふざけたおっさん骸骨の見立て通りだと思うと、ファジルとしては何となく面白くない。


 今、ファジルは寝台の上で寝転がりながら、様々なことに考えを巡らせていた。元来、考えるのは好きではないし、得意でもないとの自覚がある。


 しかし、ここまで状況が考えてもいない方向にきてしまったので、整理する必要があると思ったのだ。それにしても考えることが多すぎるのだとファジルは思う。


 カリンとエディは連れ立って外に遊びに行っており、ガイは鍛錬だと言って同じく外に出で行った。なので、部屋には無言で先刻から魔導書をめくっているエクセラとファジルしかいない。


 その静寂の中でファジルは頭の整理も兼ねて、事象を順序立てて考えていくことにする。


 勇者になりたくて村を出た。

 火蜥蜴を退治した。

 今の実力では黒竜に敵わなかった。

 ……正確に言えば、敵いそうもなかった。

 勇者の敵は魔獣や魔族なので魔族について調べることにした。

 魔族について調べ始めたら、若者に襲われた。

 若者は仲間らしき男たちに殺された。

 殺した男たちは、ファジルたちに魔族について調べるなと忠告めいたことを言った。


 ……何のこっちゃ。

 

 事柄を並べてみたが、その事柄を再認識しただけで、そこから何かが分かるとは思えなかった。


 それに、あの匂いも気になるとファジルは思う。エクセラたちは気がついていなかったようだが、あれは間違いなく酒の匂いだった。

 

 昼間から派手に酒の匂いをさせている者なんて、ファジルの周りで思い当たるものは彼しかいなかった。もちろん、それだけで黒ずくめの一人が彼だと決めつけるつもりはない。ただ背格好といい、あの短剣を構えた姿といい……。


 そこまで考えてファジルはごくりと唾を飲み込んだ。あまり考えたくないことだった。それに確証もないのに決めつけることはよくないとも思う。


 ファジルは茶色の瞳を机で魔導書をめくっているエクセラに向けた。エクセラはそんなファジルの視線に気がついたようでファジルに深緑色の瞳を向けてくる。


 エクセラはファジルの顔を見ると、訝しげな顔をしてみせた。


「急にどうしたの? まるで捨てられた犬みたいな顔をしているわよ」


 その言葉を聞いて、自分はどんな顔をしていたのだろうかとファジルは思う。


「……あの時のお酒の匂いを気にしているのね」


 その言葉を聞いて、気がついていたのかとファジルは思う。エクセラは椅子の上で軽く伸びをして、更に言葉を続けた。そんな姿勢をされるとエクセラのたわわな胸が強調される気がしたが、ファジルはそれに気がつかないふりをすることに決める。


「ファジルもきっと気がついているだろうなって思っていたのだけれどね。そもそも、私なんかよりも付き合いが長いわけだし」

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